科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析の変更 検査業務量の増大にならなければいいが…

斎藤 勲

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2019年9月20日、厚労省から「残留農薬等の分析に係る検体の留意事項について」という通知が出た。びわ、すいか、メロン類果実及びまくわうりについて、検査部位を変更するので注意してくださいという事務連絡である。従来は皮を検査部位に含まなかったが、今後は全果でというものである。

同じ日に告示された規格基準の一部改正では、一例として殺虫剤シアントラニリプロールの適用拡大を見てみると、すいか、メロン類果実、みかん、ももについて従来は皮を含まない分析部位が(外)果皮を含む、果皮及び種子を含むに変更された。

みかんの場合0.1ppmが0.7 ppm、すいかは0.02 ppmが0.3 ppmと、農薬は外側に残留が多いのでそれを反映して、基準値も変更されている。実際の食べる部分はこの基準値より低いものが多くほとんどが「検出せず(ND)」という検査結果だろう。何が起こっているのか?

実は昨年から、厚労省はコーデックス基準との不整合を解消する目的から、みかん、びわ、もも、キウィー、すいか、まくわうり、メロン類果実について、従来の日本的分析部位(みかんの皮をむいて食べる)から、コーデックスの検査部位に合わせて基準値を設定する方法で、昨年末からの薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会の審議品目から適用されている。

その結果、9月20日の告示で、シアントラニリプロール等のみかんやすいかの基準が全果で行った時の基準値の設定となった。グローバル時代に合わせた残留農薬規格基準のハーモナイゼーションということで、素晴らしいことである。しかし、一部の方は戸惑ったり嘆いたりしている。それは検査担当者である。

検査部位のハーモナイゼーションは始まったばかりである。ということは、みかん、スイカ、メロン、ビワ、もも、では検査部位が二分化する状態がしばらく続くことになる。みかんでは従来基準農薬は皮をむいて検査、スイカなども食べる部分を検査、新しい基準になった農薬は皮ごと検査部位となる。みかんやスイカ、メロン、ももが来たらどうする?
以前、FOOCOMで「モモの皮、むくべきか、むかざるべきか、防かび剤ではそれが問題だ (2018年10月24日)」で紹介したが、防カビ剤の検査部位は海外の状況(防カビ剤の仕様は海外が主)を踏まえ、皮ごとの基準が既に採用されている。

どうするか?答えは一つ。やるしかない。何を?
みかんが来ました。皮をむきます。皮の全重量、身の全重量を測定します。それぞれの検査を行います。得られた検査結果に重量割合で係数をかけ全体の数値を計算して基準値と比較判定します。スイカも従来捨てていた厚い皮を捨てないで、重量をはかり検査して、同様に重量比の係数をかけて全体の検査結果を出します。年間600検体農薬検査していたところは、場所によっては900検体、1200検体行うことになり、業務量は単純に1.5倍、2倍になります。

1日に処理する数が1.5倍、2倍になると機械や装置、人手も必要なるかもしれない。でも検査結果判定は同じだから検査料金は据え置きだろう。ぎりぎりのコストで運営しているところは、ただでさえ依頼検査が減っている中、もうやめようかと思うところも出てくるかもしれない。

暗い話ばかりの検査部位変更だが、一つ良いこともある。実際に食べている身の部分の残留の程度を知ることができることだ。以前からそういった検査方法もとっているところも少数ではあったが、検査する方は大変である。私たちが実際に食べている部位にどれくらい農薬が残留しているのかを俯瞰することができ、その検査結果から相当低い濃度になるので安心する方もいるだろう。特に今回対象となる果実類では。

食品衛生法第11条の規格基準で決められる農薬残留基準は、農産物として生産現場でGAPなどに従って適切に農薬が使用されたかどうかを判断する基準なので、今回のような全果での分析は理にかなっているともいえる。消費者の中には残留基準を超えるとそんな危険なものを食べさせたのかとお怒りになる方もいるが、それはこの残留基準ではなく、その危ない(?)食品をどれくらい食べたのかを急性参照用量(ARfD)と、毎日同じものを食べられていたら一日摂取許容量(ADI)と比較して、安全性を確認するのが適切であることを、もう一度考える機会としてもらいたい。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。