新・斎藤くんの残留農薬分析
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
鰻丼、ひつまぶしなど土用の丑の日も終わったが、日本では相変わらずのウナギ人気である。ただし、価格が高いせいもあってか、お客さんは年配の方が多い。ウナギの産地は国産よりも輸入が多く、中国産、台湾産が多くを占める。
2019年6月11日、台湾産養殖ウナギから有機リン剤フェニトロチオンの基準違反(基準0.002ppmで0.006ppm検出)を受けて、輸入時のモニタリング検査が強化(30%に)された(厚労省通知:薬生食輸発0611第2号)。
ところが半月後の6月27日、規格基準の一部改正に伴いモニタリング項目から削除された(薬生食輸発0627第3号)。珍しい事例なので紹介する。
●残留農薬フェニトロチオンの基準値違反
そもそも、どうして養殖ウナギから有機リン剤のフェニトロチオンが検出されるのか?忘れている方が多いだろう。話は10年近く前にさかのぼる。当時、中国産や台湾産養殖ウナギから、マラカイトグリーンやフラゾリドンなど殺菌剤が検出されて命令検査が行われていた。
そんな中、2010年ごろ台湾産養殖ウナギから有機リン剤フェニトロチオンが0.003~0.036ppm検出(暫定基準0.002ppm)され命令検査となった。汚染原因としては、周辺の畑からの雨水の流入とか、過去に使用した農薬が土中に残留していたためなど、あまり説得力のある理由は示されなかった。
2010年度8件、2011年度9件、その後どういった対応を取られたのか分からないが2012年以降は収まっていた。ところが、今回の違反が見つかりモニタリング強化対象物質となった。ところが、である、半月後の27日に削除された?
実は、理由はいたって簡単だ。6月27日からフェニトロチオンの基準値改正が施行され、暫定基準など修正されて削除されたのだ。小麦は10ppmから1ppm(国際基準はポストハーベスト使用を想定して6ppmであるが、小麦は食べる量が多いので暴露評価に適合するように国内作物残留試験成績から1ppmを採用)、オレンジ、グレープフルーツ、レモンは2.0ppmから10ppm、アブラナ科野菜は西洋わさび以外は基準なしなど、従来ほとんどの作物に基準が設定されていたものを実際に使用される作物に対応した基準値に変更された。
魚介類の基準0.002ppmも推定残留濃度(水産動植物被害予測濃度と生物濃縮係数から算出)を参考に0.3ppmに変更となった。実に150倍の緩和である。
●魚介類の暫定基準値は一律基準よりも厳しい
なぜ、暫定基準設定の段階で一律基準0.01ppmを採用しなかったのか。Codexの乳の基準が0.002ppmと0.01ppm未満の基準値があり、魚介類、乳、蜂蜜には0.002ppmが採用されていた(類型6-5)。2019年6月11日に違反となった台湾ウナギの0.006ppmは、一律基準0.01ppm未満ではあるが0.002ppm超過しているので違反となった。6月27日に基準変更があるなら、もう少し養殖池で泳いでいれば良かったけど。
魚の農薬の厳しい基準で思い出すのは、2010年に上海の検験検疫局を訪問した際、中堅の女性職員から「中国から輸出されたハモから、トリフルラリン0.002~0.008ppm検出され違反(基準0.001ppm、現在は0.5ppm)となっている件について、日本はどうしてそんな意味もない基準を設定するのか(私の解釈)」と厳しく問われたことを思い出した(私に言われても困るのですが…)。
2006年に施行されたポジティブリスト制度では、758の農薬等に暫定基準が設定された。それを各農薬について、食品安全委員会で安全性評価を行い、規格・基準について薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会等で気の遠くなるような議論をされた。その結果、見直し済み455、評価中164等98農薬等が未諮問(13%)となり、だいぶ時間がかかったが暫定基準は、ほぼ整理された状態となりつつある。
各部会の議事録もホームページに記載されているので、評価や基準値の設定の進捗が良く理解でき面白い。ちなみにフェニトロチオンの議論は、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会議事録(2018年10 月5日)に掲載されているので、関心のある方は参照されたい。
地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。
残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。