科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

輸入モニタリング検査違反の食品が「市場で消費済み」の意味するところ

斎藤 勲

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4月22日、衆議院の環太平洋連携協定(TPP)特別委員会で、日本共産党の斉藤和子議員が、輸入食品のモニタリング検査で食品衛生法違反の輸入食品が大量に消費・販売されていることを指摘した。この質問に、厚生労働省は03年度~14年度に290件の違反食品の流通があったことを認め、塩崎恭久厚労相は「流通制限は難しい」「国内産でも全く同じことがいえる」などと述べたと報道されている。(しんぶん赤旗4/23)

議論の全容が分らないので断定はできないが、モニタリング検査は輸入食品全体の検査の一部であり、その仕組みの中で見ていかないと、「木を見て森を見ず」の論議となる。
日本に輸入される食品は、平成元年には約70万件だったものが平成26年には220万件と3倍以上になっている。輸入重量は3200万トン、こちらは約1.5倍なので件数だけが非常に増加した。輸入時の審査・検査は、重量よりも届け出件数に比例するので業務は大変である。

検査は大きく3つに区分される。

① 検査命令:常検査の中で違反が続いた時や、違反の可能性のある食品について輸入の都度、輸入者の負担で検査(主に登録検査機関が項目を決めて行う)を行い、合格しなければ輸入・流通が認められない

② 指導検査:食品の危害や残留基準、規格基準に適合しているかを確認するため、輸入者の責務として自主的に行われている検査で、自主検査、行政検査を含む。

③ モニタリング検査。いわゆる問題がないかどうかを多種多様な食品について残留農薬、抗菌性物質、添加物。病原微生物、成分規格、カビ毒、遺伝子組み換え食品、放射線照射、SRM(特定危険部位)除去など、食品の種類に応じて重みづけをして監査されている。

今回問題になったのは、3番目のモニタリング検査である。統計学的に一定の信頼度で違反を検出することが可能な件数で検査を実施しており、国内での市販品の通常検査も同様であるが、検査と並行して流通が認められている。平成27年年度計画では、例えば農産食品では残留農薬8831件、抗菌性物質2559件、カビ毒2513件が実施される。モニタリング検査等で違反が見つかると、検査頻度が30%に増加し、それで検出されると全ロット検査の検査命令とリスクに対応した検査が行われている。

平成26年度は、輸入品届出総数222万件に対して検査総数20万件である(20万÷222万でこの数字が9%しか検査していないといわれる根拠)。検査命令58724件、指導検査等92441件、モニタリング検査53065件(重複除く)が行われている。日本は輸入食品の件数も多く、当然検査件数も膨大なものとなるが、決してザルのような検査をしているとは思わない。

平成26年度のモニタリング検査の違反結果を見てみる。農薬、動薬などで60件位あるが、全量又は一部消費済みは、大部分が規格基準のない食品衛生法11条3項の違反である。

最近ダイエット食材として有名らしいが、しそ科のチアシード(チアの種子)にピリミホスメチルが0.13ppm残留していたため違反となった。基準は0.1ppmではなく、0.10ppmなので0.11ppmからは違反。しかし、チアシードの本当のリスクは農薬残留ではなく、同時に違反となっているカビ毒のアフラトキシン汚染のほうがよほど重要である。

11条3項の違反は適用作物ではないので一律基準の0.01ppmでの評価となり、全量又は一部消費済みは18件ある。2項に比べ3項違反の消費済みは多い。これは残留濃度が0.02ppmとか0.03ppmなど微量な値であり、通常は検出されない農薬なので、個別分析法などで精度管理ができた状態で検査を行い確認してから報告する必要があり、特に日持ちしない生鮮では市場流通も早く、消費済みといった事態が発生する。こういった違反報告にはただし書きでこの商品を毎日何kg(ありえない量)食べても健康影響はありませんと書いてあることが多い。

そして、モニタリング検査で違反となった食品は、ほぼモニタリング頻度が30%に強化され、それで検出されると事前検査である命令検査に移行する。違反事例がその後の検査対応に適切に反映されていることを厚生労働省のウェブサイト、輸入食品のコーナーを見ているとよく分る。安全性評価がされた状態で機能しているのだ。

TPPの時代になってくると、いろいろな輸入食品にかかわる問題は発生するだろう。しかし、違反事例をリスクの面からもっとまじめに深刻に考えるなら、食品衛生法11条違反の法令順守(コンプライアンス)の問題ではなく、6条の有害物質の違反の方がよほど健康影響リスクがある問題だろう。違反が論議される場合、件数だけが論議されることが多いが、本当は違反となって廃棄される重量が多いものをどうするのかの議論も重要と思っている。

輸入食品
なお、輸入農産物の違反重量は平成2010~2013年度で毎年5~9万トンを超えている。
2014年度の違反件数はあまり変化はないが、違反重量はかなり減少した。違反重量の半分以上は主に米国産トウモロコシが占めており、肝がんの原因物質であるカビ毒アフラトキシンの違反である。2014年度は、米国におけるトウモロコシの輸入量は減っていないが、生育時の天候の影響でアフラトキシンを生成するカビが生成されにくかったため、違反が減少した。

トウモロコシの基準違反は規制値10ppb(現在は総アフラトキシン)に対して種実類のように高い汚染ではない場合が多く、食用外転用(飼料)として利用されるので無駄にはなっていない。飼料の場合は、アフラトキシンB1(総アフラトキシンではない)の基準は、トウモロコシなどは0.02ppm、乳用牛用や子牛や子豚の飼料は0.01ppmである。乳用牛乳への転用もあり、牛乳にはカビ毒のリスクとして、最も毒性が強いアフラトキシンB1が代謝され生成するアフラトキシンM1に0.5μg/kgの基準が設けられている。

農薬のように安全性が評価され、残留濃度がそれなりに管理されている11条違反は、本当はそれほど気にすることなく粛々と眺めていればいいのではと思っている。
今後地球温暖化で農産物の生育、保管条件が悪くなる中、カビ毒汚染のリスクは高くなるだろう。カビ毒など有害物質にかかわる6条の違反は、本来その対応については生育環境を含め対処できることであり、もっと国民的な関心を持ってもよい事柄である。これこそ国民的な議論になってほしいテーマである。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

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残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。