科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

食品中無機ヒ素について(その3/全3回)ー私たちはどう対応するか

畝山 智香子

食品中の無機ヒ素について、その1でヒジキの事例を、その2でコメの事例をご紹介しました。このようにヒ素のリスクを正面から考え、受け止めることで食品のリスク全体への理解が進むことが期待できます。

ヒ素のリスクは食品添加物や残留農薬などとは比べ物にならないくらいリアルなもので、私たちがこれまでもこれからも共存するしかないものです。よくわからなくてもとにかく避ければいいといった「予防原則」は役に立たない。リスクはきっちり評価して比べるべきもので、思考停止は許されないのです。

食品安全委員会は2011年に自ら評価で選定したアクリルアミドについて、2016年に評価結果を通知し発がん影響について「動物実験から求めたBMDL10と日本人の食品からのアクリルアミドの推定摂取量から算出したばく露マージンが十分ではないことから、公衆衛生上の観点から懸念がないとは言えないと判断」しています。そしてこれを説明するために相当な努力をしました。2013年のヒ素の時にはこのようなことができませんでしたが、経験を積んだ今後なら、もっといろいろなことができるだろうと思います。

食品安全委員会は無機ヒ素の評価を始めると決めたわけではありませんし、仮に今後1-2年以内に評価を始めたとしても、結果が出るには時間がかかると予想されます。例えば鉛については自ら評価で評価することを決定したのは2008年ですが結果を通知したのは2021年です。さすがにこれほどかかるとは思いませんが、前述のように簡単ではない以上、数年はかかると予想します。

しかし今すぐにでも対応してほしいことはあります。

昨年、秋田県はカドミウム低吸収性あきたこまち導入に際して、コメのヒ素とカドミウムの両方を低減できることのメリットを伝えていました。カドミウム低吸収品種はあきたこまちだけではなく、他の地域でも栽培準備をすすめていたはずなのですが一部の人たちからの反対意見を恐れて二の足を踏み、結果的にほぼ秋田県だけが新しい品種のリスクコミュニケーションにおいて矢面に立たされることになってしまいました。これは一地方自治体の問題ではなく、国として対応すべきでした。

ともかく無事にカドミウム低吸収性あきたこまちが受け入れられたようなので、他の地域でも新しい品種の導入を推進してほしいと思います。輸出に対応する必要があることはもちろんですが、なにより国民のリスク低減は重要です。誤情報による間違ったリスク認識によって安全性対策の優先順位を誤るようなことでは国民の安全は確保できません。

そして一部の人たちがいまだにヒジキの粉末を赤ちゃんに与えることを薦めていますが、そういう食品への間違った認識も改めてほしい。「食品だから安全」ではないです。粉末にして食べる伝統などもともと存在しないし、ヒジキの煮物だったら吸収されないかもしれない無機ヒ素が粉末だと効率よく吸収されるかもしれません。発がん物質について子供の感受性が高いと考えられるのは、成長のため細胞分裂の回数が多いことと、親の世代より長生きする可能性があるからです。

過去に経験したことのない時代を生きるかもしれない子供たちのことを思うならなおさら最新の科学的根拠のある情報を参照してほしいです。

リスク評価は時代とともに更新され、私たちの求める安全性のレベルも変わる、ヒ素はその典型的な例でもあります。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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