野良猫通信
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
畝山 智香子現在、日本で販売されている食品は全てHACCPに沿った衛生管理がされていることになっています。HACCPとはHazard Analysis and Critical Control Pointの頭文字で、食品等事業者自らが食中毒菌汚染や異物混入等の危害要因(ハザード)を把握した上で、原材料の入荷から製品の出荷に至る全工程の中で、それらの危害要因を除去又は低減させるために特に重要な工程を管理し、製品の安全性を確保しようとする衛生管理の手法です。その第一段階が危害要因の分析(ハザードアナリシス)です。
食品には膨大なハザードがあるのですがそのうち管理が必要なものは経験上わかっていることが多いので比較的少数のハザードに的を絞って対応するのが普通です。ただ新しい食べ方やこれまでと違う人たちが食べるような場合には、それまで気にしなかったハザードが重要になることがあります。
身近な食品であっても考えるべきハザードはいろいろある、といういい例があったので紹介します。
英国毒性に関する科学委員会(COT)が現在母親の食事に含まれる各種食品や成分のリスク評価を行っていて、その中で最近対象になっているのが茶です。
COT Meeting: 3rd February 2026 | Committee on Toxicity

妊婦のカフェイン摂取については既に検討されているので、緑茶と紅茶に含まれる可能性のあるカフェイン以外の化合物について、まずハザードの洗い出しを行っているものが参考資料として掲載されています。
Scoping paper on the potential risks of chemicals (other than caffeine) found in green and black tea in the maternal diet
https://cot.food.gov.uk/sites/default/files/2026-01/TOX-2026-%2005%20-%20Scoping%20paper%20Tea_Maternal%20diet%20Acc%20V%20SO.pdf
英国民は紅茶好きで有名ですがその多くは輸入です。日本からも緑茶が輸出されているようです。紅茶も緑茶も植物としては同じです。
この資料では茶に含まれるハザードの可能性がある化合物をグループ分けしてアルファベット順に並べ、解説を加えているのですがその概要は以下です。
・殺虫剤
・除草剤
英国では使用される農薬にはMRLが設定されていて、MRLがない場合にはデフォルトの0.01 mg/kgが適用される。ルーチンで検査と評価が行われていて、検出された残留農薬に健康影響が予想されるものはなかった。
・ニコチン
ニコチンは過去に農薬として使われたことがあり、MRLが設定されている。しかしそのMRLは他の農薬に比べて安全側への余裕が小さく、改定が予定されている。ニコチンの暴露源にはほかに両親の喫煙や電子タバコがある。
・ピロリジジンアルカロイド
茶はピロリジジンアルカロイド(PA)を作らないが、他の植物の混入によってお茶からPAが検出されることがある。2014年の市場調査で55検体中11検体からPAが検出されたため企業が農業慣行などを見直し、新しい検体からは検出量が減っている。
・トロパンアルカロイド
トロパンアルカロイド(TA)も茶が作るものではないが、お茶の検体からごく微量検出されることがあり、雑草の混入が原因と考えられている。
・カビ毒
緑茶からはアフラトキシンB1、エニアチンB、オクラトキシンAが検出されている。
紅茶からはアフラトキシン類、シトリニン、デオキシニバレノール、フモニシンB1、オクラトキシンA、ゼアラレノン、T-2トキシンが検出されている。
・ヒ素
・カドミウム
・クロム
・鉛
・水銀
・微量元素 アルミニウム、銅、フッ素、マンガン、ニッケル
・フッ素とフッ化物
お茶の葉は土壌からフッ素を選択的に取り込むためフッ素が多く含まれ、英国成人のフッ素摂取量の大部分がお茶由来であるとの推定がある。水道水にフッ素添加されている地域では総摂取量が多くなる可能性がある。
・マンガン
お茶は穀物やナッツ類に並ぶマンガンの主な摂取源となっている。
・ポリフェノール
茶ポリフェノールの主成分はフラボノイド、フラバノール、フェノール酸など。
カテキン類は淹れた緑茶の乾燥重量の30-42%になると報告されている。
紅茶はカテキン(10–12%)、テアフラビン(3–6%)、テアルビジン (12–18%)、フラバノール(6–8%)、フェノール酸(10–12%)などを含む。
ポリフェノールの鉄吸収阻害作用によると考えられる貧血リスクの増加が報告されている。
・アクリルアミドとフラン
お茶は加熱工程を経るものの、アクリルアミドとフランの主な摂取源とはみなされていない。フランは熱い飲み物では蒸発する。
・多環芳香族炭化水素
お茶の葉からは微量の多環芳香族炭化水素が検出されていて中には高濃度のものもあるが一般的な淹れ方で飲む場合には暴露量は減る。
全体として、ほとんどの化合物は濃度が低いか監視されているので特別な対応が必要とは考えられないものの、検討の余地があるものとしてポリフェノールとフッ素及びマンガンを挙げています。
なおここで検討しているのは化学的ハザードのみで、生物と物理的ハザードについては別途検討する必要があります。
どうでしょうか。
お茶を専門に扱っている事業者であればこれらは知っていて管理していることが期待されます。具体的には、例えばオーガニック製品を扱うなら植物毒とカビ毒には慣行栽培より注意するといったようなことです。消費者に期待されるのも常識的な使用方法です。
そして「お茶が安全」なのは、普通にお茶として飲んでいれば問題になるような量を摂取する可能性が低いというだけで、お茶に含まれる成分が全て無害というわけではないことを改めて認識してほしいと思います。残留農薬は多様なハザードの中では管理しやすく安全性が高いものなので、そこだけに注目した言説はバランスが悪いものである、ということも知っておいたほうがいいでしょう。
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
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