科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

関係者必読の科学雑誌 BfR2GO

畝山 智香子

ここしばらくおススメできない文献の話題が続いていましたが、今回は是非参考にしてほしい資料を紹介します。
ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)が年に二回発行しているリスクコミュニケーションのための科学雑誌BfR2GOです。
BfR2GO – BfR

BfRはドイツの消費者保護のため食品や化粧品などのリスク評価を行う組織なので基本的にドイツ国民向けにその時々のトピックスを扱っているのですが、英語版PDFが無料でダウンロードできます。
BfR2GOの特徴は一般向けにわかりやすいもののレベルは高い科学的解説です。
BfRはリスク評価機関として、評価書や学術論文ももちろん発表していますし、消費者向けのわかりやすいパンフレットや子供向けの本やコミック、など多数のコミュニケーションリソースを発表しています。Publications – BfR

日本の食品安全委員会も他の国の評価機関もいろいろな資料を提供しているのですが、BfR2GOはそれらのなかでも際立って読みごたえがあるので是非全ての号をチェックすることを薦めます。

具体的に紹介したほうがわかりやすいと思うので、最新号(2025年の第2号)を見てみましょう。
BfR2GO, Issue 2/2025, Main topic: Sweeteners – BfR
発行は2025年12月18日、甘味料特集です。PDFで48ページです。

●甘味料の健康リスク評価を説明

内容はAndreas Hensel所長の巻頭言に続いて甘味料の特集「人工的に甘い、自然に議論の元」と題して甘味料の健康リスク評価について、関連情報も含めて9ページを使って説明しています。

まず砂糖について摂取量を減らす必要があること、そのための手法の一つとして各種甘味料が使われること、甘味料には全く異なるいろいろな物質があること、それぞれ使用前に認可されて食品成分として表示しなければならない、といった基本的事実が説明されます。低カロリー甘味料は別に新しいものばかりではなく、長い使用歴があることも図示されます。

この図は大変わかりやすいです。

サッカリンは1878年に発見されドイツでは1890年から認可されています。サイクラミン酸は1937年発見で1963年から認可されています。一方、ステビオール配糖体は発見自体は1887年と古いものの、ドイツでの認可は2011年です。

そしてアスパルテームとがんについてのいつまでも続く議論の結果、アスパルテームの研究が非常に多くなり最もよく調べられているがそれでもがんのリスクは確認されていない、従ってADIを超過しない限り健康上の懸念はない、と説明されます。またBfRの調査で市販の低カロリー飲料の多くは、複数の甘味料を様々な濃度で組み合わせていることが報告されます。

そして最も議論になっている低カロリー甘味料の体重への影響について、BfRの現時点での考えがBfRのフードチェーンの食品と飼料の安全性部のBritta Nagl博士の言葉として紹介されます。厳密に管理された状況下で砂糖の代わりに低カロリー甘味料を使うことは、減量に役立つものの日常生活には当てはまりにくい。砂糖を減らした製品が増えているのに肥満や過体重の人が増えているのは一見矛盾するようだが、肥満は砂糖だけによるものではなく、「低カロリー製品を食べたことで他のものをより多く食べてしまうのかもしれない」。「体重が減るのは食べたエネルギーより消費したエネルギーが多い時だけ」とのことです。

●PFAS禁止は主に環境のため

他に扱っているのは

  • 食中毒の感染源を追跡するための細菌のモニタリング
  • セレンのプロファイリング サプリメントは不要
  • お弁当や作り置きの食事を適切に調理する
  • グルテン 誰が避けるべきで誰が避けるべきでないのか
  • マイクロプラスチックの研究が精査されている—マイクロプラスチックに関するニュースが増えたがそのもとになった研究には科学的厳密さが欠けているものが多い
  • Quarks科学警察Jonathan FockeとMaximilian Doeckelのインタビュー 科学的なナンセンスやデマ情報を否定するポッドキャストの運営者は、引用されている論文と主張が全く違っていたりすることもあるという。
  • 食品中の残留農薬はどのくらい? NOAELとADIとARfD、MRLの説明
  • 化学物質は一般の人にどう認識されているか ドイツ人の約2人に1人は「化学物質」は人工で不快でヒト健康と環境に有害だと思っている。しかし同時に有用で効果があるとも思っている。そして使うことが多いほど懸念は低い。
  • データを集めて命を救う—全国中毒登録
  • 小さな印字の大きな役割 UFI (Unique Formula Identifier)コード
  • PFASの制限はくっつかないフライパンにとってどういう意味があるのか 禁止は健康のためではなく環境のため 代用品など
  • 化粧品中PFAS
  • 電子タバコのFAQ更新
  • 動物実験削減の10年を振り返る
  • 菜食者研究への参加募集

などです。

盛りだくさんなことも魅力ですが、短い記事にもBfRの考えが簡潔に記載されているので参考になります。

例えばEUのPFAS規制に関して41ページには見出しとして「PFAS 禁止は主に環境のため:PFAS BAN MAINLY FOR THE ENVIRONMENT」と書いてあります。分厚い評価報告書や学術論文ではこういうわかりやすい表現はあまりみられないです。

●ドイツの信頼できるリスク評価機関BfR

こうしたわかりやすい説明ができる要因のひとつは、BfRが専用の充実した研究部門をもつ評価機関であることです。そして2003年設立以降ずっと、科学者であるAndreas Hensel所長がトップを務めています。

日本では想像できない長さですが、安定した組織で落ち着いて研究を行い、自分たちが出したデータをもとに自信と責任をもって言えるメリットがあるわけです。
ちょっと羨ましいですが、その成果物を利用できることで私たちも恩恵を受けているとは言えます。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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