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執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

食品添加物についての不適切な情報を発表し続けるNutriNet-SantéとBMJ-医学雑誌は化学を何だと思っているのか?

畝山 智香子

1月初めにBMJに食品添加物の保存料ががんの増加に関連するという論文が掲載されました。
Intake of food additive preservatives and incidence of cancer: results from the NutriNet-Santé prospective cohort | The BMJ  Jan 7, 2026

この論文は、各種ニュースメディアによって報道されました。
(報道例)
Common food preservatives linked to cancer and type 2 diabetes | CNN
Jan 8, 2026
食品添加の保存料、がんや2型糖尿病のリスク増大と関係か 仏研究 – CNN.co.jp (日本語版)2026.01.08

CNNのニュースでは、がんについてのBMJの論文と2型糖尿病についてのNature Communicationsの論文の二つを扱っていますが、どちらも同じ研究グループによるフランスのNutriNet-Santéコホートからの報告です。今回はBMJの論文に注目します。

NutriNet-Santéは観察研究なので因果関係を主張することはできないのですが、この研究を主導しているMathilde Touvier博士はメディアでは食品添加物や加工食品を避けるべきだと主張しています。
BMJにはこの論文と一緒にコメントが発表されていて、この論文の限界や注意点も一応記されてはいるのですが、それでも食品添加物一般への疑問を正当化しています。
Preservatives and risk of cancer | The BMJ

この論文に対して、いつものように英国サイエンスメディアセンターが何人かの専門家のコメントを紹介し、全体としてはこの研究が決定的なものではないことを説明しています。
expert reaction to study looking at different preservatives in foods and incidence of different cancers | Science Media Centre
January 7, 2026

この、NutriNet-Santéで加工食品や添加物などが何かの病気と関連するという報告がなされ、Touvier博士がメディアで規制を要求し、SMCで専門家が根拠の薄弱さを指摘する、というサイクルはここ数年何度も繰り返されてきたものです。

そして研究そのものの基本デザインは変わらないので指摘された問題点が改善されることはほぼなく、論文数やメディア報道の数は増えるのでそれをもって「ますます根拠が増えているので厳しい規制をすべき」という主張になっています。

●NutriNet-Santéの観察研究 摂取量データの問題

今回この記事で指摘したいのはNutriNet-Santéの「食品添加物」の摂取量データが全く的外れだということです。

BMJ論文の図2を見て下さい。これは食品添加物の保存料の摂取源となる食品が何かを示したものです。たくさんの添加物が対象なのですがとりあえず硝酸と亜硝酸に注目してください(線は筆者による)。

Fig 2 Dietary sources of food additive preservative intakes among study participants from NutriNet-Santé cohort, 2009-23 (n=105 260).

丸の大きさが摂取源としての割合を示します。説明文によると亜硝酸の53.8%、硝酸の80.3%が加工肉から摂取しているとあります。なお亜硫酸の摂取量の85.4%はアルコール飲料由来とも書いてあります。
そして亜硫酸や硝酸、亜硝酸が乳がんや前立腺がんなどのがんと関連すると報告されています。

これだけでも、がんと関連するのは添加物ではなくて加工肉やアルコールの可能性のほうが高いだろうと考えられるので、それについてはBMJのコメントやSMCのコメントで指摘されています。
しかしここで見てほしいのはEFSAが食品中の硝酸のリスクについて評価した意見書です。

EFSAは2008年に食品中の汚染物質としての硝酸・亜硝酸のリスクを評価していて、その際に食品からのばく露量も推定しています。
Nitrate in vegetables ‐ Scientific Opinion of the Panel on Contaminants in the Food chain – – 2008 – EFSA Journal – Wiley Online Library

以下の図が英国とフランスの硝酸と亜硝酸の摂取量とその摂取源となる食品について示したものです。a)とb)が食事からの硝酸の摂取量、c)とd)が食事からの亜硝酸の摂取量で、e)とf)は総亜硝酸ばく露量です。英国とフランスで若干違いはあるものの、食事からの硝酸と亜硝酸の摂取源は野菜や果物がメインであり、硝酸の総ばく露量に占める動物由来食品の寄与率はごくわずかでしかありません。

Figure 1.  Relative intake contribution for sources of nitrate and nitrite in the UK and France

これは以前、香港のトータルダイエットスタディの結果について紹介したときにも同じことを書いたのですが、食品添加物として使われている亜硝酸をいくら減らしても亜硝酸の総摂取量には大きな影響はありません。
亜硝酸に関する誤解をなくそう~香港トータルダイエットスタディから~ – FOOCOM.NET
それは欧米でもアジアでも同じです。

そして個人の硝酸や亜硝酸の摂取量は相当ばらつきがあると考えられ、正確に知ることは大変難しいです。野菜の硝酸含量は種類によっても大きく異なりますが、同じ種類の野菜であっても栽培条件などで大きく変わることがわかっています。調理方法の影響もあります。だから世界中の食品安全担当機関は「バランスよくいろいろなものを食べましょう」と言っているわけです。

つまりNutriNet-Santé研究における参加者の硝酸と亜硝酸の摂取量推定は、食品添加物のみを推定しているためほとんど信頼できない、ということです。

信頼できないデータをもとに、いくら「洗練された統計モデル」を使ったところで結果は信頼できないものにしかなりません。

NutriNet-Santé研究では他にも、もともと食品成分だったものを食品添加物として使っているものについて食品由来を全く考えないで「解析」していることがよくあり、化学の基本を無視して数字遊びをしているように見えます。

(まさか同じ化合物でも天然由来か食品添加物由来かで区別できて影響が違うとか言いませんよね?)

●栄養学や疫学は化学的基盤があって初めて説得力を持つ

この世の全てのものは化学物質であり、生命活動は化学反応が基礎にあります。栄養学や疫学は化学的基盤があって初めて説得力をもちます。例えば誰かが食べていないのに太る、と主張していても、物質の量である体重が増えていれば食べている可能性のほうが高い。アンケートへの回答と具体的な物質の量とでどちらの信頼性が高いかは明白です。化学がしっかりしていない研究を信用する理由はないです。

しかしこのNutriNet-Santéのような、化学的基盤が疑わしい論文が加工食品や添加物の悪影響の根拠としてWHOなどで「質の高い疫学論文」としてガイドラインの根拠にされているのです。

NutriNet-Santéはフランスの国家プロジェクトといえる大規模研究で、国立研究機関によって実施されています。BMJは言うまでもなく医学の権威ある雑誌のひとつです。どうしてそういう「権威ある」研究が、例えばEFSAの食品中化学物質のばく露評価に携わっている専門家のような人の意見を聞かずに暴走しているのかは外野からは全く分かりません。

ただ研究者としては「権威」がどうだろうとおかしいことはおかしいと指摘するのみです。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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