科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

オーガニック食品で、Abemaヒルズに出演しました

畝山 智香子

今回は、オーガニック食品に関して「Abemaヒルズ」というメディアでの個人的な体験をご報告したいと思います。

オーガニックでがん予防?市の講座に疑問の声 – ABEMAヒルズ【平日ひる12時〜生放送】 – 注目特集 (ニュース) | 無料動画・見逃し配信を見るなら | ABEMA

●小山市オーガニック講座のびっくりする内容

ことの発端は小山市が連続して開催しているオーガニック講座の内容があまりにも非科学的なのではないかという疑問がXで話題になったことです。
小山市有機農業推進協議会 | 小山市公式ホームページ

そして実際に参加して問題があると感じたAbemaヒルズの番組スタッフが取材を重ね、番組で取り上げる検討をしていったようです。取材に対して小山市は講座の内容は講師の見解であって市の見解ではないと回答したようです。

しかし例えば以下のサイトでは
第13回オーガニック講座(令和6年8月10日開催) | 小山市公式ホームページ

「今回のオーガニック講座は、弘前大学名誉教授の杉山修一さんをお招きし、無肥料・無農薬で作物を栽培する自然栽培についてお話しいただきました。―略― 発達障害と農薬使用料に相関関係がある、農薬は神経発達を阻害すると話しました。」

といったレポート調の書き方になっており、「このページの内容に関するお問い合わせ先」として、小山市の「農政課 担い手・農地総合対策室 環境創造型農業推進係」と書いてあるので市の公式見解だと思われてもしかたないでしょう。

さらに第2回全国オーガニック給食フォーラム in 常陸大宮 レポート | 小山市公式ホームページでは、今、世界の公衆衛生を破壊しかねないと話題の「ロバート・ケネディ・ジュニア」の主張を肯定的に紹介しています。

Abemaヒルズの番組スタッフが話を聞いた第14回オーガニック講座では、農薬の危険性が話題の中心で、農薬のせいで子供の発達障害がおこる、だからオーガニックにしようという主張でした。ただ農薬だけではなく、プラスチックや環境ホルモンなども避けるべきという話で、それには有機農業で使われるビニールハウスやマルチなども含まれています。自然農法の回での、資材を外から全く投入せずに収穫を続けるという話や、農薬どころかプラスチック類を一切使わずに農業をするのがいいといった主張は、ほんとうに有機農業を推進したいとは思えません。

有機農業の推進者はしばしば慣行農家の農作物を根拠なく悪者扱いすることで、有機とそうでない農家の対立を生み出すことがありますが、小山市の場合はさらに過激で、有機農業実践中の農家にもケンカを売っているように見えます。

番組冒頭のビデオで宇都宮大学の小笠原勝名誉教授が怒っているのは当然だと思います。

●番組で事実を提供することが難しい

さて、これに対して番組スタッフは、食品にはもともと有害物質はあって残留農薬のリスクはそれに比べたら低いというカウンター情報を提供しようとしました。

私に出演依頼があった当初、こちらの図を使いたいという話でした。

図A

これは私がこれまで何度も使ってきたもので、講演の記録として中央省庁はじめ地方公共団体のHPにも掲載されています。ところが局内で食品に添加物や農薬より大きなリスクがいろいろあるという情報は消費者をパニックにする恐れがあるから出すなと言われたとのことで、企画そのものが没になりそうな感じに。

図Aのどこがそんなにいけないのか私にはわからないのですが、読者のみなさんはどう思われるでしょうか?

そして実際に番組で使われたのは図Bでした。

図B(注:放送時には「生物学的要因」を「生物的要因」に修正しています)

そしてちょうどその頃、ニュージーランドで日本産のヒジキ製品がヒ素のためにリコールされていたので(店頭での警告はこちらPoint of sale – Seaweed)、食品中の残留農薬より大きいリスクの例としてちょうどいいかと思ったのですが、ヒジキにヒ素が含まれるという話はダメ、という制限がつきました。

それで米のヒ素とカドミウムの話ならいいという理由がよくわからないのですが、とにかくテレビ局の中にはそうやって情報を管理したい人がいる、ということを体験したのが興味深かったです。

食品添加物や残留農薬やダイオキシンのようなものについてはどんな根拠薄弱なことを放送して怖がらせても構わないと思っているらしいのに、食品そのものについてはリスクがあることすら伝えてはならない、などという感覚の人が報道機関の重いポジションにいたら、一般の人々の感覚がゆがむのも当然でしょう。

ただ、それをなんとかしてまともな報道にしたいと考え、頑張ったスタッフがいるということは希望ではあります。そういう人に私の書いたものが届いていたことがわかったのは嬉しいことでした。

一方ヒジキに関しては、一部の人たちが乳幼児に食べさせるよう薦めているのは知っていたのですが、番組関係者に赤ちゃんのためにミキサーで砕いていたという人が複数いたことに驚きました。

実はヒジキは確かにヒ素が多いけれど、消化が悪くて、特に小さい子なら大体そのまま排泄されるからあまり吸収されないのではないかと思っていた部分があったのです。これまで食べてきて問題になっていない、という見解も当然煮物などの伝統的食べ方を想定しています。でもミキサーで粉々にしたら吸収されてしまうのでは?離乳食はいろいろな硬さや大きさの食品を食べることの練習でもあるので、介護業界でのミキサー食のようなものが入り込むことは想定できていませんでした。

このへんは実は以前から考えてはいるもののあまり大きな声では言ってこなかった、栄養士のバイブルである日本食品標準成分表に有害重金属も含めることで防げたのかもしれません。食品のリスクを適切に伝えるのは難しいのだと改めて思いました。

そういう背景を知って見逃し配信を見て頂けると味わいが増すかもしれません。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

FOOCOMは会員の皆様に支えられています

FOOCOM会員募集中

専門誌並のメールマガジン毎週配信

野良猫通信

国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。