科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

EFSA ノベルフード(新規食品)安全性評価ガイダンスを更新

畝山 智香子

2024年9月30日付で欧州食品安全機関(EFSA)が新規食品(ノベルフード)の安全性評価ガイダンスを更新しました。
Navigating Novel Foods: what EFSA’s updated guidance means for safety assessments | EFSA (europa.eu)

EFSAウェブサイトより

これは欧州の新規食品規制が2018年に発効してからこれまでの安全性評価の経験を反映することと、フードテックと呼ばれる一連の分野での新しい技術的進歩を反映することが主な目的です。
関係者にはこのガイドラインの熟読を薦めたいところですが、ここではほんのさわりだけ紹介したいと思います。

公表された文書は3つで、以下になります。

・第三国の伝統食品をEUの新規食品として通知あるいは認可申請する場合の科学的要件についてのガイダンス
Guidance on the scientific requirements for a notification and application for authorisation of traditional foods from third countries in the context of Regulation (EU) 2015/2283 | EFSA (europa.eu)

・新規食品の認可申請に関する科学的要件についてのガイダンス
Guidance on the scientific requirements for an application for authorisation of a novel food in the context of Regulation (EU) 2015/2283 | EFSA (europa.eu)

・微量栄養素の新たな摂取源について安全性と相対的生物学的利用度を評価する場合の科学的基本原則とデータ要件についてのガイダンス
Guidance on scientific principles and data requirements for the safety and relative bioavailability assessment of new micronutrient sources | EFSA (europa.eu)

●新規食品に必要な情報

このうち、最も基本的な文書となる二番目のものから、新規食品の申請に必要な情報の概略を紹介します。

1.新規食品の同定に関する情報

  • 化学物質であればCAS番号、分子構造、分析方法、標準品など。
  • 遺伝子組換えされていない微生物由来食品であれば国際的に認証された系統名や全ゲノム配列など微生物の同定と、製品中で生存しているかどうかなど。
  • 植物由来食品なら学目と通称名、同定のための方法(DNA配列等)、使用部分、栽培条件等
  • 動物由来食品なら動物の健康状態なども。
  • 培養細胞や組織培養由来食品なら細胞の由来、遺伝子や表現型の性質や安定性、動物由来細胞であればウイルスなどの病原体に関する検査方法など。
  • 遺伝子組換え食品は対象ではないので遺伝子組換えでないこと。
  • 培養細胞や組織培養由来食品なら細胞の由来、遺伝子や表現型の性質や安定性、動物由来細胞であればウイルスなどの病原体に関する検査方法など。
  • ナノマテリアルを含む/からなる食品については別途ナノマテリアルのリスク評価ガイドラインを参照。

2.生産工程に関する情報

  • どのようにして生産されるか、その中に新しい技術を使ったものはあるかの情報
  • 全ての工程を記述し、副産物や収量なども計算する。
  • HACCPの基本原則に従ってCCPやフローチャートを提供。

3. 組成に関するデータ

  • 妥当性が検証されている分析方法を使って、組成の変動性を考慮したデータを提出
  • サンプリングは基本原則に従うこ
  • 不純物の定量データも提供する
  • 必要に応じ新規でない食品との比較データ
  • 安定性。保存による変化や分解産物
  • その後の加工(調理)による影響

4. 規格

  • 食品と不純物の規格

5. その食品や食品の原材料の使用歴

  • 他国での使用歴や原材料の使用歴

6. 用途と推定摂取量

  • リスク評価のためには摂取量の推定が必要なのでそのための情報
  • 他の摂取源がある場合にはそれも考慮

7. ADME

  • 栄養と毒性両方のために吸収や代謝の情報。試験が必要かどうかは条件により、段階的に評価する

8. 毒性に関する情報

  • 毒性試験は階層的アプローチで行う
  • 文献のみで十分な場合は試験は必要ない
  • In vitroの遺伝毒性試験一式は最初に行う

9. 栄養に関する情報

  • 提案された使用条件において消費者の栄養に不利にならないことを調査しなければならない
  • 過剰摂取や必須栄養素の摂取不足両方を検討する

10. アレルギー誘発性について

  • たんぱく質含量や性質に応じて必要なデータを提出

全体として、食品添加物の申請に必要なデータに近いものが要求されています。食品添加物のほうが厳密ではあるのですが、食品添加物はほとんどの場合食品からの暴露量は少ないのに比べて新規食品ではある程度の摂取量を想定する必要があるのでその分難しい、とも言えます。

●日本にも新規食品の安全性評価の仕組みを

日本では今年初めの小林製薬の紅麹を含む機能性表示食品に関連した健康被害問題を受けて、機能性表示食品として販売される食経験のない食品の安全性が問題となりました。

そして令和6年5月31日に開催された「紅麹関連製品への対応に関する関係閣僚会合」(第2回)において、紅麹関連製品に係る事案を受けた機能性表示食品制度等に関する今後の対応が取りまとめられ、その中で、機能性表示食品制度の信頼性を高めるための措置として「新規の機能性関与成分に係る機能性表示の裏付けとなる安全性・機能性の課題について科学的知見を有する専門家の意見を聴く仕組みの導入」が記載されています。

具体的にどういう仕組みになるのかはわかりませんが、EFSAのガイドラインと比べてどういうものになるのかは注視していきたいと思います。

さらに新規食品の販売前の事前評価制度が整備されていないために、培養肉をはじめとする新しい技術を用いた食品の開発が進められないという課題もあります。慎重にビジネスリスクを考慮する企業が躊躇している一方で、安全性をあまり考えない人たちが暴走するという、企業にとっても消費者にとっても望ましくない状況が続いています。

日本でも新規食品の市販前安全性評価の仕組みを作るべきだと思います。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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