科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

道畑 美希

京都大学農学部修士課程修了後、外食企業を経てフードコーディネーターに。東洋大学講師・Foodbiz-net.com代表

外食・中食、よろしゅうおあがり

淡々とやるべきことを重ねていくだけという会津の乳業メーカー

道畑 美希

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  先月、所属する東洋大学のゼミ学生たちと福島県立会津大学を訪問しました。SIFE(サイフ:Students In Free Enterprise)という学生の社会貢献を支援する団体の活動で、同大学の学生と知り合ったことがきっかけです。会津大学の学生チームは、震災前より、地元である西会津町と連携し、地場野菜と肉の代わりに車麩を使ったベジメルバーガーというユニークな商品を開発し、道の駅などで販売し、地域振興を目指していました。しかし、震災後は、バーガー事業はトーンダウン。現在は、観光事業など地元復興のため、会津大学の得意分野であるITを活かし、ベジメルバーガーPRに加え、会津から他の地域へ情報発信、また、被災民のサポートなどに頑張っているという話を伺いました。同大学は、県外出身の学生の割合が高いのですが、地域のために懸命に活動している様に感銘を受けました。

 会津は、福島県内でも被害の比較的少ない地域ながら、震災後、観光客は激減し関係業界は大きな打撃を受けています。放射性物質関連では、農や食の業界でも大変な苦労があるのではないかと想像します。そのひとつ、「ベこの乳」の名で知られる牛乳や乳製品を製造する会津中央乳業株式会社を訪ね、二瓶孝也社長に話を伺いました。首都圏の百貨店や高級スーパーの売り場でも見かけていたこのブランドですが、原発事故直後は、多くの流通業者から納入を断られる事態となったそうです。が、このような事態を、まず地元が支えたくれたと、伺いました。会津や福島に本拠をおく地元スーパーや小売店が、積極的な販売を乗り出したそうです。

 放射性物質については、牛の飼料にはじまり、原料乳、そして製品に至るまで検査をし、品質管理していくこと。そして、これらの結果についてコミュニケーションをしていくことであることしか道はないと。同社のホームページ上でも原料乳、製品の検査結果を公開しています。このような取り組みに加えて、従来の顧客からの商品を望む声が多く、徐々に売上がもどりつつあるそうです。今までは声を掛けられても出展することのなかった首都圏での産直市にも積極的に出かけて営業もしているといい、品質管理とコミュニケーションを続けていくことが大切であること、そして何より顧客の信頼が有難いと社長は話していました。

 原発事故後の放射性物質汚染の問題は、私たちの食生活の関心ごとのなかでも、大きな比重を占めています(各人にとって受け止め方は、人それぞれと思いますが)。食の生産を担う人たちは、こつこつとやるべきことを積み重ねているのだと、その冷静さに改めて感心しました。会津は、福島県にありながら原発からは離れた地域で、他の福島県農産物と比べて深刻ではないのかもしれません。だから冷静でいられるのかもしれません。ただ、会津でお会いした生産者や加工業者、あるいは観光産業に携わる方々も、特に声高く、安全であると訴えるわけでもなく、淡々とやるべきことを積み重ねていくという姿勢を保っています。

 大震災からまもなく1年が過ぎようとしていますが、会津の人々の冷静さに対し、私たち首都圏にいるものとの温度差がなんとも重くのしかかりました。騒ぎ過ぎるメディア、そういった世論に反応してか基準値があっという間に塗り替えられていく世の中のしくみを思うと、違和感が消えないでいます。

執筆者

道畑 美希

京都大学農学部修士課程修了後、外食企業を経てフードコーディネーターに。東洋大学講師・Foodbiz-net.com代表

外食・中食、よろしゅうおあがり

食のマーケティングやレストラン経営が専門。社会に出てから食を見続け、食べ続け、四半世紀。もはや語り部と化すおババのコラムです