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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

GMナタネのこぼれ落ちに固有のリスクなし-EFSAが論文を発表

宗谷 敏

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 わが国においても、市民活動によるGM(遺伝子組み換え)ナタネのこぼれ落ち調査が継続して行われている。環境省と農水省も、わざわざ予算をつけて調査を行っている。しかし、EUではEFSA(欧州食品安全機関)が、GM(遺伝子組み換え)ナタネのこぼれ落ちを科学的にレビューした結果、固有の環境リスクは認められないとする論文を発表した。

 以下は、概要を伝える記事の全訳。なお、オリジナルの論文は、SpringerLink で閲覧できる。

TITLE: Spills of GM seed-do we need to worry?
SOURCE: The Birds, the Bees and Feeding the World
DATE: 10 May, 2011

「GM種子のこぼれ落ち-懸念する必要がありますか?」

EUにおいては3系統の除草剤耐性GMナタネの輸入と食品利用が認められています。それらは、EUで商業栽培されていませんが、少量が輸送の途中でこぼれ落ちるかもしれないという懸念があります。種子は畑や自然界で生育し、在来の農作物あるいは野生の近縁種と交雑するかもしれません。

しかし、欧州食品安全機関(EFSA)は、GM種子の輸送には、在来種のナタネ種子を輸送する以上の環境へのリスクはないと結論しました。最近『Transgenic Research』に発表された論文が、除草剤耐性ナタネの輸入管理の必要性について、科学的な証拠を再検討しました。

考えられた最初のリスクは、除草剤耐性ナタネが生息環境にはびこって、野生化した個体群を確立するのではないかということでした。もし遺伝子組み換えが、野生種と比較してなんらかの優越性を植物に与えたなら、それらが野生種を打ち負かして生息環境で優占化するかもしれないからです。しかし、問題の組み換えは除草剤耐性を加えるだけですから、その特定の除草剤が使われるときにのみ、組み換え作物は競合に対する利点を持ちます。懸念されている自然環境では除草剤が散布されませんから、組み換え遺伝子は作物に何の利益もありません。従って、遺伝子組み換えナタネのリスクは、従来からある非組み換え品種より高くないことが見いだされました。

もし野生化個体群が確立されたなら、利用は実際に有害であり得ますが-これらの集団は、放っておかれたなら非常に速く死に絶える傾向があります、除草剤でそれらを処理するのは資源の浪費であり、環境にとっても有害です。

対照的に、農地における遺伝子組み換え作物が、問題を起こすかもしれないという懸念は依然としてあるように思われます。遺伝子組み換えナタネが従来の品種と交雑し、規制されずに食物連鎖の中へ入ります。同じく異なる除草剤に対して耐性を持つ複数の品種が従来の品種と交雑する危険があります。これは、複数の除草剤に対して耐性があり畑において雑草化する可能性を持つ作物をもたらすかもしれません。

しかしながら、こぼれ落ちは主に港湾地域に限定され、リスクは注意深い管理によって最少に抑えることができ、もし問題が起こったとしても、私たちは対処法を持っています。

リスクは、もちろん農作物が商業栽培される場所でこそより高いのです。
ですから、これらの懸念は輸入を阻む理由とはならず、注意深い農場管理を行うべき理由になると思われます。(訳文終わり)

 
 EFSAが述べているのは、

(1) 輸入国においてはこぼれ落ちが起きる可能性があるが、注意深い管理で減らすことができる。
(2) もし、野生化した個体群が形成されれば、そこではじめて優占化が起きる環境リスクが考えられるが、現在のGMナタネは野生種に対して何らの優越性も持たないから、非組み換えナタネ以上の固有のリスクはない。
(3) 万一、野生化した個体群が形成されても、耐性を持たない除草剤で容易に処理できる。

ということだ。

 ラウンドアップなど非選択性の除草剤については、GMで耐性を与えられた作物以外のほとんどの雑草に対して有効であると言われる。ここから、GM作物はあらゆる除草剤に耐性があり、一度はびこったらどんな除草剤をかけても不死身だという誤解が生まれるらしい。
 わが国のこぼれ落ち調査は、環境は固有のものであるから全くのムダとは言えないが、ことGMナタネ固有の環境リスクに関しては、EFSAが述べているレビューの通りだろう。また、あまり知られてはいないが、カルタヘナ国内法に基づく農水省のGM作物安全性評価では、こぼれ落ちに起因するリスクについてもキチンと評価されている。
 やっかいなのは、EFSAが述べている通り、諸外国の農業生産現場におけるGM作物と有機作物などを巡る諸問題だが、これらについては改めて考察する機会もあるだろう。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい