科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

GM作物へのあまりにも多くの不安はどこから来るか?

宗谷 敏

キーワード:

 本稿「GMOワールドⅡ」を開始するに当たり、ここ1年あまりの世界各地の動きを簡単にレビューした。その中で、米国において主に表示されていないことに起因するGM(遺伝子組み換え)食品論争が活発化していることをお伝えした。この現象に対して、農業科学者Steve Savage氏がなかなか面白い分析を展開しているので、今回はそれを紹介する。

TITLE: Way Too Much Angst About GMO Crops
SOURCE: Biofortified
DATE: 9 Jun, 2011

 「GM技術を精査した枢要な科学者パネルのすべてが、他のいかなる栽培品種化された食用作物と比べて同じぐらい安全だと結論しているのに、現実には少数の農作物の種子のみが、商業利用ために遺伝子組み換えされているだけなのに、様々なブログや量産されるコメントには、GM作物についてのあまりに多くの不安が満ちあふれています。
それはどうしてなのか、4つの主な理由があげられます:

1. ブランド保護主義
2. 不利な経済学
3. 同じゴールに到達するための他の方法
4. 反 GMO活動

1.ブランド保護主義

 ほとんどの農産物には、流通チェーンの一部に『集中』している部分があり、それは、マーケットが単独もしくは少数のプレーヤーの手中にあることを意味します。代表例はジャガイモです。米国において、McDonalds社は冷凍フライド・ポテトの支配的なバイヤーであり、たった3本の電話をかけるだけでGMジャガイモの商業展開を止めることが可能でした。

 完全に安全な食品であり、かつ殺虫剤スプレーを必要としないBtジャガイモの登場に栽培者たちは狂喜しました。しかし、純粋にブランド保護のためだけに、McDonalds社は全ての産業からこの進歩を奪うことができたのです。

 この種のブランド保護のもう一つの例が、農家が1シーズンの殺虫剤スプレーを8~10回節約でき、人体に有害なカビ毒フモニシン汚染のリスクを大幅に減らすのに、『Btスイートコーン』の使用を阻止したFrito-Lay社です。

 ブランドは非常に貴重なものであり、そして熱烈に保護されています。それをよく知っているGreenpeaceのような活動家は、抗議の脅威を、そのビジネス的直感と農家や消費者にとっては反生産的な決定へと変えるために使うことが可能になります。

2.不利な経済学

 GM作物を作るのはそれほど高価ではありませんが、当局の規制をクリヤーするためには莫大な費用がかかります。その作物が、とても大規模に栽培されるか、非常に貴重か、あるいはその両方である場合だけ、計画に終わらず研究開発への投資を可能にします。特に、もしマーケティングリスクがあるならなおさらでしょう。

 かつて私は、耐病性バナナの開発を手伝いました。中央アメリカでは、農薬空中スプレーが毎週必要とされており、バナナは世界的に大規模に栽培される作物ですから、『投資対効果』が魅力的だろうと確信したのです。

 驚いたことに、私たちの試算結果は、メリットに乏しい投資となりました! 問題は、バナナプランテーションが、ほぼ20年ごとにしか植え換えられないということです。したがって、新技術が利用可能であっても、毎年植えられるのは小さい面積だけでしょう。『お金の時間価値』が要因に入れられるや、50回分の農薬空中スプレー費用の節約では、登録申請諸費用をカバーするために十分ではないことが分かったのです。

 ですから、栽培者が投資のために団結しないなら、マイナーな農作物とほとんどの多年生農作物は、決して GMO にはならないでしょう。気候変動と労働力低下の問題で、コーヒー産業全体は危機的状態にありますが、コーヒーは決して GMO にはならないでしょう。

3.同じゴールに到達するための他の方法

 GMされた少数の作物に対する投資をはるかに越えて、途方もなく巨額の世界的な投資が公共と企業によって、バイオテクノロジーに対して行われました。それは、どのような『外来のDNA』導入も伴わずに植物の遺伝子を変える多くの新しい方法の開発を導きました。

 上記のカテゴリー2に適している農作物の大部分が、おそらくこれらの代替法(マーカー利用選抜、部位特異的突然変異誘発、倍数性育種・・・)を使って改良されるでしょう。

 これらの改良は、高価な規制上の障壁を伴わず、これまでのところ、(突然変異誘発によって作出された『隠された GMO』ヒマワリへの攻撃をただ一つの例外として)活動家の怒りを買っていません

4. 反 GMO活動

 植物の遺伝子工学は、今までの歴史上で最も慎重に熟慮された新技術の導入でした。初の商業用種子が植えられる少なくとも10年前に、私は安全性と環境への疑問に関する大規模な科学的会議に出席した覚えがあります。私たちは、生態学者、植物学者、社会学者、経済学者、分子遺伝学者、食品産業専門家らと、あらゆることを徹底的に論じ合いました。

 しかし、これらは、この問題に飛びついて資金を集め注意を引こうとする『環境保護』グループに、なんの影響も与えません。分子遺伝学は、ほとんどの消費者が理解しない、動きの速い科学なので、活動家の仕事はより楽でした。

 同じく報道機関は、ジャーナリズムが標準的に必要とする程度には、これを理解する時間をとることを好みませんでした。そして、不安を煽るのを打ち消す助けとはなりませんでした。

 これが、一部の活動家が主導する拒否について、私が説明できる唯一の方法です。

 過去、もっとも多く読まれた私のブログは、「ワインのための悲しい日、科学のための悲しい日」というタイトルでした。線虫(Xiphenema index)によって広められるブドウファンリーフ病ウイルスと呼ばれるウイルスがあります。このコンビがブドウ園を荒らすと、樹が枯死してしまうので、上質のワインを再びそこで生産できません。

 ブドウは『台木』の上に接ぎ木して栽培されますが、コーネル大学はウイルスに対して抵抗するよう台木を組み換えました。上部のツルは変化させず、たった1種類の台木を開発しただけなので、これはブドウファンリーフ病ウイルス問題に対するエレガントな解決でした。

 昨年の秋に、この新技術の試験栽培が、自分たちはフランスのワイン産業を『遺伝子汚染』から救っているのだと信じる活動家たちによって、土壌から引き抜かれてしまいました。その恐れは100%非合理的です-それは決して花を咲かせない地下の台木(根付き苗)です。それに、ブドウは、ともかく種子からは栽培されません。異なる様々な品種のワイン用ブドウが、なんらの悪影響なしに常に並べて植えられています!

善か悪か? 小麦の場合は…

 そのような訳で、様々な理由から極めて少数の農作物しかGMO の追加はないでしょう。それをもって、 GMO が食料供給へのわずかな貢献でしかないとは言えないはずです。

 トウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネ、テンサイとアルファルファは GMO であり、何億エーカーも栽培され、多くの加工食品、肉とミルクにたどり着きます。依然として、私は GM農作物は有益であり得ると論じ続けるでしょう。

 少しばかり素晴らしいワインなしでも、世界は生き残れるでしょう。しかし、活動家によって生み出された恐れが、ブランド保護主義を導き出すことによって『勝利した』他の農作物はどうでしょうか?— そうです。コムギ、すなわち地球上で2番目に大きな食用作物のことです。

 2004年までに、Greenpeaceはヨーロッパの主要な製粉業者と製パン業者に、もしどれかが GMO になったら、北米産のコムギを購入しないと脅迫させるために十分な恐れを生み出すことに成功しました。

 カナダの小麦委員会はまごつき、そして2種類の商業化寸前だったコムギのトレイト(特徴)が止められました。1種類の GMコムギが不耕起栽培により農作業を容易にし、専門使用のため純粋度の維持をより容易にしたでしょう。もう一つ他の GMコムギは、カビ毒汚染と共に、病気関連の収率損失を減らしたでしょう。

 公衆を教育するよりも、恐れを刺激することがはるかに簡単です。『A Warming Planet Struggles to Feed Itself』と題されたJustin Gillisによる素晴らしい記事 が、2011年6月4日の『New York Times』に掲載されました。

 記事の大部分は、コムギ生産が、増加する世界の需要を十分に満たすのにどのように失敗し続けているかについてです。GM技術は、この挑戦への完全な答えなどではありません。しかし、私たちがコムギ改良の道具箱にGMを含めていないという事実は、私の考えでは明快に『悪』なのです。」(抄訳終わり)

 Steve Savage氏の分析で注目されるのは、本質的問題は純粋な安全性ではない、という主張だろう。しかしながら、本稿末尾から延々と続く多数「量産される」コメント(現在74本)では、先ずBt作物の食品安全性を疑問視する反論から始まって、GM賛否両サイドからの激しい応酬が展開されている。Savage氏自身もところどころで参戦しているので、興味のある方は本文に続けて読まれたい。

 もう一つ穿った見方を追加してみよう。米国議会下院では、テネシー州選出議員により、GM承認手続きをもっと合理化して、承認に要する時間を短縮しようとする議員立法 が準備されている。

 法案提出の大義名分は、差し迫った人口増加と食糧危機に対処するために、米国は早急に食糧供給責務を果たすべきだというものだ。2つを並べると、Savage氏の主張は研究者サイドからのなかなかクレバーな法案サポートと見ることも可能かもしれない。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい