GMOワールドⅡ
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
2015-16年年末・年始のGMO(遺伝子組換え) Worldは、米国を中心に例年に比べてかなり騒がしかったように思える。そこで、12月から1月初旬の世界の主な動きをログ形式で整理しておく。米国(主にGM食品表示)とEU(主にopt-out)については、最近の本稿でも都度フォローしてきたので、重複するトピックは省略した。
<Ⅰ.北・南米編>
<米国>
12月2日 USDA(米国農務省)・APHIS(動植物検疫局)が、Syngenta社の除草剤グリホサート及びグルホシネート耐性GMトウモロコシMZHG0JGを規制緩和、Syngenta社はFDA(食品医薬品局)と安全性協議中。
12月7日 MIT(Massachusetts工科大学)とHarvard大学が、CRISPRを用いてGMバクテリアのDNAを消去するキル・スイッチ「Deadman」と「Passcode」の開発に成功したとNature Chemical Biology誌に発表、GM微生物や作物の環境中へのエスケープ抑止に応用が期待される。
12月8日 FDAは、Alexion Pharmaceuticals社の製薬用卵生産GMチキン(非食用)を承認。
12月11日 USDA・APHISは、1月1日よりGMコムギ圃場試験栽培申請に対する承認を厳格化。
12月11日 Dow Chemical社とDuPont社が合併を発表した。合併後の新社名をDowDuPont社とし、ビジネスを農業、物質・素材科学、特殊化学品に3分割して再編する。
12月15日 連邦議会上・下院は、総額1兆1000億ドル(約130兆円)の2016会計年度(15年10月~16年9月)包括歳出法案について合意し、12月18日に可決(下院賛成316対反対113、上院賛成65対反対33)した。州によるGM食品義務表示を禁じるライダー(付加)条項は入らなかった(本件は、連邦議会上院において1月から継続審議される)。一方、FDAが表示方法を開発するまで、AquaBounty Technologies社のGMサケの国内販売を禁止した。また、カナダとメキシコからのWTO提訴で敗訴した赤肉への原産国義務表示制度(COOL)が撤廃された。
12月18日 USDA Tom Vilsack長官が、年明け早々GM食品表示賛・否討論会を招集するとメディアインタビューで表明。
12月20日 初の遺伝子編集による角無し仔牛2頭が、ミネソタ州の研究所からUC(California大学)Davis校に到着し、角無しが後代に遺伝するかどうかを調べられると報道された。
12月21日 CDC(疾病管理予防センター)が、カンザス、オクラホマ及びノースダコ州のChipotle Mexican Grill社複数店舗における大腸菌(O26)による食中毒事故を調査していると公表した。その後、ノロウイルスによる食中毒(カリフォルニア州、マサチューセッツ州など)も含め、全米9州の同社レストランで事故が頻発していることが判明し、Chipotle社の株価と販売は下落した。同社は、GMOフリーを標榜してきたことから、一部にはGM企業陣営によるバイオテロ説まであるが信憑性は薄い。GM成分排除による食材調達ルートの変更が、むしろ消費者の安全を害したことは皮肉であり、教訓的だ。
12月22日 オレゴン州ジャクソン郡の2014年5月のGM栽培禁止令に対し、GMアルファルファ栽培2農家が起こした訴訟で、農家に8年の猶予期間を与えることで和解が成立。
12月24日 FDAは、「Natural」食品表示に対する定義と使用法に関するパブリックコメントの締切りを2月10日から5月10日に延長。
1月4日 Center for Biological DiversityとCenter for Food Safetyが、米国魚類野生生物局に対し君主蝶保護政策の遅れについて訴訟を起こすと発表。
1月7日 Campbell Soup社が、GMOs は安全であると認識しているが、政府の方針とは関係無く自社製品にGM食品表示を実施し、GM食品義務表示を支持すると発表。
<カナダ>
12月24日 カナダ連邦裁判所は、2014年1月20日のEcology Action Centre(EAC)とLiving Oceans Societyによるカナダ環境省と保健省のGMサケ卵生産認可は環境保護法令違反だとする訴訟を却下、原告側は控訴を検討。
<ブラジル>
1月7日 ブラジル法務省は、GM食品表示(閾値1%以上)を怠ったとして、Nestle、 Pepsicoなど6社に対し罰金を課した 。
<ヴェネズエラ>
12月23日 国民議会は、GM種子の生産、販売と輸入の禁止を議決。
<Ⅱ.ヨーロッパ編(*:EU非加盟国)>
<EU>
12月4日 欧州委員会は、除草剤グリホサート耐性GMトウモロコシMON87427並びに除草剤グルホシネートとグリホサート耐性GMトウモロコシNK603 x T25の輸入及び食品と飼料への利用をデフォルト承認したが、12月3日には欧州議会環境委員会が、12月15日には欧州議会がこれに反対を表明。但し、欧州委員会に対する拘束力はない。
1月1日 EU理事会議長国が、ルクセンブルクからオランダに交替。
<EFSA(欧州食品安全機関)>
12月15日 EFSAは、サントリーのGM色変わりカーネーションSHD-27531-4の輸入と販売のための安全性を承認。
<*アゼルバイジャン>
12月14日 政府が、GMタバコ、ワイン(ブドウ)とワタの輸入と生産を禁止。
<オランダ>
12月3日 オーガニックと環境保護NPOのグループが、環境と健康に対して犯罪的だとしてMonsanto社をハーグの国際刑事裁判所に提訴すると COP21開催中のパリで発表。
<英国>
12月7日 Imperial College Londonが、CRISPR-Cas9を用いてマラリア媒介ハマダラカ(アフリカの「Anopheles gambiae」)の雌の産卵に関する遺伝子を非活性化して不妊にする「Gene Drive」に成功したとNature Biotechnologyに発表した。尚、米国のUC Irvine校も、CRISPR-Cas9を用いてハマダラカ(アジアの「Anopheles stephensi」)のマラリア原虫を無害化しこの性質が子孫の蚊に受け継がれるようにした、と11月23日にPNASに発表している。
12月17日 上院(貴族院)科学技術特別委員会が、EUの不適切な(GM)規制を批判し、人命や作物を救うGM蚊や蛾の野外試験を率先して開始することは英国の 「道義的責務」だとする報告書を発表。
<Ⅲ.オーストラリア編>
1月6日 オーストラリア連邦議会緑の党代表Richard Di Natale上院議員(医師)が、自分はGM技術に対する哲学的、イデオロギー的な反対姿勢を持たず、GM食品がヒトの健康に有害だとは信じないと発言し、従来の同党の政策との矛盾が物議を醸している。
<Ⅳ.アジア編>
<中国>
12月22日 COFCOは、Noble Agri社の全株式を取得し、完全買収。
1月6日 Greenpeaceは、遼寧州で農家がGMトウモロコシを違法栽培していると告発し、地方政府が調査を開始した。
<台湾>
12月14日 議会は、学校給食へのGM食品禁止を議決。
1月1日 GM食品表示の混入成分閾値を5%から3%に下げる規制が発効。
<インド>
12月18日 農業省は、公正取引委員会(CCI)にMahyco-Monsanto Biotech (India)社によるBt種子の独占的な販売価格決定疑惑に関する調査を依頼
12月21日 政府は、現在州毎に異なった価格で販売されているBtワタ種子に最高市販価格(MSP)を定めるなど販売価格統制への介入を決定し、バイテク業界が反発。
12月26日 カルナータカ州からアーンドラ・プラデーシュ州に至るライチュール地方で、Btワタの80%がpink bollwormに敗北したと報道された。
12月29日 Mahyco社の姉妹企業Gangabishan Bhikulal Investment and Trading (GBIT)社は、英国Oxitec社と提携してマハラシュトラ州にGM蚊研究センターを運営。
1月4日 Genetic Engineering Approval Committee (GEAC)は、Delhi大学が開発・申請したGMマスタードの商業化に関する検討を開始。
<フィリピン>
12月8日 最高裁判所が、Btナスを含むGM作物の試験栽培を禁止し、既存のバイオセーフティガイドラインを一時的に無効と裁定した。広く報道されたが、細部事実関係には疑義も 。
<Ⅴ.アフリカ編>
<南部アフリカ>
1月7日 長引く干ばつ被害が、南部アフリカ諸国においてGM拒否から受容(輸入・栽培)に向かう動きを後押ししているとReuter紙が報道。
<ケニヤ>
1月5日 National Biosafety Authority (NBA) は、NK603 Rat Studyに影響された政府による2012年11月からのGM作物(輸入)モラトリアムの解禁を推奨した。
<ザンビア>
12月24日 政府がバイオセーフティ法案の設定について検討を開始。
<VI.国際機関編>
11月30日~12月13日 国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)及び京都議定書第11回締約国会合(CMP11)が、フランスのパリで開催され「パリ協定」が採択された。
<VII.遺伝子編集技術について>
一部メディアが2015-16年を「遺伝子編集の年」と評した通り、年末・年始にかけてクォリティ紙、科学紙誌はこぞって遺伝子編集就中CRISPR-Cas9を特集し、解説や期待について述べた。
代表して、1月3日 BBC紙「Could scientists create dragons using CRISPR gene editing?」及び1月5日 BBC Focus Magazine「Welcome to Gene Club: underground genome editing」と、12月3日 Nature誌「Agriculture: A new breed of edits」を挙げておく。
(1月12日9:10公開、20:40にブラジル、ヴェネズエラの内容等を追加しました)
油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている
一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい