科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国のGM食品表示をめぐる今年1年の動きをレビューする

宗谷 敏

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 2015年12月11日で会期を終える筈だった米国議会は、上院下院が、ともに包括予算案審議を継続するために日程を延長した。この議案に、州によるGM(遺伝子組換え)食品義務表示を禁止するライダー(付加)条項を挿入するように食品業界が激しいロビーイングを展開している。

 食品業界がこれを吃緊の問題と捉えているのは、2014年5月8日に州知事が署名し全米初となるヴァーモント州のGM義務表示法が、法廷係争中ではあるものの2016年7月1日に発効するからである。激動と言ってもいいGM食品表示を巡る米国のこの1年を、時系列でレビューする。

1月31日 Monsanto社株主総会が、GM食品表示に協力するべきとする一部株主からの提案を96%で否決。

2月12日 連邦議会では、上院でBarbara Boxer上院議員(カリフォルニア州、民主党)が、下院でPeter DeFazio下院議員(オレゴン州、民主党)が各々GM食品義務表示法案「Genetically Engineered Food Right-to-Know Act」(上院S.511支持14名、下院H.R.913支持51名)を議員立法した。しかし、12月2週現在両院での委員会審議をクリヤーできす、会期切れ廃案となる見通し。尚、S.511を支持するBernie Sanders上院議員(ヴァーモント州、無所属)が、4月30日に民主党から大統領選挙に出馬している。

3月24日 連邦議会下院農業委員会は、GM食品義務表示について識者とステークホルダー6名による公聴会を開催した。陳述人全員が義務表示反対を表明した。

3月25日 連邦議会下院でMike Pompeo下院議員(カンザス州、共和党)が、GM食品表示に関する法案H.R.1599「The Safe and Accurate Food Labeling Act of 2015」を議員立法し、最終的に106名の支持を取り付けた。

3月29日 Washington Post紙が、GM食品表示は不要との社説を掲げた。

4月27日 ヴァーモント連邦地方裁判所は、GMA(全米食品製造業者協会)、SFA(スナック食品協会)、IDFA(国際乳製品協会)とNAM(全米食品製造業者協会)が要求した裁判所によるヴァーモント州GM食品義務表示法「Act 120」の16年7月1日施行差し止めを却下した。これを不満とする原告側は、5月6日連邦第2巡回区控訴裁判所(ニューヨーク市)に控訴し係争中。尚、コネチカット、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、イリノイ、ニューハンプシャー、ワシントン州及びハワイ州の検事総長グループが、ヴァーモント州を支持する弁論趣意書(amicus brief)に署名している。GMAは、係争中のGM食品表示法違反に対する1日最高1千万ドルの罰金は承服しがたいとヴァーモント州知事に6月17日出状したが、州知事は「あなたは製品に表示するだけで良い」と突っぱねる。

5月1日 USDA(米国農務省)Tom Vilsack長官は、USDA職員宛回状によりAMS(農業販売促進局)によるProcess Verified Programに新たに任意のNon-GMO認証と表示を加えることとしたと通告。後にカナダSunOpta社からの要請に従ったものと判明する。

7月2日 ホワイトハウスは、バイオテクノロジー製品に監督責任を持つ政府3機関EPA(環境保護局)、FDA(食品医薬品局)及びUSDAに対し、規制のフレームワークをアップデートするようメモを送付。

7月14日 連邦議会下院農業委員会が、H.R.1599を可決承認。

7月21日 連邦議会下院議事運営委員会が、H.R.1599を可決承認。

7月23日  連邦議会下院(議席定数435、欠員2)は、賛成275票対反対150票、棄権8票の大差でH.R.1599を可決。同法案は上院に送られたが、農業・食糧・林業委員会で2回の読会が開催されたのみで動きがない。姉妹法案を議員立法すると観測されていたJohn Hoeven上院議員(ノースダコタ州、共和党)も、Debbie Stabenow上院農業委員会議長(ミシガン州、民主党)との折衝努力に留まっており、12月2週現在上院での可決に必要な60票が得られる可能性は低い。

7月28日 ホワイトハウスは、「GM食品義務表示を支持して下さい(11万5501筆)」、「すべてのGM食品に表示して下さい(6万7221筆)」という請願に対し、FDAが既に食品企業による任意表示に取り組んでいるとのみ回答。

8月5日 共にハリウッド女優であるGwyneth Paltrowと母親Blythe Dannerが、GM食品義務表示を求めるJust Label It! キャンペーンを支持するために連邦議会に陳情し記者会見。

10月8日 21州の超党派州議会議員95名が、H.R.1599と州がGM食品表示法を制定する権利に優先するいかなる連邦法にも反対するよう依頼状を連邦議会に提出した。

10月22日 連邦議会上院農業・食糧・林業委員会が、GM食品と表示に関し規制する3政府機関並びに参考人5名からヒヤリング。FDAは、GM食品は対照する非GM食品と同程度に安全であり、義務表示はなじまず任意表示を支持すると説明した。

11月10日 FDAは、「Natural」食品表示に対する定義と使用法に関するパブリックコメントを公募(2016年2月10日まで)。訴訟が頻発している加工食品中のGM成分は「Natural」であるのかどうかは議論の重要な部分になってくる。

11月19日 FDA が、AquaBounty Technologies社のGMサケを食用認可し、同時にGM食品任意表示ガイダンス案を公表、パブコメを公募(2016年1月25日まで)。

12月1日 NY Times紙が、GMサケへの消費者選択のためのGM食品表示を支持し、上院は州のGM食品義務表示を妨害すべきではないとする社説を掲載。

12月2日 GMAは、GM成分、栄養成分、アレルギー物質などを統合するQRコードによる食品表示案「SmartLabel initiative」を提案した。大手食品企業30社余りが既に合意している。バーコードをスキャンできるスマートフォンの2015年10月に発表された米国成人への普及率は68%だが、これを待たない消費者も売り場でバーコードリーダーを利用できると主張。

12月4日 食品・農業・バイテクの業界団体を糾合するCFSAF(Coalition for Safe Affordable Food)は、連邦議会に対しコスト上昇と消費者の混乱を招く各州によるGM食品パッチワーク(義務)表示を至急阻止すべきとの意見書を提出した。12月7日、GM食品義務表示化運動の総本山であるJust Label It! キャンペーンが直ちに反論を発表した。

 以上を簡単に整理すると、

(1) 包括予算案に州によるGM食品義務表示を禁じるライダー条項が入るか?
(2) 連邦議会(上院)のGM食品任意表示法案の行方。
(3) GMAによるQRコード表示妥協案の成否。
(4) FDAによるGM食品任意表示ガイドライン案と「Natural」表示に対するパブコメとリアクション。
(5) (1)や(2)が滞った場合、ヴァーモント州のGM食品義務表示規則は2016年7月に発効するか?

などが注目ポイントになるだろう。
 尚、この1年及び遡ってGM食品義務表示に関する様々な規模・切り口の世論調査が実施されてきたが、設問設計などの詳細を論ぜずに最終結果の数字のみを一人歩きさせることはあまり好まないので、すべて割愛したことをお断りしておく。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい