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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国Obama政権はバイテク規制をアップデートする計画を発表

宗谷 敏

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 2015年7月2日、米国Obama政権の科学技術政策局(the White House Office of Science and Technology Policy: OSTP)は、規制当局に対しバイテク製品規制のフレームワークをアップデートするよう求めたメモを発令した。ホワイトハウスの科学技術アドバイザーJohn P. Holdrenらスタッフ4名による(一般向け)ブログポスト全文を読んでみよう。

バイオテクノロジーの透明性を改善し、継続的な安全性を担保すること

 1986年に、ホワイトハウスOSTPはバイテク製品(訳者注:政府機関宛メモの定義では、植物、動物と微生物を含めて、遺伝子工学または生体の遺伝子情報を標的とした、または人工的操作を通して開発された製品を意味し、既存の法令と法規により決定されているように、同じくこのような植物、動物と微生物によって生産される製品またはそれらから得られた製品の一部をカバーするが、ヒトの医薬品および医療機器は対象としない)の安全性を担保するために、包括的な連邦の規制政策を取りまとめた調和的なフレームワークを発表しました。

 このフレームワークは、1992年に更新(訳者注:プロセスではなく製品と環境を評価すべきと方針を明確化)されました。

 バイテク製品のための現行の規制システムは、健康と環境を効果的に守ってきましたが、1992年以来の科学技術の進歩が製品の展望を様変わりさせつつあります。

 さらに、規制の配置とバイテク製品を管轄する3つの連邦機関によるガイダンス文書の複雑さは、公衆がバイテク製品の安全性はどのように評価されているか理解することを困難にしており、これら製品の規制プロセスに従うことは、特に小企業にとっては不当に厄介(訳者注:主にコスト面)です。

 これらの状況を踏まえて、いま一度調和的なフレームワークを再検討することが必要です。

 そこで、本日ホワイトハウスはこれらの製品に対する監督責任を持つ3つの連邦機関-環境保護庁(EPA)、食品医薬品局(FDA)及び農務省(USDA)-を指導するメモを発令しました。その目的は、調和的なフレームワークをアップデートし、システムがバイオテクノロジーの未来の製品に対応できることを担保するための長期的な戦略を開発することです。そして、この目的達成のためにバイテク製品の未来の展望を分析する専門家を委嘱することです。

バイオテクノロジー規制において増大する透明性と予測可能性

 目的達成のゴールは、規制システムに対する国民の信頼を確保し、透明性、予測可能性(訳者注:つまり不確実性を減殺するという意味)、調和を改善し、究極的にはバイオテクノロジー規制の効率を向上させることにあります。

 目的達成のための3つのコンポーネントについてもう少し細かく述べれば:
最初に、政権は規制プロセスにおけるEPA、USDA及びFDAの現在の役割と責任を明確にすることによって、調和的なフレームワークを、国民への公表の後に、アップデートするでしょう。

このアップデートは、どのバイテク製品分野が各々の政府機関の権威と責任の守備範囲にあるかを明白にして、複数の政府機関の縄張りにあるかもしれない製品を規制するために、政府機関がどのようにして一緒に働くのかを概説するのを助けるでしょう。

 次に、政権はバイオテクノロジーの未来の製品に関連するいかなるリスクも効果的に査定するために連邦の規制システムが十分に整っていることを担保するために、国民への公表の後に、長期的な戦略を開発するでしょう。

 これは、新しいバイテク製品の周期的な水平走査の実行、規制活動を周知させるために科学的な裏付けをまとめること、規制システムに従えるように中小企業を支援するツールの開発、そして政府機関の情報、実務と意志決定のベースを提供するためのユーザフレンドリーなデジタルツールの作成などを含むでしょう。

 三番目に、政権は外部の独立した組織を委嘱して、バイテク製品の将来の展望の分析を行うでしょう。

 政権は、既に全米科学、工学、医学の全米アカデミーにこれらの分析を依頼済みです。

 これらのコンポーネントの各要素について、より多くの詳細が本日発令された政府機関宛のメモにあります。

 皆さまからのご意見を下さい

 政権は、このプロセスの全てを通じて国民による参画の重要性を認識しています。

 このプロセスの一部として、政権は今後1年間にわたって3回の公聴会を国内の異なる地域で開催するでしょう。

 最初の公聴会は、2015年秋にワシントンD.C.で開催されます。

 さらに、調和的なフレームワークのアップデートについては、最終決定する前に公示とパブリックコメントが実施されるでしょう。

 もしあなたが公聴会についての詳細を含め、これらの活動に関する最新情報の提供を望まれるなら、こちらに登録してください。

 気がついたことを少し書いておく。遺伝子編集などの産業界の新技術が現行規制を追い越してしまったから、規制改革が必要だということは理解できるし、この点では政権の判断は正しい方向に向かっている。しかし、政府機関宛のメモを読んでも、ブログポストを詳しくしただけでそれ以上の情報は僅かだ。つまり、これらは顧客(国民)向けメニューであって調理人(規制当局)へのレシピがないか乏しい。

 新設置されるBiotechnology Working Group under the Emerging Technologies Interagency Policy Coordination Committee (ETIPC)を中心とする見直し作業は1年以上かかる見込みであり、2016年秋の政権交代を経るかもしれないが、次期大統領候補に有力な民主党Hillary Clintonと共和党Jeb Bush(現在のところワイルドカードが開く可能性は薄い)は共にバイテク支持者なので、ホワイトハウススタッフが替わっても大きな方針転換はないだろう。

 ブログポストにある「ユーザフレンドリーなデジタルツールの作成」を拡大解釈すれば、Tom Vilsack USDA長官がしばしば言及しているスマートフォンを用いてバーコードを読ませるというGM食品表示方法をカスるのかもしれないが、世論やメディアが沸騰している遺伝子組換え(GM)食品(義務)表示には全く触れていない。行間からは、むしろリスク評価をアップデートしてその強固堅牢振りを国民が理解すれば、表示なんか不要だろうという従来からの下心も透けて見える。

 ブログポストとメモには、単語として「label」や「labeling」は一切登場しない。しかし、公聴会やNGOやオーガニック業界からの質疑や意見は表示に集中する可能性が高い。連邦議会下院が審議中のGM食品表示を任意とし州政府のGM義務表示制度を禁止するH.R. 1599- Safe and Accurate Food Labeling Act of 2015の動向とも絡むが、安全性ではなく消費者の知る権利だという主張に対し、ブログポストとメモでは透明性や国民参加を強調している政権側の捌き方や落とし所も注目される。

<一部参考記事>
7月2日 Reuters by Carey Gillam
「White House directs GMO regulators to update, improve oversight」

7月2日 New York Times by Andrew Pollack
「White House Orders Review of Biotechnology Regulations」

7月2日 Grist by Nathanael Johnson
「Team Obama plans big overhaul of GMO regulations」

7月6日 National Journal
「Can the White House Convince Americans that GMOs Are Safe?」

<米国の現行バイテク規制に関する参考資料>
生命科学系データベースアーカイブの「米国における規制の解説」「米国における規制の解説(個別編)」

Food Watch Japan収載の元FDAバイオテクノロジー安全性専門官James H. Maryanski博士による「米国のバイテク食品安全性評価――FDAは義務化せず」

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい