科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

肉の生食問題 5つのポイントと今後の対応

瀬古 博子

キーワード:

 「集団食中毒で男児死亡、生肉のユッケが原因」、「生食用でない肉をユッケに」、「別の焼肉店でも男児死亡…加熱用肉を生食提供」・・・。
 富山県と福井県で起きた食中毒に関する新聞記事ですが、「生食用」に言及した見出しには違和感を覚えました。今回の問題で重要なことは、「どんな肉でも生食は食中毒の原因となりうる」ことではないでしょうか。
 腸管出血性大腸菌による食中毒と肉の生食について、5つのポイントを示します。

(1)腸管出血性大腸菌は、牛の腸管などに存在しています
 腸管出血性大腸菌O157の場合、と畜場に運ばれてくる牛の保菌率は10%を超える状況とされています。牛は、腸管出血性大腸菌を保菌していても症状を出さないのです。

(2)生食用牛肉、牛レバーの出荷実績はありません(2008年度)
 生食用と表示され市販されていた牛レバーについて、腸管出血性大腸菌O157の汚染状況を調べた調査結果があり、それによると牛レバーの汚染率は1.9%でした。ただし、生食用食肉の衛生基準に適合した牛肉、牛レバーの出荷実績はないとされており、流通の実態との間に食い違いがあります。

(3)腸管出血性大腸菌による食中毒は、焼肉店などの飲食店で多く発生しています
 原因食品は、焼肉、レバー、ユッケなど、食肉に関係するものが多くなっています。

(4)肉やレバーを「生で食べる」ことが原因で、食中毒が多く発生しています
 生食だけでなく、加熱不十分な状態で食べること、生の食肉にふれたトングを食品に使ったりすることも腸管出血性大腸菌による食中毒の原因となりえます。

(5)子どもやお年寄りに多く発生しています
 子どもやお年寄りでは重症化しやすくなります。特に9歳以下では合併症の溶血性尿毒症症候群の発症率が高くなり、発症すると約1~5%が死亡するとされています。

●「農場から食卓まで」の対策が重要

 食品の安全確保のためには農場やと畜場、食肉加工場での衛生管理も重要ですが、消費する段階でもやるべきことはあります。それは「きちんと加熱すること」。腸管出血性大腸菌は75℃1分間以上の加熱で死滅します。かたまり肉は表面を加熱し、ハンバーグのような挽肉料理は中心部までしっかりと加熱。そのような当たり前のことで、食中毒を防ぐことができます。

●消費者にリスク情報の提供を

 飲食店に対しては、地域の保健所などが、肉の生食を提供しないよう地道に指導を続け、消費者にも食べないように呼びかけています。しかし、こうした取り組みでは限界があります。生食などのグルメブームを演出してきたメディアは、食中毒のリスクを考慮した上で食情報を伝えていく姿勢が求められます。
 飲食店でのレバ刺しなど生食メニューを「それでも食べる」という人は、リスクを理解し、納得した上で。また、子どもやお年寄りは生では食べないように、周囲が注意することが大切です。

<参考:食品安全委員会「食中毒病原微生物に関する食品健康影響評価のためのリスクプロファイル(牛肉を主とする食肉中の腸管出血性大腸菌)平成22年4月

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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