科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

今月の質問箱

「植物防疫所」ってどんなところ?

瀬古 博子

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海空港にある検疫所といえば、日本に入ってくる人の検疫や輸入食品の水際監視を行う厚生労働省の検疫所、そして、動植物等の検疫を行う農林水産省の植物防疫所・動物検疫所がある。
「検疫」とは、「国内に常在しない感染症の病原体が持ち込まれるのを防ぐために、港や飛行場などで、旅客・貨物などを検査し、必要に応じて隔離・消毒その他の措置を行うこと。」(デジタル大辞泉(小学館))

今回、少人数の消費者グループで、羽田空港の植物防疫所を見学してきた。植物検疫とは、いったいどのようなことをするのだろう。

植物検疫で見つかる害虫

 

●輸入検疫の流れ

海外から日本の植物に被害をもたらす病害虫が侵入してきたら、日本の農産物や生態系にとっては一大事。そのような事態を防ぐために、輸入検疫を行うのが、農林水産省の植物防疫所。輸入だけでなく、外国からの要求に応じた輸出検疫、重要病害虫の国内でのまん延を防ぐための国内検疫も行っている。

図:植物防疫所ホームページよりhttp://www.maff.go.jp/pps/j/introduction/import/ikensa/index.html

・輸入検査の結果、輸入禁止品に該当せず、植物検疫の対象となる病害虫の付着がなければ合格となり輸入可能になる。
・輸入禁止品に該当した場合は、輸入することができない。
・植物検疫の対象となる病害虫が付着していた場合は不合格となり、消毒、廃棄または返送の措置が命じられる。消毒が命じられた場合、消毒後に輸入できる。
・検査不要品とは、木工品や製茶など高度に加工され、病害虫が付着するおそれがないもの。

●野菜や切り花は、すべて検査

植物防疫所では、輸入されるすべての植物について、必要量のサンプルを抽出して、目視で検査する。
見学時には、USDAオーガニックのマーク付きの葉物やオーストラリア産アスパラガス、オランダ産パプリカなどの検査が行われていた。小袋に入っているものは小袋から取り出し、トレイの中にあけて検査する。検査したものは無駄になるということではなく、事業者に返却される。野菜とは別の部屋で、カラーカーネーションなどの切り花も、台の上に広げられ、検査を待っていた。

●同定官が害虫を同定

見つけた虫は顕微鏡でチェックされ、「同定官」という専門家が確認する。同定官は、毎年いくつぐらいの虫を見ているのか? 尋ねてみると、ここでとれた虫すべてに目を通すので、年間5,000~6,000件の虫を見ていることになるそうだ。

植物に病害虫がついているといっても、わずか1ミリ程度の虫の卵であることも。卵では、それがどのような虫なのか、検疫対象となる害虫なのかなど、判別できない。そこで、卵から害虫を飼育し、成虫になったところで同定する。虫は、種によって交尾器に特徴的な違いが現れやすいなど、判別のポイントがあるらしい。

虫の飼育は閉鎖空間内で行い、虫のエサとなる葉物も、ほんの少量だが、同じところで農薬を使わずに栽培している。市販の野菜は、殺虫剤の影響があるかもしれないので、使わない。

成虫は標本に

●検疫探知犬の活躍ぶり

ここまでは航空貨物の検査の話だが、ここからは旅客ターミナルに移って、旅行客の携帯貨物の検査を見学。チチュウカイミバエやミカンコミバエが発生している国々や地域からは、ほとんどの果実、果菜類が持ち込めない

飛行機から降りて入国してくる人たちが通る荷物受取所で、検疫探知犬の活躍ぶりを見学した。オスのビーグル、バッキーくん、10歳だ。

探知犬カレンダー(10月)

探知犬であることを示す水色のベストをつけて、ハンドラーと呼ばれる担当官に連れられ、荷物がまわるベルトコンベアーの周辺で、旅行客のまわりを歩き回る。持ち込みを禁止されている食肉製品やマンゴーなどのにおいを探知すると、「おすわり」をして知らせる。
バッグの中に食べかけのお弁当を入れている人などが見つけられ、動物検疫・植物検疫のカウンターで、問題の品は没収に。「没収されるぐらいなら」と、その場で食べてしまう旅行者もいた。

バッキーくんは撮影禁止だったので、「探知犬カレンダー」から紹介しよう。

これまで、フィリピン産グァバの生果実から、ミカンコミバエなどのミバエが500匹以上出てきた例もあるそうで、手荷物といえども油断できない。
没収された果実などは、オートクレーブで高温高圧処理されたりして、空港内の焼却炉で処分される。

手荷物からの害虫飼育。成虫になったら標本に

見学を終えてから、植物防疫所のホームページで、植物検疫統計の詳細なデータが公表されていることを知った。例えば、オーストラリアから輸入されたアスパラガスであれば、2017年には770件(2,584,501㎏)が検査され、うち523件(1,855,746㎏)が消毒され、1件(1,200㎏)が廃棄処分になったことがわかる。

輸入食品を植物防疫の視点から見て、日本の農業を守る取り組みやグローバル化への対応など、気づかされることの多い見学だった。

参考:http://www.maff.go.jp/pps/index.html
2018年11月1日FOOCOMメルマガ第368号より、加筆修正して転載)

執筆者

瀬古 博子

消費生活アドバイザー。食品安全委員会事務局勤務を経て、現在フーコム・アドバイザリーボードの一員。

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