九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
消費者庁は1月19日、「食品表示一元化検討会」の第5回目会合を都内で開催した。この検討会も第5回となり、予定されている10回の前半最後の会議となる。そろそろ検討会の着地への行程がみえてくるのかもと、期待を胸に会議場に入った。
会議は神戸大学教授の中川丈久委員以外の15名の委員が出席し、主な議題として「食品表示の適用範囲について」と「栄養表示の義務化について」が示された。配付資料は、資料1「 食品表示の適用範囲について(実態編)」、資料2「栄養表示の義務化に向けた検討」、資料3「新たな食品表示制度をめぐるこれまでの議論について」の3つ。
加えて委員の机上には、(社)日本栄養士会・迫 和子委員提供資料「栄養表示の義務化について(意見)」、東京都・田﨑達明委員提供資料「調理冷凍食品の原料原産地表示について」、日本チェーンストア協会・仲谷正員委員提供資料、(財)食品産業センター・森 修三委員提供資料「大手食品企業のお客様相談内容(加工食品)」、「食品表示一元化検討会における検討課題等に対する意見」、主婦連合会・山根香織委員とNPO法人食品安全グローバルネットワーク・中村幹雄委員提供資料「消費者庁が進める食品表示一元化に関する『食品表示一元化検討会』の議論の進め方についての意見書」が配付された。
最初に事務局から資料1「食品表示の適用範囲の考え方についてについて」説明された。この中で、外食事業者におけるガイドラインや自主的取り組みの普及状況の調査結果については、①原産地表示の実施状況が事業者ベースで9割を超える、②原料原産地表示が行われた食材別にみると食肉では7割を超えるが穀類や野菜類は半数以下、③中小の事業者は取り組みが遅れている、④調査は1つだけの表示でも「表示している」と答えられることに留意する必要がある、との内容が紹介された。
あわせて、日本生活協同組合連合会の相談窓口に寄せられる問合せをまとめたグラフが紹介され、食品表示に関わるものが問合せの約半数、そのうち原材料の構成・産地、配分割合などの「仕様・設計にかかわるもの」が16%であった。消費者の食品表示への関心は波があり、事件・事故の影響により、年度によって上がり下がりするという実態が説明された。また、東京都の田崎委員からは、東京都の調理冷凍食品に関する追加資料について説明があり、平成21年、22年に調査した結果、原料原産地表示は適正に表示されており、違反はないということが報告された。
さらに仲谷委員から提供資料の説明があり、日本チェーンストア協会の大手事業者におけるプライベートブランドについて、問合せ内容の1位は使用方法、2位は期限表示、3位は原産地・原料原産地、4位は、商品仕様・成分などであることが紹介された。また、(財)食品産業センターの森委員からは、平成22年の大手食品企業9社のお客相談内容(1社平均件数:38,418件)の主な項目別割合として、期限表示7.5% 使用方法6.9% カロリー・塩分等5.6%であるのに対して、原料原産地 1.0% 原産国(輸入品) 0.5%であることが示された。
日本生活協同組合連合会の鬼武一夫委員からも補足説明があり、「生協組合員相手の事業と一般の小売との違いがあるかもしれないという前提はあるが、商品仕様や成分などは事件等が生じると問い合せが増えるので、表示だけでは対応は難しい」との発言があった。表示の対応だけでなく、商品設計を変える事で問い合せを減らせる可能性もあり、苦情を表示の改善に生かしているとのことであった。
表示の対象範囲について、主婦連の山根委員からは再度アルコールを含む食品を表示対象に入れて欲しいとの要請があった。また、自販機の表示については、現状は店舗ではなく個人が持っている場合もあり、表示の徹底について問題を指摘する意見等が出た。一方、表示で優先すべき項目についての意見も出され、この会議での議論が包装食品表示についてか、義務表示についてなのかを再確認する委員もいた。
検討会では度々、食品表示の目的をどうするのかの議論へ立ち返り、委員からも検討会の意見を今後どのように集約していくのか疑問が出ていた。これについて事務局からは、「目的にしても、議論によって一点に集約するのは難しい。様々な意見や考え方をある事を認識していただいた上で整理したい。中間論点整理において意見をカテゴライズするので、検討会の意見として集約するのではなく、これらの意見があると示した上でパブリックコメントを行いたい。総論の議論をやっても答えは出ないので、各論で総論を見直すような形で進めたい」と、「検討会の進め方についての段取り」がはじめて示された。
今回の会議においても、意見として多かったのは、現状の義務表示について消費者にどれくらい役立っているのか、検証して欲しいというものであった。現在、適正な表示のための事業者の負担は大きく、今後拡大して新たな制度を加えるという議論を始める前に、現状を確認して修正が必要と思われるからであろう。
主婦連の山根委員からは、目的からの議論を行って欲しいと再三の意見が出たが、座長は、「表示の範囲や目的、消費者に役立つ表示と実行可能性を高めるためのインフラの整備などの解決する必要があり、インターネット販売など対象により業界の状況も異なるので、幅広く議論が必要であるが、時間が押している」と説明した上で、次の議題「栄養成分表示の義務化に向けた検討」の説明を事務局に促した。
ここで事務局が示した資料2は、2011年8月にまとめられた栄養成分表示検討会報告書をもとに作成されている。栄養成分表示の義務化に向けた課題を4つの事項として、①誤差の許容範囲の見直し、②実行可能性の高い表示値の設定方法、③「栄養の可視化」をめざした表示方法、④表示義務の適用範囲について、簡潔にまとめられていた。
(社)日本栄養士会の迫委員は、エネルギーや食塩相当量について義務化するよう意見を述べた。また、日生協の鬼武委員からは、栄養成分表示はコーデックスでも義務化されていないこと、ナトリウムについてはEUでも食塩がわかりやすいという判断がされていること、一方で義務化されているアメリカでは表示の効果が現れていないという説明が追加された。ここでも、実行可能性について、さまざまな要因による測定値の変動の問題、弁当のように製品の定量化が困難であるといった指摘の一方で、外食等の義務化の拡大を希望する意見もあった。
各企業の表示方法が異なる現状については、消費者の混乱を招かないためにもアイコン表示なども含めて、ガイドラインの必要性を指摘した意見や、表示実行のためのコストを負担金という形で示すことで消費者の意識を高めるといった提案もみられた。
終了予定時間を過ぎ、座長は「栄養成分表示については、配付資料を参照の上、事務局に対して追加的にメール、FAXで意見を寄せてほしい」とした上で、これまでの議論における委員の意見を表示の目的や表示の考え方についてまとめた資料3の説明を事務局に促した。
最後に座長から、残っている議論とアンケート調査結果の報告は次回に行なうこと、次回検討会でまとめた中間報告書をもとにパブリックコメントを募集してヒアリングや意見交換会を行なうことが説明され、閉会となった。以上が検討会の概要である。
今回の会議の資料には、委員の意見の概要がまとめられており、食品表示の適用範囲や食品表示に求められる情報、表示の目的についてどのような意見が出ているかが、一定の整理はできた。これによってこれまでの委員の発言を、事務局がどの程度に受け止めているかについて、推察可能となった。また、検討会の今後の議論の道筋が示されたことは、次の会議での討論を充実させることにつながるかもしれない。
ただし今回、多くの委員がそれぞれ意見書を提出し机上配付となったことは、事務局にまかせて、検討会中に発言するだけでは議論がまとまらないのではないかとの委員の不安があったからだとも思われる。また、提出した委員から資料について若干の説明はあったものの、他の委員が出された資料を十分に把握した上で、委員が発言できたかどうかも気になる。
栄養成分表示については、すでに栄養成分表示検討会で時間をかけて検討されてきた内容であり、課題も明確になっている。その一方で、アンケート調査等がないと結論が出ないと思われる部分もある。また、栄養成分の量を分かりやすくする際に用いられる栄養素等表示基準値は、現時点では「日本人の食事摂取基準2005年版」を基にしたものであり、2010年の日本人の食事摂取基準の見直し後、まだ変更されていない。ある委員が栄養成分の表示の許容誤差については、日本人の食事摂取基準(2010年版)で示された栄養素の摂取基準(必要量、目標量、上限・下限等々)との整合性を図ってほしいと述べたが、そこまで事務局は配慮することができるだろうか。表示誤差を緩和することで、消費者がサプリメントなどの重複摂取により上限値を知らず知らずに超えることがないよう、お願いしたいものである。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。