科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

世界がんデーにがんの基本情報を確認しよう

畝山 智香子

キーワード:

毎年2月4日は世界がんデーです。
日本でのイベントは以下です。
ワールドキャンサーデー2026 United By Unique – UICC日本委員会 worldcancerday

今年のWHOのプレスリリースは「世界では10人中4人のがんが予防できる」でした。
Four in ten cancer cases could be prevented globally
3 February 2026

この数字の根拠はNature Medicineに発表された以下の論文です。
「予防に役立てるための変えることのできるリスク要因による世界および地域のがん負担」
Global and regional cancer burden attributable to modifiable risk factors to inform prevention | Nature Medicine

NatureグループなのでNatureニュースでもとりあげています。
1/3以上のがんが予防可能、大規模研究が発見
More than one-third of cancer cases are preventable, massive study finds
03 February 2026

WHOは「10人中4人」といいNatureニュースは「1/3以上」と言ってますが具体的な数字は約38%です。
2022年に世界185か国の36のがんの症例データから、30の変えることのできるリスク要因、つまり喫煙や飲酒、感染症など、のせいだと推定されるがんが世界全体で38%だというわけです。最も大きな原因は言うまでもなく喫煙、次いで飲酒です。当然国や地域、男女によってリスク要因は異なります。

●日本におけるがんのリスク要因は?

そこで日本のデータを見てみましょう。
詳細データは論文の補遺情報として提供されています。
41591_2026_4219_MOESM1_ESM.pdf

まず検討したリスク要因30は以下です。
「行動要因」として喫煙、飲酒、高BMI、運動不足、無煙たばことビンロウジ、授乳の短さ、
「環境要因」として大気汚染、紫外線、
「感染症」としてピロリ菌、HPV、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、EBウイルス、ヒトヘルペスウイルスタイプ8、マンソン住血吸虫、ヒトTリンパ好性ウイルス、肝吸虫、
「職業暴露」としてアスベスト、ヒ素、ベンゼン、ベリリウム、カドミウム、クロム、ディーゼルエンジン排ガス、ホルムアルデヒド、ニッケル、多環芳香族炭化水素、シリカ、硫酸、トリクロロエチレン、
です。

これらの要因がその集団のがんの原因のうちどのくらいを占めるのか、が人口寄与割合(population-attributable fraction, PAF)という指標になります。表4.1.1.に女性の、表4.1.2に男性の国ごとのPAFが示されていますが、その中から日本の部分だけを抜き出したのが以下の表になります。数字は症例数と割合(%)です。

リスク要因男性女性
喫煙159944 (27.9%)32520 (7.8%)
飲酒26559 (4.6%)7251 (1.7%) 
高BMI4735 (0.8%)2488 (0.6%)
運動不足3546 (0.6%)14681 (3.5%)
無煙たばことビンロウジ94 (0.0%)65 (0.0%)
授乳の短さ 0 (0.0%)
大気汚染1934 (0.3%)828 (0.2%)
紫外線0 (0.0%)0 (0.0%)
感染症93279 (16.3%)58372 (13.9%)
職業暴露30767 (5.4%)4407 (1.1%)
全リスク要因合計46.5%26.1%

どうでしょうか。

紫外線によるがんがゼロというのは本当だろうかとか疑問に思う部分もありますが、概ねがん研究センターが発表しているものと同様です。
がんの発生要因:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]
科学的根拠に基づくがん予防:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般の方へ]

がん研究センターはこれをもとに「たばこ」「お酒」「食生活」「身体活動」「体重」の5つの生活習慣に関わる要因に「感染」を加えた6つの要因を「日本人のためのがん予防法(5+1)」としています。

でももっと簡単に、男女あわせて圧倒的ながんの要因は喫煙・飲酒・感染症の3つに絞れると思います。

そして日本人女性では予防可能ながんは25%程度しかない、つまり多くの場合がんは「運が悪かっただけ」なのです。

●世間を騒がせるIARCの問題点

そしてWHOの発表に戻りますが、このがん負担研究を行っているのはIARCです。IARCについては、モノグラフ計画によるハザード同定についてはこれまで何度も批判してきましたが、がん登録や統計を扱う部門は重要な役割を果たしていると思います。

ただ強調したいのは、IARC自身が現実世界でのがんの原因はせいぜい30くらいで、その1/3は感染症、化学物質のほとんどは職業暴露であると認識している、ということです。

さらにIARCが2026年2月17日付でプレスリリースした関連論文では、世界全体でのがんで死亡することの一次予防にとって重要な要因を喫煙、飲酒、過体重、感染、紫外線ばく露の5つとしています。
Avoidable deaths through the primary prevention, early detection, and curative treatment of cancer worldwide: a population-based study – The Lancet Global Health

では、度々世間を騒がせる「ヒト発がん性」「おそらくヒト発がん性」と分類されたたくさんの食品成分や農薬などは一体何なのだろうと疑問に思いませんか?
IARCは現実的なリスクはほとんどないか極めて小さいことを理解したうえで、ハザード同定により注目を集め存在をアピールし資金を集めることを選択しているとしか言いようがないです。

もともと一般の人がIARCのハザード同定を知る必要はほとんどなく、メディアが報道したり活動家が悪用したりしなければいいだけだったのですが。

●がん対策で大事なこと-リスクを定量的に比べてみる

日本で実際にがんを減らしたいなら喫煙・飲酒・感染症対策に優先的に取り組むべきです。それなのに日本のメディアは感染症によるがんを減らせる有効な手段であるヒトパピローマウイルスワクチンに対してほとんど言いがかりのような反対キャンペーンを展開し、がん対策を遅らせました。

そのメディアは同時に「発がん性が疑われる」という枕詞でどれだけ多くの食品や環境中の化学物質を名指ししてきたでしょうか。そのため一般の人々ががん予防のためにやるべきことの優先順位について誤解し、結果的に効果的がん予防の妨げになっているのです。0.01%の効果のある対策を100実施しても10%の効果のある対策を1つ行うことより劣るのです。

喫煙や飲酒の習慣がある人が食品添加物や残留農薬、あるいはその時々で流行する「発がん性が疑われる物質」を心配することで対策をした気になるのは、より大きなリスクから目を背けることによる害のほうが大きいです。

小さいリスクが話題になったら、全体のリスクと定量的に比べてみる習慣をつけることを薦めます。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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