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執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

米国FDAの「人工色素不使用」とは?

畝山 智香子

2026年2月5日、米国FDAが食用色素についてまた妙な発表をしました。

これまで色素を全く使っていない場合にしか表示できなかった”人工色素不使用No Artificial Colors”という表示を、石油ベースの色素を含まない場合には表示してもかまわない、というのです。
FDA Takes New Approach to “No Artificial Colors” Claims | FDA
February 05, 2026

●Robert F. Kennedy Jr.長官の戦略

これは何らかの規則の改定によるものではなく、法の定義はそのままにして「執行の自由裁量」を行使して法の適用はしないという文書を企業宛に送ることによるものです。米国の食品医薬品化粧品法では人工色素Artificial Colorsとは、どんなものであれ着色用に使われる色素添加物全てのことを指すので、色素不使用でなければNo Artificial Colorsとは書けないのですが、Robert F. Kennedy Jr. HHS長官はFDAが認証している色素さえ使っていなければNo Artificial Colorsと表示しても行政的措置はとらないことにした、と発表したのです。認証色素以外ならどんな色素を使っても人工色素不使用と表示できる(それによって消費者を誤解させることができる)のでMAHAの推進になる、という主張です。

Artificialは人工、と訳しましたがヒトの手によってつくられたもの、という意味です。添加物だと合成と訳されることもありますが、化学合成には通常syntheticを使います。本来のFDAの意図は、添加物の色素はその食品の本来の色ではないものを与えるので人為的Artificialだし、いくら天然物由来であってもそれを色素添加物として使えるようにするためにはヒトの手による加工や時には化学反応が使われているので人工Artificialであり自然のまま(Natural)ではない、ということでしょう。

RFK Jrが宣伝する「より安全な天然由来色素safer, naturally derived alternatives」という文言は、自然主義的誤謬という論理的誤謬を意図的にばらまき強化することで消費者の正しい判断を妨げるための戦略とみなすべきでしょう。自然主義的誤謬に強固に囚われた人たちは、RFK Jrの推進する反ワクチン・反医療・反農薬運動のいいお客さんとして、彼の宣伝する「ナチュラル」サプリメントや「自然」食品を高い値段で買ってくれるでしょう。

この人工・合成・天然という言葉にはほとんど意味がないという事例を知っておくのは、いい解毒剤になると思います。

●カロテノイド

現在食用色素として最も広く使われているものの一つがカロテノイドと呼ばれる化合物群です。ニンジンの赤い色で有名なベータカロテンが代表的です。食品添加物として世界中で認可されていますが、その作り方にはいろいろな方法があります。

少し昔の論文ですがオープンアクセスで誰でも読めるのが以下です。
β-Carotene—properties and production methods | Food Quality and Safety | Oxford Academic
Ludmila Bogacz-Radomska , Joanna Harasym
Food Quality and Safety, Volume 2, Issue 2, May 2018, Pages 69–74

ベータカロテンを得るには大きく分けて抽出、化学合成、生合成の三つがあります。
抽出にはヘキサンなどの有機溶媒を使うこともあります。

化学合成は1950年代から開発されていて原料となる化合物を溯れば「石油由来」のものもあるでしょう。石油だって天然物ではありますが。

生合成の場合微生物と酵素の組み合わせは多様で、培養や遺伝子組換えのようなバイオテクノロジー技術でより効率の良い方法が日々開発されています。

どんな方法で作っても、食品に色をつけるという機能を発揮するのはベータカロテンという化合物です。ではこのベータカロテンは「天然色素」なのでしょうか「合成色素」なのでしょうか?

(なおベータカロテンは化学合成であってもRFK JrのいうArtificial Colorsではないようです。)

●人工、合成、天然

天然に見つかった化合物なら合成で作っても天然物なのか、鉱物や酵素はどうか、天然物の一部を化学反応で変えたら合成か、などたくさんの疑問がでてくるのがこれらの用語です。そもそも区別すること自体に意味がないのに消費者の誤解のもとになっているので、日本では消費者庁が用語を整理してガイドラインを作ったわけです。

改めて確認してみましょう。これがアメリカがおかしくなる前にできていてよかったと思います。
食品添加物表示制度に関する検討会(最終開催日:2020年2月27日) | 消費者庁
食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)にある「合成保存料」、「人工甘味料」等に用いられる「人工」及び「合成」の文言を削除
食品添加物の不使用表示に関するガイドライン検討会(最終開催日:2022年3月1日) | 消費者庁
人工、合成、化学及び天然の用語を用いた食品添加物の表示は適切とはいえず、こうした表示は、消費者がこれら用語に悪い又は良い印象を持っている場合、無添加あるいは不使用と共に用いることで、実際のものより優良又は有利であると誤認させるおそれがある。

さて再びFDAの色素の話ですが、FDAが認証している色素はFDAによって書類だけではなく検査によっても高い安全性が確認されているのに対して、代用品の「天然由来色素」の品質や安全性は企業任せになります。そのことをFDAは理解しているので、企業向けに責任をもてという文書も出しています。
FDA Reminds Manufacturers of Color Additives Exempt from Certification to Comply with Identity and Purity Requirements | FDA

天然由来といっても、例えば植物なら土地と農薬等資材を使って栽培して加工してという膨大なプロセスを経てようやく僅かな量の色素を得るのでその全ての工程でヒトの手と管理が必要です。

合成品のほうが管理はしやすいでしょうし最終製品への使用量も少なく済むので安価で安全で環境負荷も低いです。ライフサイクルアセスメントをしたら圧倒的に合成品のほうが優れているでしょう。

繰り返しますがFDAの色素関連の発表の多くは企業の自主的対応を求めるものです。法律の改正ではなく、何かあった場合のリスクは企業が負うことになります。信頼できない政府機関による法的根拠のない推奨事項にどう反応すべきなのか。企業の姿勢が問われているとも思います。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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