食情報、栄養疫学で読み解く!
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
児林 聡美食塩の過剰摂取は、日本人の食事の課題の中でも、特に深刻で、優先して改善しておきたいもののひとつです(文献1)。
なぜ食塩の過剰摂取が問題なのか、そして、特に私自身が日常生活を送る中で、食塩を多く含む加工食品があって気になる、という話題を、前回のFOOCOMコラムで紹介しました(「こんなところからこんなに塩を食べていた!隠れた塩の多い食品」参照)。
今回のコラムはその内容に関連して、再び食塩の話題を取り上げたいと思います。
私たちを取り巻く食環境や食行動、そして食事の内容によって、どういう状況のときに食塩摂取量が増えるのか分析した、興味深い研究結果(文献2)を紹介します。
前回のコラムでは、どのような食品から私たちが食塩を摂取しているか、という研究の結果を紹介しましたね。
調味料や、汁物、そしてパン、めんといった加工食品などが、食塩の主な摂取源として挙げられていました(文献3)。
こういう摂取源がわかることで、意識的にそれらの食品を使う頻度と量を減らし、減塩につなげることができるでしょう。
一方で、食塩を含む食品そのものを減らす、という以外にも、食塩摂取量を減らす方法はないものでしょうか。
意図せず食塩摂取量が増えてしまうような、食行動、食環境や、食事の内容ってあるものでしょうか。
そういったことを解明したいということで行われたのが、今回紹介する研究です。
こういった、食塩摂取量を増やしてしまう食行動、食環境や、食事の内容といったことを調べたいとき、これまでは、個人間を比較する研究が多く実施されてきました。
たとえば「朝食を毎日食べる人」と「毎日は食べない人」というふうに、集団を2つに分けて、この2つの群を比べる、という方法です。
研究方法としては単純で実施しやすいのですが、この場合、「朝食を毎日食べる人」と「毎日は食べない人」の間に、ほかにも異なる特徴があると、朝食の影響を直接的に見ることができなくなってしまいます。
もし、朝食を毎日食べる人は、毎日は食べない人たちよりも健康意識が高い人で、減塩の大切さを知っている人たちの集まりだった場合、朝食の影響というよりも、健康意識の違いが、食塩摂取量に影響してしまっていますよね。
疫学研究を実施するときには、こういった集団の偏りがないように、統計学的な処理をして結果を示しますが、それでも処理しきれない特徴は多々あるものです。
そんな中、今回紹介する研究(文献2)は、同じ人でも、食べるときの食事の状況が異なると、食塩摂取量が変わるのか、ということに注目している点が、とても面白いのです。
生態学的瞬間評価という手法を用いると、こういった同一人物内での状況の比較ができるそうです。
(私自身はこの手法を十分に説明できるほど詳しくないので、説明はこの程度にとどめさせてください。)
この研究は、18~79歳の日本人成人男女2757人を対象にした研究です。
対象者の方に、1年にわたり、4季節それぞれ2回ずつ、合計8日間の食事記録をつけてもらいました。
食事記録調査は、以前のコラム「はかるだけなら簡単?:食事記録法の裏側お見せします」で説明しているように、食べたものの食品の内容だけでなく、重量や容量もできるだけ細かく、秤や軽量スプーンなども使って、正確に測定して記録してもらう調査です。
1日記録するだけでもかなり大変な調査を、対象者の方は8回実施したわけですね。
このとき、食事の内容だけでなく、食事の状況も記録してもらっています。
何時に食べ始めて何時に食べ終わったか、一人で食べたか誰かと一緒に食べたか、どこで食べたか、その日は平日か休日か、などの様々な状況を一緒に記録しておくのです。
まずは食事を摂取したときの状況が、食塩摂取量にどう関連していたかを示した結果を図1で示します。
(図1)

様々な状況に関して、基準としている場合に対して、各状況になったときに、1食あたりの食塩摂取量がどの程度変化したかが示されています。
結果を上から順に見ていきましょう。
3食の状況変化に関しては、朝食に比べると、昼食、さらに夕食の食塩摂取量が多くなっていました。
食事の内容が異なるだけでなく、食べる量が、朝食より、昼食や夕食のほうが多いことが原因かもしれません。
勤務日に比べると勤務していない日の食塩摂取量が多いようです。
そして、場所に関しては、家で食べるよりも、外食のほうが多くなっています。
外食の味付けが濃いことや、注文するメニューの内容が食塩量の多いものになっている可能性など考えられます。
一方で、その他の場所だと、家よりも少ないんですね。
その他の場所とは、職場や学校の給食、車の中、公園などの戸外、ほかの人の家など、色々な状況が混じっているので、この結果から「その他の場所」の影響を解釈するのは少し難しそうです。
一緒に食べる人がいないときに比べると、もう1人と一緒に食べると食塩摂取量は増えるようです。
孤食のときは、簡単に食事を済ませてしまって食事量全体が少ないのでしょうか。
さらに人数が増えると、一人で食べているときとあまり変わらないということは、2人で食べる食事というのは、ほかの食事に比べて特別な食事のことが多いのでしょうか。
そして季節は、春に比べると、夏が少なく、秋と冬が多いということでした。
寒い時期には、汁物などが増えることが影響しているのかもしれない、と推測しました。
次に、食事の内容と食塩摂取量の関連を検討した結果を示します(図2)。

主食のない食事に比べると、めし(米飯)やパンがあるときの食事で食塩摂取量が増えてはいますが、めん類のときには極端に増えていることに目がいきます。
前回のコラムで、めん類そのものの食塩含量が多いことが気になる、ということを話題にしましたが、やはりめん類を食べる、という行動は、食塩摂取量を大きく増やすことになるのですね。
めん類を食べたときには、その日のその他の食事、そして前日や翌日で減塩をかなり意識する必要がありそうです。
その他の食品に関しても、調べた各食品に関してその多くが、その食品を食べないときに比べると、食べたときの食塩摂取量が多い、という結果が示されていました。
汁物や漬物が増えると食塩摂取量が増えるのは、やはりその食品(料理)そのものの食塩含量が多いことが影響しているのでしょうか。
果物を食べたときには、食塩摂取量が少ないようです。
健康を意識した食事のときに果物が出されているのでしょうか。
果物自体を食べるときに、食塩を追加する必要がないことも大きいかもしれません。
減塩調味料を使っても、食塩摂取量は減っておらず、むしろ増えていました。
料理の中で減塩調味料を使っても、物足りなくて食塩や調味料を足したり、安心してほかの料理の食塩量が増えたりしている可能性が考えられました。
ハーブやスパイス、かんきつ類や酢といった調味料は、減塩のために積極的に取り入れましょう、という減塩方法を聞いたことがあります。
けれども今回の研究結果からは、あまり減塩効果がみられないですね。
むしろ増えています。
加工肉・魚は中程度の加工と高度の加工に分類されていますが、コーンビーフやツナなどの缶詰、ハム、ソーセージ、ちくわなどの練り製品、などが、これら分類のいずれかに入るようです。
いずれも、食塩摂取量を増やしています。
前回のコラムで、かまぼこやソーセージなどの練り製品は、食塩含量が気になる食品として挙げていました。
やはり控えめにしておきたい気がします。
アルコール飲料を摂取したときも、食塩量が増えていますね。
アルコール飲料そのものに食塩が含まれているものはほとんどありませんから、これは一緒に食べている料理の内容が、味付けの濃いものに変化している可能性を示していると考えられます。
そして、しょうゆやみそなどの調味料を多く使う場合、それらに食塩が含まれていることから、食塩摂取量が増えることは理解できます。
一方で、野菜が80 g(ほぼ小鉢に1杯くらいとも言われています)増えたときも、食塩摂取量が増えるのですね。
野菜は味付けなしでたくさん食べるのが難しいですから、調理の過程で何らかの味付けをすることによって、食塩摂取量を増やしてしまうことが推測できます。
減塩調味料の活用や、かんきつ類や酢の使用は、健康を意識して、食塩摂取量を減らすためにとる行動として、よく推奨されているような気がします。
けれども、今回の研究結果では、こういった食事の変化では、十分に減塩が達成できない可能性が示されました。
また、野菜を積極的に食べましょう、というメッセージもよく聞かれます。
私も以前のコラム「栄養学の専門家がお勧めする3つの食事のポイント」で「野菜は多めに」を呼びかけているところですが、これは「味付けは薄め(食塩は少なめ)に」とセットで呼びかけなければ、意図せず食塩摂取量を増やしてしまう可能性が考えられます。
食事はとても複雑です。
意図して健康的と思われる行動をとっても、それが引き金になって、別の面から見ると好ましくない食事の変化が引き起こされることがあります。
そういったことを伝えてくれる、面白い研究結果だなと感じて、紹介させていただきました。
参考文献:
※食情報や栄養疫学に関してヘルスM&Sのページで発信しています。信頼できる食情報を見分ける方法を説明したメールマガジンを発行しています。また、食事摂取基準の本文全文を読んで詳しく学びたい方向けに、オンライン講座も開講しています。ぜひご覧ください。
九州大学で農学修士、東京大学で公衆衛生学修士、保健学博士を取得。現在はヘルスM&S代表として食情報の取扱いアドバイスや栄養疫学研究の支援を行う.
こんなところからこんなに塩を食べていた!隠れた塩の多い食品 栄養疫学って何?どんなことが分かるの?どうやって調べるの? 研究者が、この分野の現状、研究で得られた結果、そして研究の裏側などを、分かりやすくお伝えします