野良猫通信
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
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東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
畝山 智香子2025年11月18日、The Lancetが「超加工食品とヒト健康」というシリーズを発表しました。
Ultra-Processed Foods and Human Health
Published: November 18, 2025

メインの内容としてはレビューが3つで、それに付随して編集者からの論説とコメント2つ、そしてブラジルのサンパウロ大学公衆衛生学部のCarlos A Monteiro教授を称賛する紹介記事が掲載されています。
このシリーズを主導したのはCarlos A Monteiro教授であり、彼がシリーズの3本の論文のうちの最も重要な最初の論文の筆頭著者です。
現在、WHOが超加工食品についてのガイドラインを作成するためのメンバー候補を公開し、パブリックコメントを募集中ですが、その中にはMonteiro教授はじめ今回のLancetシリーズの筆者で重なる部分があり、おそらくWHOのガイドラインも似たような内容になることが予想されます。
Guideline Development Group for ultra-processed foods
そのため、WHOのガイドラインの予習として、このLancetシリーズについて少し詳しく紹介しておこうと思います。
本論文に入る前に、Lancetからかなりボリュームのあるプレスリリースが出されているのでまずそちらを紹介します。
【プレスリリース】
The Lancet:専門家が世界の超加工食品増加が大きな公衆衛生上の脅威だと警告;世界中で政策改定を呼びかける
The Lancet: Experts warn global rise in ultra-processed foods poses major public health threat; call for worldwide policy reform | EurekAlert!
18-Nov-2025
動画がいくつか発表されています(プレスリリース中のリンクからアクセス可能)。
https://drive.google.com/drive/folders/1Cod1fIrrVgucz-WyIgHn5uaF1cyuCL6x?usp=drive_link)
この中で、20年前からブラジルの肥満増加を研究しているMonteiro教授は、「食品を加工する目的が保存のためだったのが、安価な成分と添加物を使って食品の代用品を作ることに変わったことを知った、それがNOVA分類の開発理由だ」と述べています。
また、Euridice Steele-Martinez博士は「丸ごと食品を料理して食べる代わりにUPFを食べると食事の質が低下し、加工によってできるあるいは容器包装から溶出する有害物質、そして有害な可能性のある食品添加物や食品添加物混合物にばく露される」と主張します。
この部分だけでも「科学的根拠は?」「自分で料理しても加熱副生成物はできるのに?」と突っ込みたくなります。ですがそれ以上に異様なのは、論文の著者による12本もの短い動画の半分以上は、加工食品を作る企業は金儲けが目的なので政策や科学の世界から追放すべきである、加工食品は課税や警告表示などの厳しい販売制限を課すべきである、といった政治的主張であることです。科学的説明を試みたものではありません。
Lancetのシリーズではよくあることですが、このシリーズの目的は科学的根拠を提示して学術的議論や理解を深めるというより政治的運動なのです。
そしてプレスリリースの文章ですが、主な主張は以下です。
専門家は世界的なUPFの増加は大きな公衆衛生上の脅威であり、世界中で政策の改定を呼びかける
より分かりやすいインフォグラフィクスも提供されています。
Lancet-Infographics-UPFs-def
かつては、伝統的に世界中の人々が地元産の生鮮食品を料理して食べていたので健康だった、などという非現実的な前提や、食品添加物を有害(harmful)と断定しているところなど、気になる部分は多いです。しかし、特に問題なのは、UPFが健康悪化の原因であるという科学的根拠が薄弱であることは認めながらも、根拠より確固とした政治的対応が先だと主張していることと、企業は基本的に金儲けだけが重要な悪者なので科学や政策決定の場から排除せよと主張していることです。
UPFという概念を支持する人たちが、これまでの栄養分野での砂糖・塩・脂肪の摂り過ぎに注意という栄養成分に基づく助言を支持する人たちと最も大きく異なるのがこの反企業の姿勢です。全く同じ栄養であっても、家庭で手作りしたクッキーは良いもので、企業が工場で製造して販売する包装済みのクッキーは健康を害する良くないものだという主張に賛同できるかどうかが分岐点のようです。
このLancetのプレスリリースに対して、英国とニュージーランドのサイエンスメディアセンター(SMC)が専門家のコメントを紹介しています。
ニュージーランド
Ultra-processed foods are taking over our diets – Expert Reaction – Science Media Centre
同じSMCを名乗り協力関係にある組織ですが、国内の研究者の厚みを反映しているようで、英国は幅広く多くの研究者から意見を集めていて、ニュージーランドはLancetの論文の共著者のコメントを紹介しています。
なお、いつものようにこのテーマでは日本は蚊帳の外のようです。
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
アレルギーと離乳食
Lancet「超加工食品シリーズ」の問題点(その2) 3つのレビューの内容 国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。