野良猫通信
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
国内外の食品安全関連ニュースの科学について情報発信する「野良猫 食情報研究所」。日々のニュースの中からピックアップして、解説などを加えてお届けします。
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
7月に米国政府が超加工食品を定義するための意見募集を開始すると発表したことが国内でも報道され、超加工食品(UPF)を巡る話題がまた増えているようです。
HHS, FDA and USDA Address the Health Risks of Ultra-Processed Foods | FDA
July 23, 2025
定義がないにもかかわらずそれが健康リスクであることはわかっているというとても不可解なプレスリリースなのですが、現在の米国政府にとっては通常運転です。既に多くのコメントが寄せられていて以下で閲覧可能です
Federal Register :: Ultra-Processed Foods; Request for Information
締め切りは9月23日です。
さてそんな中、2025年8月4日付でNature Medicineに超加工食品(UPF)と最小限の加工のみの食品(MPF)を「現実世界で比較した初めての介入試験」とうたう研究の結果が発表されました。
今回はこの研究について紹介しようと思います。
その1では資料編として公表されたものの紹介、その2が解説編として背景情報を含めて個人的見解も述べます。
まず今回発表された、抑えていくべき資料は以下です。
健康的な食事ガイドラインに従った超加工あるいは最小限加工の食事の体重と心代謝健康への影響:無作為化クロスオーバー試験
Ultraprocessed or minimally processed diets following healthy dietary guidelines on weight and cardiometabolic health: a randomized, crossover trial | Nature Medicine
Dicken, S.J., Jassil, F.C., Brown, A. et al.
オープンアクセス
この研究は英国のBMI25以上40未満の過体重から肥満の成人55人を、最小限の加工しかしていない食品(MPF)と超加工食品(UPF)の多い二つの食事パターンにそれぞれ8週間従ってもらって前後の体重変化を調べたものです。先にMPF 8週間、4週間の休み(普段の食事)をはさんでUPF 8週間の場合と、先にUPFで後からMPFの場合に無作為に割り付けています。体重に注目していることは参加者に知らせず、それぞれの食事は週に2回、参加者の自宅に届けられました。
英国の食事ガイドに従った栄養を含むメニューが提供されたとありますが、自由摂取を保証するために1日4000kcal分を提供しています。これは女性なら食事ガイドラインの2倍です。提供された全てを食べる必要はなく、食べる時間も決められてはいません。参加者の普段の食事はUPFが半分以上で、過体重または肥満の人たちなのでおそらくガイドラインを超過した量を食べていると考えられます。
結果としてはMPF摂取の8週間の前後で−2.06%(95% CI, −2.99, −1.13)、UPFで−1.05%(95% CI, −1.98, −0.13)体重が減り、MPFのときのほうがやや多く減ったというものでした。
「加工の少ない食事のほうが減量にはより有用かもしれない」
Less processed diet may be more beneficial for weight loss | UCL News – UCL – University College London
4 August 2025
UCLは「栄養的に同等の食事をしてもUPFに比べてMPFは2倍も多く体重を減らした、加工食品を減らすことが健康体重維持に役立つことを示唆する」とするプレスリリースを発表しています。2倍といっても0.88kgと1.84kgで、この体重減少は計算上UPF群では1日120kcal、MPF群では290kcal、普段より少なく食べたことになります。これをずっと続ければ大きな差になると主張しています。
論文の主著者のUCL肥満研究センターおよび行動科学と健康学部のSamuel Dicken博士はこの研究の目的とメインの結果を述べていますが、共著者のUCL感染症と免疫部のChris van Tulleken教授はさらに踏み込んで、加工食品が脂肪や砂糖や塩のような栄養以上の役割で健康影響をもつのだから個人の責任ではなく政治によって加工食品を減らすことが必要だと主張しています。
そしてプレスリリース全体の結論は食事ガイドラインに従うことが最善であるというもので、そのためには加工食品を避けた方が従いやすいと主張しています。
超加工食品を食べることは減量を困難にする
Eating ultra-processed foods could make it harder to lose weight
04 August 2025 By Katie Kavanagh
Natureは著者と著者以外の研究者に取材して報道しています。しかし著者以外の研究者として選んだのはUPFが諸悪の根源だと主張するNOVA分類提唱者のCarlos Monteiro教授と、UPFの美味しさを問題視するTera Fazzino博士です。UPFの定義の曖昧さなどを批判している専門家には取材していません。結果的に生鮮野菜や果物を自分で料理することが痩せる秘訣、のような結論になっています。
健康的食事ガイドラインに従った超及び最小限に加工された食品の無作為化クロスオーバー試験と減量への専門家の反応
expert reaction to randomised crossover trial of ultra- vs minimally-processed foods that follow healthy diet guidelines, and weight loss | Science Media Centre
August 4, 2025
SMCは論文の著者らによるメディア向け説明会も開催しています。
SMCでは7人の専門家からの意見を紹介しています。大半が、この研究は大学のプレスリリースで強調していることとは違って、加工そのものが悪いという説を否定しそれよりも食事ガイドラインに従うことの重要性を示したものであることを指摘しています。結局MPFだろうとUPFだろうと大きな差はなかったのだし、普段の食事よりUPFの割合を増やした場合でも体重が減少したからです。そしてプレスリリースの強引さも指摘されています。批判的な見解が示されることは研究にとっては必要なことです。
これらの内容をおおまかにまとめると、(1)の学術論文が研究内容を正確に報告しているとしたら、(2)の大学のプレスリリースではその結果の一部を強調して政策提言にまで踏み込んでおり、(3)は論文そのものよりプレスリリースの方を踏襲したものになっていて(4)では著者以外の専門家が問題点を多数指摘、というところです。
日本ではCNNの日本語版などが報道しているようです。
最小加工食品で減らせた体重、「健康的な」超加工食品の2倍 英研究 – CNN.co.jp
2025.08.10
(その2 解説編につづく)
東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。
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