科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

野良猫通信

米国での「赤色3号」の禁止という発表について(後)発表に至った理由と今後の影響

畝山 智香子

米国FDAの赤色3号に関する発表の詳細について、前編に紹介しました。後編は、この発表に至った複数の理由と、今後の影響について考えてみます。

●FDAの食品添加物規制

残留農薬と食品添加物および色素でデラニー条項への対応が違った理由の一つに、FDAの食品添加物規制の特殊さがあります。米国で何らかの添加物を食品に使用したい場合、市販前の安全性評価をFDAが行って規則(Code of Federal Regulations; CFR)としてリスト掲載するものと、GRAS(Generally Recognized As Safe:一般的に安全とみなされる)通知で済むものとがあります。

色素についてはGRASがひとつもなく、全てCFRの条文として掲載されなければなりません。そしてデラニー条項が適用されるのはこのCFRに掲載されているもののみです。新規の食品添加物として使われるもののうち相当多くのものがGRASであるため、農薬に比べるとデラニー条項が問題になることがあまりなかったのだと思われます。

GRASの場合FDAは「認可」するのではなく通知を受け取って情報を公開し、異議なし、のような文書を出します。色素についてはアメリカは特に厳しく規制していて、物質としての使用の認可だけではなく、製品のロットごとにFDAが検査して認証するというプロセスまであります。これはアメリカ人が鮮やかな色のものを好むことと無関係ではないような気がしますが過去の経緯があるのでしょう。

日本でも食品添加物に指定添加物と既存添加物があって安全性データの内容は違うといった、外国からみると不思議な制度が運用されています。食品に関しては、それぞれの国で苦労して制度を作ってきた歴史的・文化的背景があるので単純に比較はできないことがあります。

●きっかけとなった請願

このFDAの赤色3号禁止のニュースで
「トランプ次期大統領が厚生長官に指名したロバート・ケネディ・ジュニア氏は食品への着色料使用を問題視する姿勢で知られ、FDAの判断を後押しした可能性もある」
のように書いている記事が多いのですが、それについても若干補足します。

今回のきっかけになった2022年の請願はCSPIを筆頭に以下の団体と個人が連名で提出しています。

Center for Science in the Public Interest, Breast Cancer Prevention Partners, Center for Environmental Health, Center for Food Safety, Chef Ann Foundation, Children’s Advocacy Institute, Consumer Federation of America, Consumer Reports, Defend Our Health, Environmental Defense Fund, Environmental Working Group, Feingold Association of the United States, Food & Water Watch, Healthy Babies Bright Futures, Life Time Foundation, Momsrising, Prevention Institute, Public Citizen, Public Health Institute, Public Interest Research Group, Real Food for Kids, Lisa Y. Lefferts, Linda S. Birnbaum, and Philip J. Landrigan, c/o Mr. Jensen Jose

RFK Jr.氏と直接関係があるというよりは、ずっとこの手の運動をしてきた老舗の環境団体や消費者団体が名前を連ねています。注目すべきはLinda S. Birnbaum博士とPhilip J. Landrigan博士です。
Birnbaum博士は米国の国立環境衛生科学研究所(NIEHS)の所長と米国国家毒性プログラム(NTP)の責任者を2009年から2019年まで10年にわたって務めてきた、米国の毒性研究の中枢にいた人物です。在任中からIARCのアスパルテーム評価で悪名高いRamazzini財団と親交していました。Landrigan博士は小児科医で米国小児科学会の雑誌に、農薬や食品添加物を避けてオーガニック食品を食べることで子供が健康になるというガイドラインを執筆しています。

政治的な注目度は高いものの反ワクチン・反科学で有名なRFK Jr.氏の主張は、科学的に反論することはある意味簡単です。しかしどちらかというと科学の中枢部分に近い人たちが、デラニー条項を持ち出して食品添加物や農薬のような化学物質禁止の運動に賛同していることについては、留意しておく必要があります。次期政権でこうした動きが勢いを増す可能性はあります。

●次の標的は?

ゼロトレランスという考え方は、何かを糾弾することで生活している活動家にとっては極めて都合のいいものである一方で、一般の人々にとってはあまりいいことはありません。環境や安全を主張して活動している過激な団体は、その時々でいろいろなものを批判の対象にしますが「これで安全になった」と終わることはありません。アメリカでは他に現在ベビーフードの有害重金属類が追及されていてカドミウムやヒ素が比較的多いコメがほぼ使えない状況になっています。魚の水銀もしばしば標的になっています。

実際CSPIは今回の結果を受けて、「ついにFDAが発がん性の色素を禁止した」と勝利を宣言し、「これは私たちが日々晒され続けている安全でない食品のほんの一部にすぎない」と、次の標的として他の化学物質以外にも乳幼児用食品中の重金属やヒ素の規制を求めています。
Red 3: FDA finally bans cancer-causing food dye | Center for Science in the Public Interest

CSPIは彼らの活動に賛同し、寄付をして「危険な食品や製品のリストをチェックしよう」と呼びかけます。ゼロトレランスを求める以上「普通の生活をしていれば安全だから安心して」というメッセージが出されることはないでしょう。一般の人々は不安であり続けることになります。

FDAや、日本を含む先進国の食品安全当局のほとんどは、現在流通している食品は概ね安全であると言っています。それが事実で、伝えるべきことだと思います。今後の報道等もみていきたいと思います。

執筆者

畝山 智香子

東北大学薬学部卒、薬学博士。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長を退任後、野良猫食情報研究所を運営。

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