九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
3月15日、伊藤園がニュースリリースで、特定保健用食品(トクホ)の「2つの働きカテキン緑茶」「同カテキン烏龍茶」「同カテキンジャスミン茶」のパッケージ変更を発表しました。中身は同じですが、烏龍茶とジャスミン茶のキャッチコピーが変わりました(写真上)。
これまでの烏龍茶(右)は、商品名の上に「体脂肪 コレステロール が気になる方に」と書かれていましたが、変更後は「体脂肪 コレステロール が多めのかたに」となっています。変更前の「が気になる方に」は小さめの文字でしたが、変更後の「が多めのかたに」の文字は大きくなっています。
また、これまでのジャスミン茶(右)は、商品名の下に「体脂肪・コレステロールが 気になる方に」とありましたが、こちらは商品名の上に「1 血中コレステロールを減らす 2 脂肪の吸収を抑える (体脂肪が多めの方に)」と変更されました。2つの働きが言い切り型になったのは気になりますが、(体脂肪が多めの方に)が加わりました。
どちらも「多めの方に」という文言が入ったのを見て、ピンときました。これは昨年12月21日に開催された消費者委員会・新開発食品調査部会の審議内容を受けたものではないか…。そこでは、今後のトクホのあり方をめぐって、白熱した議論が行なわれていたからです。
●新メンバーを迎えた新開発食品調査部会
トクホの表示許可の手続きは消費者庁が窓口となり、まずは消費者委員会・新開発食品評価第一調査会で専門的事項の調査審議を行い、その後に親部会である新開発食品調査部会で調査審議を行うというステップを踏みます。2017年8月の第4次消費者委員会まで、専門部会は第一調査会と第二調査会の2つがありましたが、申請品目の減少に伴い2017年9月からの第5次消費者委員会より調査会は第一調査会に統合されました。
第5次・新開発食品調査部会には、部会長に高知大学の受田浩之副学長、奈良県立医科大学公衆衛生学講座の今村知明教授、科学ジャーナリストの松永和紀氏の3名が新たに就任しています。その初会合が12月21日に開催されました。会議は非公開で、議事録は委員の名前や品目名、表示内容などが「□□」として伏せられて公開されています。
当日は4品目が審議され、このうち2品目が伊藤園のお茶でした。議事録を読むと、関与成分は茶カテキンで、製品は緑茶と烏龍茶のようです。既許可品との違いは表示内容、関与成分の量、1日摂取目安量だということでした。
この調査部会に先立ち11月6日開催された第39回第一調査会では、内容は了承したものの、許可表示内容に修文が必要ではないか、さらにキャッチコピーが不適切ではないか、という2点について親部会への申し送り事項とされていました。
●景品表示法上、この表示は問題がある
この申し送り事項について、調査部会でも複数の委員から、許可文言を切り取ってキャッチコピーで「茶カテキンで□□」と書くのは薬事法の効能に近づく、消費者をミスリードする、行き過ぎだという厳しい意見が出されました。
ある委員は、別の角度から問題を指摘しました。□□の根拠となっているこの論文を見るとBMIが25~30の肥満域の被験者を対象に試験をして効果ありという結果が出ているが、それより低いところでは効果は確認できていないと思うので、そのことをキャッチコピーや許可表示に書くべきではないか、そうでないと消費者を誤認させることになり景品表示法上も問題があるのではないか、という指摘です。
景品表示法は、実際よりも著しく優良または有利と見せかけるような表示を不当表示として、禁止しています。2017年11月に「葛の花由来イソフラボン」を関与成分とした機能性表示食品16社に措置命令が出されました。ここでは、誰でも容易にBMIや脂肪を抑えられると表示をしている点が問題とされ、消費者庁の記者説明用の資料を見ると、BMIが25~30の対象者の結果しかないのに誰でも効くという広告をしているから違反であるという判断が下されています。
委員はその点について触れ、今回の伊藤園の商品のキャッチコピーではBMI25~30の対象者の結果しかないのに、こうした条件づけが何も書かれていない点を問題としました。そして、当日資料には「□□」という主観的な表現しかなく、これではBMIが低い人でも気になる人は気になるので、その点をはっきりと書くようにすべきだと指摘しました。消費者の誤認の意識は時代によって変わっていくので、トクホも景品表示法の規制強化を受けて厳しくすべきだという主張でした。
●伊藤園の2品目は継続審議に
この発言で、部会の流れが変わったようです。その後、他の委員から「既許可品ではどういう訴求をしているのでしょうか」という質問が出て、部会長代理がネット上を検索して「これもキャッチコピーが『□□』とどんと一番上にでているようです」と報告しました。
このように議論は、現在販売されているトクホ商品のキャッチコピーの在り方にまで及びました。そのうえで、「今回はこのまま2品目を了承することにはなりそうもないので、必要に応じて修正を施していく」という結論となり、この2品目は継続審議となりました。
●キャッチコピーに、対象者の領域の併記を
それでは、どのようにキャッチコピーであればよいのか。調査部会の後半はこの議論が続きます。消費者庁は前提として「キャッチコピーは任意表示の位置づけとなり、その内容が消費者を誤認させるようなもの又は事実にもとづかないものであれば不適正表示となるが、それが正しい内容で消費者の選択の参考になるのであれば一律にそれを排除するものではない。それが現在の表示制度である」と説明しています。
ある委員からは「□□は主観で、BMI低い人も気にする人は気にしますので、体脂肪が高めの方へと、どこの領域が対象かをはっきりさせた方がいいと思います。『□□』などを見ても、そのあたりが割と明確に『血中中性脂肪が高め』という表現がありますので、今、機能性表示食品などを見ても、『BMIが高めの方』みたいなどこが対象かということをより明確にして消費者に情報を届けようということが景表法などの整理になってきていると思いますので、ここはきちんと体脂肪が高めと書いていただいたらいいと思います。」と、具体的な提案が出されました。
最終的に部会長は、伊藤園に一部修正を事業者に求めることとして、キャッチコピーに対象者を併記して「体脂肪が多めの方に」とすること、「茶カテキンに□□」という特定した表現は修正した方がよいといった意見をまとめました。
今回の判断は、これからのトクホの表記を大きく変えることになるでしょう。消費者庁は対象者の領域を併記する表示方法について、既存品の表示を機械的に一斉に変えるのではなく、今後リニューアルして別の商品にしたいという申請が再度あったときに新しい商品では切りかえるというスタンスも示しました。
●トクホのキャッチコピーに変化の兆し
以上のとおり、なぜ今回の伊藤園のデザイン変更で「体脂肪が多めのかたに」が入ったのかは、2017年12月21日の調査部会の議事録を読めばすぐにわかると思います。
伊藤園に限らず、トクホの表示はこの数年で少しずつ変わってきています。消費者を誤認させるとして「体脂肪を減らす」のが「体脂肪を減らすのを助ける」といったように、言い切り型にしないよう数年前からキャッチコピーが変わってきています。そして今回は、「体脂肪が多めの方に」と対象を明確にするという新たな方針が打ち出されました。
伊藤園のニュースリリースに「お客様に分かりやすく訴求したヘルスクレームに変更した」と書かれていました。消費者を誤認させないよう対象を明確にしたことは、望ましいことです。トクホの表示に見えてきた変化の兆しがさらに広がり、機能性表示食品にも波及してもらいたいと思います。(森田満樹)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。