科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

食品表示・考

2017年1月原料原産地表示の説明会 全国で反対意見や質問が相次ぐ

森田 満樹

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農林水産省と消費者庁は、全加工食品に原料原産地表示を義務付ける方針について、2016年12月~2017年1月にかけて全国で説明会を行いました。北海道から沖縄まで全国9か所で15回開催し、参加者は全国で約2,700名ちかくになります。

私は東京の説明会に参加しましたが、消費者、事業者、行政関係者など様々な立場の参加者から、反対意見や質問が相次ぎました。これは東京だけでの話ではありません。各地で参加した方々に取材をしていくと、説明会で様々な問題点が浮き彫りになってきたことが明らかになってきました。

●消費者・事業者から反対意見が出ても、方針は変わらず

説明会では、担当者が「加工食品の原料原産地表示に関する検討会」の報告書の内容を解説し、その後に質疑応答が行われるスタイルで進められます。まずは、全ての加工食品の重量割合上位1位の原料原産地について、原則となる国別重量順表示か、4つの例外表示(「可能性表示」「大括り表示」「可能性表示+大括り表示」「製造地表示」)のいずれかで表示する方法が紹介されます。

これに対して、ほぼ全ての会場で消費者から反対意見が出ています。全国消費者団体連絡会は検討会の取りまとめについて、反対意見を出しています。その内容は、各地で活動する消費者団体に伝わっています。いずれも「4つの例外表示について、消費者の誤認を招くので受け入れられない」として、方針の見直しを求めるものです。

事業者からも反対意見が相次ぎ、「2016年12月末に消費者委員会に諮問され、食品表示部会で反対意見が出ているが、その結果を今後の方針に反映させるのか」「パブリックコメント等で、原案に対して反対の指摘が相次いだ場合はどうするのか」といった質問も聞かれました。

しかし、担当者は「専門家による検討会で方針は決まったので、今後も方針は変わらない」「実行可能性を重視すれば、例外表示はやむを得ない」「消費者にとって有用な情報になると考えている」として、反対意見を退けます。「例外表示を見直す」とは決して言いません。説明会は、どんなに反対意見があっても方針は覆らないことを伝える場だったようです。

●こんな場合どう表示する?担当者が答えられないケースがたくさん

そうとなれば、事業者はこの夏から改版を検討しなければならず、目の前の問題として迫ってきます。しかし、実際にどのように表示をするのか、判断に困るケースがたくさんあります。説明会の質疑応答で8割以上を占めたのが、表示対象や表示方法をめぐる事業者からの質問でした。

たとえば「複合原材料」。たとえば弁当のおかずの「鯖味噌煮」は、原材料名から内容がわかることからそれ以上細かく書く必要はありません。ここに用いられる原材料によってアレルギー表示が必要となる場合は「鯖味噌煮(小麦を含む)」となるのですが、原料原産地が義務付けられたらどうなるのか。原材料を分さらに細かく「鯖味噌煮(鯖(国産)、小麦を含む)」、「鯖味噌煮(小麦を含む)(国内製造)」といった表示が考えられますが、具体的にどう表示すればいいのか現段階では明らかになっていません。安全に関するアレルゲンと、選択の表示の原料原産地の間に順番のルールがあるのか疑問も出てきます。こうした複合原材料に関する質問は各地で出されており、担当者は後ほどQ&Aで回答するとしています。

たとえば野菜の「まとめ表示」。ベビーフード等で「野菜うどん」という商品で「野菜(にんじん、かぼちゃ、キャベツ)、うどん…」とある場合、にんじんよりもうどんの方が重量が多い場合は、2位のうどんに(国内製造)などと表示するそうです。こうなると、必ずしも原材料名の最初にくるわけでないケースもでてきそうです。

たとえばミックスベジタブル。3種の野菜が全て同率の場合はどうするのか。12月の説明会では表示方法を検討すると言っていましたが、1月は「そんな事例が本当にあるのか、そうであれば全て表示することになる」などと回答が迷走気味です。

たとえばヨーグルト。原材料1位が乳製品と表示されているものがあります。これはホエイパウダー、脱脂粉乳などをまとめて表示することが公正競争規約で認められてきたのですが、分解して1位のものを取りだして表示できるのか。こちらも業界にヒアリング中だそうです。

たとえばギョーザ。皮の重量割合がいちばん多く、加工でんぷんという添加物が第1位の場合、添加物は原料原産地対象外なので具のキャベツを国産と書くことになるのか?そのときの重量の計算方法はどうなるのか。こちらも検討中という回答です。

たとえばりんごジュース。原料に濃縮還元果汁(国内製造)を用いている場合でも、個別の表示基準で原材料の名称は「りんご」と書くことが定められており、「りんご(国内製造)」と表示することなります。これでは、りんごの収穫地が国内だと誤認する人が出てきそうで、消費者を欺くことになるのではないかと懸念されます。個別品質表示基準のルールを見直すのか、現時点ではわかりません。

また、可能性表示「〇○又は▲▲」のただし書きについても、質問が相次いでいます。用いられている原料原産地の実績などを、枠外に書くことが義務づけられているのですが、何年間の実績ならいいのか。前年度実績という表記も認められるのか。こちらもQ&Aで示されるのでしょう。。

一方、説明会で明確になったこともあります。たとえば対象範囲ですが、業務用食品や添加物は原料原産地表示の対象にならないとしています。また、現在、原料原産地表示が義務化されている22食品群+4食品については、例外表示は認められず、対今後は50%未満であっても重量順位1位のものは表示することになります。刺身3点盛りなどこれまで表示しなくてよかったものも、1位のものは表示が義務付けられます。こちらもスーパーなどで対応に追われることになるのでしょう。

●要望もいろいろ 特に移行措置期間の延長を望む声が大

こうして各地で寄せられた質問内容を書いていくと、いかに制度に無理があるかがわかります。担当者は「様々な事例があることがわかったので、それをこれからQ&Aに盛り込んでいく」と答えていますが、それを聞いて「様々な事例があることを想定していなかったのか」とがっかりした人も多かったのではないでしょうか。

制度設計がずさんで拙速すぎる。こうしたことから、ほとんどの説明会で事業者から「経過措置期間を5年間は設けてもらいたい」「あわせて食品表示法の移行措置期間である2020年3月末も延期してもらいたい」という声が出ています。これに対して、農林水産省や消費者庁は明確に回答はしていませんが、2020年3月末だと考えていると説明している会場もありました。
さらに「表示に代わってインターネットによる情報提供なども認めてほしい」「表示方法は一括表示枠内ではなく枠外でも認めてほしい」など、柔軟性を求める意見も各地で聞かれていますが、これに対しては「容器包装の一括表示による表示と、検討会では決まっている」と要望を却下しています。ここは再考できないものでしょうか。

消費者庁は3月末には表示基準(案)とQ&A(案)が公表した後、、消費者委員会で検討が行なわれ、パブリックコメントなどの手続きに入るといいます。4月には農林水産省と消費者庁は再度全国説明会のキャラバンをするということです。

食品表示は事業者と消費者のためのものなのに、説明会で出された反対意見や質問は封印され、たくさんのグレーゾーンを含んだまま、夏の基準変更に向けて強引に進められていきそうです。何とか消費者と事業者が少しでも納得できるものにならないでしょうか。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。