GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
種子から良質な食用植物油が得られるものの、ワタは第一義的に繊維・工芸作物という位置づけにあるため、GMOワールドでもダイズやトウモロコシに比べやや地味な存在だ。連休も終わったが、今週はGMワタを巡る世界ツアーにご案内しよう。
先ず近隣の中国から。1990年代初頭各種殺虫剤に耐性を持ち始めたbollwormに手を焼いた多くの農家が、ワタの栽培を断念しトウモロコシやムギに転換する事態が起きた。しかし、97年のGMワタ導入が救世主となり、種子会社より農家や消費者に利益があった(先々週の拙稿参照)ことも追い風となり、現在中国で唯一のGM食用作物として定着している。
中国農業省は2006年の努力目標として、05年の506万ha(ISAAA調査では330万ヘクタール)から533万haにワタの栽培面積を拡大し、反収も上げることにより600万トン以上の生産量(05年570万トン)を上げている。
次に02年からGMワタを導入したインドでは、一部での情勢が風雲急を告げている。GMワタの栽培失敗から負債を苦に自殺する農民が後を絶たないという悲劇が繰り返し報道される。これは、もっぱらMonsanto社の攻め道具に使われることが多いが、直近のBBCなど見ると、天候要因はもとよりWTOの圧力による農家補助金廃止などもあり、背景はもっと複雑だ。
Monsanto 社のお手々が真っ白という訳でもない。先月、Monsanto社の現地法人であるMMB(Mahyco-Monsanto Biotech)社は、MRTPA(独占および制約的商業と慣行委員会)から、GMワタ種子特許料が高額すぎ種子市場を独占しているとの批判を受けた。
アンドラ・プラデシュ州政府や同州農民グループからは高額な特許料を禁止しろとの要求がMRTPAに出され争議中だ。MMB社は、特許料を30%カットしたり、GM種子を販売する現地企業を増やしたり、批判をかわすのに必死である。
インドを横目(あまり報道されないが、GMワタは失敗ばかりではなく効果を上げている地域も当然ある)にいよいよ離陸するばかりなのが、パキスタンだ。
97年から政府主導でコツコツ自前の研究を継続してきたGMワタは、05年4月にバイオセーフティ規則を制定するや、同年5月に3200haの試験栽培を敢行、成功裏にこれを終了させた。06から07年には、少なくとも3万ha以上のGMワタが商業栽培開始されると予想されている。
オーストラリアに目を転じよう。06年には57万トンを生産すると見込まれるこの国のワタの85%が既にGMだと言われる。種子の主流は最新のMonsanto社Bollgard IIである。GM商業栽培を禁止している西オーストラリア州でも、今年GMワタの試験栽培が開始された。
アフリカではどうか?GMワタ商業化では先輩格の南アフリカ共和国では、Monsanto社の浸透や環境グループなどによる反対運動など、先進国型の環境が特徴だ。種々論争は絶えないが、一定の効果が認められたGMワタ栽培は既に根付いていると考えられる。
GMワタ導入が間近いと考えられているのは、害虫被害からの生産減にあえぐケニヤだ。しかし、農家の期待や試験栽培の成功とは裏腹に、商業化に不可欠のバイオセーフティ規則策定の遅れに、関係者からは政府の怠慢をそしる声も上がっている。
一方、ケニヤに比べアフリカ最大のワタ生産国マリは、一歩遅れている。GM導入は小規模な農家に効果があるのか懐疑的なグループも存在し、推進派との間にコンセンサスが得られない。選挙を控え、政府の指導力も微弱という。
GMの本家米国に移ろう。05年の全ワタ作付面積の79%(USDA)が、既にGMである。農薬使用が減るという推進派の売りは、ウソだと反対派は主張する。この問題に対し、アリゾナ大学から2年にわたりGMワタの産出、殺虫剤使用と生物多様性影響を分析した結果が公表された。非GMとの比較で、産出量に目立った相違はなかったが、殺虫剤使用量は半減、非標的昆虫への悪影響は見られなかったという。
省略したGMワタ商業栽培国もあるが、駆け足で最近の情勢を見てきた。ワタは、先進国・途上国を問わず輸出向け換金作物の性格が強い。俗に「白い金」と言われる由縁である。
最後になったが、先進国の繊維産業界では、企業イメージの向上のため自社製品にオーガニック・コットンを使用するのがトレンドになりつつあるらしい。これでは途上国がせっかく苦労してGMワタを導入しても肩すかしになりかねない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)