九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
2015年6月までに施行される食品表示法。消費者庁は、具体的な表示ルールを定めた食品表示基準(案)を7月7日に公表し、パブリックコメントを募集しています(8月10日まで)。
基準案がこのまま施行されたら、何がどう変わるのでしょうか。まずは、表示事例を作成してみました。消費者庁は食品表示基準案の策定にあたって、原則として表示義務の対象範囲については変更しないと説明してきました。ところが、変更点はご覧のとおりちょこちょことたくさんあります。
このまま施行されれば、あまりよく知らないうちに新しい食品表示基準案ができてしまうことになりそうです。その内容は、食品表示法に期待してきたものになっているのでしょうか。食品表示は消費者と事業者を結ぶ大事な情報伝達手段であり、パブリックコメントでは様々な立場の人たちの意見が求められています。
パブリックコメントに出された基準案は340ページ、概要版79ページと、パブコメ案としては膨大です。消費者庁は7月中に全国7カ所で説明会を行い、さらに事業者向け、消費者向けの説明会も開催しています。会では、消費者庁から基準案の構成と現行制度からの主な変更点について解説が行なわれ、参加者からはたくさんの疑問、意見が寄せられました。これらの情報を参考に、現行制度からの変更点と考えられる課題について、主なものを表にまとめてみました。
ここでは、主な変更点について「基準案の構成」「製造所固有記号」を(上)に、「アレルギー表示」「原材料名欄の表示」について(中)に、「栄養表示」と「表示レイアウト」について(下)に分けて、考えます。長い原稿になりますが、お付き合いください。
1) 「基準案の構成」がわかりにくい
【基準案の概要】
今回示された基準案は、JAS法関係52基準、食品衛生法関係5基準、健康増進法関係1基準の合計58基準を、1本の基準に統合したものです。巻物のように膨大になると予想はしていましたが、340ページあり、このうち、要の部分となる本体部分は52ページです。残りの8割は本体にぶら下がる24の別表であり、最後の5ページで別記様式が示されています。本体部分がどのような構成かは、概要版3pに示されています(下図)。これが基準案の目次ともいえるものです。
基準案の本体は、階層構造となっています。大きくは、「第2章 加工食品」「第3章 生鮮食品」「第4章 添加物」と食品区分ごとに分かれています。その下に「食品関連事業者に係る基準」「食品関連事業者以外の販売者に係る基準」があり、前者はさらに「一般用」と「業務用」に分かれます。その下の分類として「横断的義務表示」「個別的義務表示」「特例」「推奨表示」「任意表示」「表示の方式等」「表示禁止事項」が並びます。
【基準案の課題】
最初にこの階層構造を見た時は、区分ごとに美しく整理されているなあと思いました。そして、加工食品の義務表示について第3条(本体2p)をみると、名称、保存の方法、消費期限又は賞味期限、原材料名、添加物、内容量、栄養成分…と一つの欄に収められています。これまで法律が異なるため一つにできなかった項目が並んでいるのを見て、本当に一元化したのだと感慨深く思いました。
ところが、具体的に食品ごとに必要な義務表示項目は何か、という観点でみるとわかりにくいのです。横断的義務表示、個別的義務表示の各項目にぶら下がる別表をみながら、別記様式を確認しつつ一括表示を組み立てるのですが、必要な情報があちこちと散らばっています。これまで個別表示基準のある食品は必要な情報が一目でわかりましたが、基準案ではいちいち探さなければなりません。栄養表示も、かつての栄養表示基準は一目でわかりましたが、基準案ではバラバラになっています。
しかも、いくら基準案を探しても必要な情報が無い場合もあります。たとえばアレルギー表示の一括表示に係る規定は、今回の基準案の中にはありません。消費者庁の説明によれば、個別表示が原則として基本のため、一括表示が表示基準案には示さずQ&Aで対応するとのこと。説明会では、他の項目でも参加者から「基準案ではわからない」と指摘され、「後ほどQ&Aや通知で対応する」と答える場面が多くみられました。また、新法の監視体制を担う保健所や都道府県の担当者の方も参加されていましたが、その質問内容からも同様に戸惑っている様子がみえました。
消費者側からみても、基準案の構成がわかりにくいのは問題だと思います。食品表示法は3つの法律を一元化してわかりやすくすることが命題であったはず。わかりにくければ、消費者の食品表示の理解や活用が進みません。せめて、基準案を読み解くための解説書やパンフレットなど、食品ごとの表示例を示すなどわかりやすいものを作成して、普及啓発にあたってほしいと思います。あわせて、基準案では読み取れないQ&Aの作成も、できるだけ早く公開することが求められます。
【パブコメの際の留意点】
パブコメを提出する場合は、件名を「食品表示基準(案)について」として、必要事項を記載して、意見を記載します。様式は何でもいいのですが、スタンダードな記入様式(関連情報の2番目)ががあり、それを用いる場合はページ数、条番号、表題を示したうえで、意見と理由を記載します。
「基準案の構成」は、全体的な話ですので意見を出しにくいところですが、様式は自由です。ページ数や条文などを示さなくても、概要版1p「食品表示基準案の策定方針」や、概要版3p「食品表示基準案(内閣府令)の構成」を表題として意見を出せばよいのです。消費者庁によれば、理由をできるだけつけてほしいということ。全体についても気づいた点は、意見を出しましょう。
2) 製造所固有記号は消費者庁案プラス6案、結果はパブコメ次第
【基準案の概要】
表示基準案の中で一番関心が寄せられているのが、製造所固有記号です。基準案では、「原則として、2以上の工場で製造する商品のみに利用可能」とする消費者庁の見直し案が、基準案本体8pと、概要版4P、18~24pに示されています。これらを簡単にまとめると、次のとおりになります。
● 製造所固有記号の利用は、原則として二以上の製造所で同一表示の同一商品を製造販売する場合のみ
● 従来の固有記号の届出は一定期間経過後白紙となり、新規に届出申請が必要となる。また今後は固有記号に有効期間が定められ、その都度更新手続きが必要となる
● 固有記号で表示する場合は、次のいずれかの表示が必要
① 製造所所在地等の情報提供を求められたときに回答する者の連絡先を表示
② 製造所所在地を表示したHPアドレス等
③ 当該製品の製造を行っている全ての製造所所在地等
消費者庁案に対して、消費者委員会食品表示部会の委員からは様々な意見が出されています。これまでの経緯はFOOCOM食品表示・考「食品表示法の表示基準案 製造所固有記号制度の見直し案まとまらず」でもお伝えしてきたとおり、大もめでした。消費者委員会は十分に審議を行って基準案を精査して、国民に問うのが役目のはずですが、最後まで結論がまとまらないのです。
結局、委員からは消費者庁の案とは別に、以下の6通りの提案が出されました(パブコメの概要版4p)。
1. 製造所又は加工所の所在地を表示することが原則であり、例外規定である製造所固有記号の使用は認めない。
2. 例外規定を認める条件を明確化し、表示面積により記載が難しいなど、定められた条件を満たした場合のみ製造所固有記号による表示を可能とする。
3. 例外規定として、「共用包材によるコスト削減のメリットがある場合」、「表示可能面積に制約がある場合」に加え「販売者が食品の安全性の責任を有するため販売者を表示する場合」を追加し、この3つのそれぞれの場合において、製造所固有記号による表示を可能とする。
4. 例外規定として、自社の複数工場で生産をしている場合のみ製造所固有記号による表示を可能とする。
5. 消費者が製造所を知りたいということであれば、現行データベースの改善、応答義務、知りたい製造所を固有記号からたどれる仕組み(消費者の検索利用)、製造所固有記号の再審査制の4つの取り組みを行なう。
6. 現行制度の問題点が整理されていない段階で、実態を踏まえずに大きな改正をすべきではない。冷凍食品の農薬混入事件と製造所固有記号とは直接の関係はないことから、現時点では、明らかに問題とされている消費者庁のデータベースの改善措置のみ講じる。
説明会で、消費者庁担当者は「基準案には消費者庁案を示しているが、これは結論ではなく仮置きである。食品表示部会からは6つの提案がでており、これらを参考にして意見を出してほしい。ご自分の意見がこの中にない方は、それを示して頂いてかまわない。パブリックコメントで寄せられた意見を参考に、消費者委員会食品表示部会の審議を経て結論を出す」と話しています。
【基準案の課題】
説明会では様々な意見が聞かれました。「複数の工場といっても、事業者は様々な抜け道を使って製造所固有記号を使い続けるだろう。どこで製造されたのか、消費者は知る権利があるので、製造所固有記号を全廃した方がわかりやすい」といったものから、「消費者庁案では、中小の事業者が大きなダメージを受けることになり、日本の食品製造業の在り方にも影響を及ぼすため、現行制度のままでよい」といったものまで、意見は分かれています。
また、説明会で出た質問でハッと気づいたのですが、基準案には例外規定として「原則として二以上の工場…」とあります。この「原則として」は何か。消費者庁の説明では、例外として製造所固有記号を認めるケースに、バルクで仕入れたうなぎのかば焼きを工場内で消費者向けにパック詰めをしたような事例が該当すると言います。こうした事例は、現行の食品衛生法では「製造」と整理されていましたが、新法では新たなものを作りだしていないことから「加工(調整及び選別を含む)」と整理され、定義が変更されます。そもそも「加工」の場合、製造所固有記号は使えないのですが、「定義の変更に伴い『加工』に整理される事業者にあっても、一度製造された食品を小分け等行う事業者に限っては、引き続き製造所固有記号を使用できるものとする」とする例外規定が設けられたのです。
これはややこしい、ダブルスタンダードになり不公平です。消費者庁案では、例外規定の線引きが合理的ではないように思います。なお、提案6案のうち2~4も例外規定の線引きを新たに示したものですが、結局のところ線を引けば、それをうまくすり抜ける事業者が必ず出てくるでしょう。合理的な線引きの案があれば、意見を述べたいところですが、なかなか思いつきません。
だったら、いっそのこと1の全廃という考え方か、5.6のように、現行の製造所固有記号制度を改善しながら存続させるという考え方か。後者の場合、事業者に応答義務を義務付け、検索機能などを整備すれば、表示という形でなくても、情報は開示されることになります。
【パブコメの際の留意点】
製造所固有記号は今回の基準案のパブコメの目玉でもあります。消費者庁は、消費者庁案プラス6案を示していますが、パブコメの出し方としては異例です。6案も出した消費者委員会食品表示部会の責任が問われるところですが、いずれにしてもパブコメで寄せられた意見をもとに2014年9月以降同部会でさらに検討を行い、そのうえで結論が出ることになります。
意見を出す際に記入様式を使う場合は、頁は本体8p、条番号は第3条第1項、表題名は「製造所固有記号」となります。意見欄には、消費者庁案を支持するか、概要版4pに示されている委員の意見6案のいずれかを支持するか、これらを参考に自分の意見を述べるかしたうえで、その意見に至った理由も記しましょう。消費者委員会の挫折によって、皆さんの意見が直接法律になるかもしれない絶好のチャンスです。是非有意義な意見を出していきましょう。
続いて「アレルギー表示」「原材料名欄の表示」について(中)に、「栄養表示」と「表示レイアウト」について(下)にまとめます。(森田満樹)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。