GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
10月16日は、世界の食糧問題を考えようという趣旨で、国連FAO(食糧農業機関)が1981年から制定した「世界食糧デー」であった。この日を挟んで大小様々なイベントと共に、直接・間接的にいろいろなメッセージも発信された。GMO絡みでも反対・推進両派から力の入った主張が提起されているので、双方から1つずつ取り上げてみよう。
参照記事1
TITLE: Greenpeace releases GM corn study
SOURCE: The Herald, by Michael O’Boyle
DATE: Oct. 19, 2004
この背景ストーリーも実に複雑で長々しいのだが、発端は01年11月28日付「ネーチャー」誌にカリフォルニア大学バークリー校の研究者らが、メキシコ南部オアハカ州とプエブラ州の野生トウモロコシから、GMトウモロコシの遺伝子を発見したと発表したことにある。メキシコにおいては98年からGMトウモロコシ作付けは禁止されており、当該野生種の採取地域は以前GMトウモロコシが作付けられていた地点から約100キロ離れていた。
メキシコにはトウモロコシの原種が存在していたためもあり、ジーンフロー(遺伝子流出)問題を巡って凄まじい論争が勃発した。推進派は研究手法を疑問視するなど激しいキャンペーンを展開し、02年4月に至り「ネーチャー」がイグナシオ・チャペラ助教授らのこの論文掲載を遂に撤回するという前代未聞の珍事へと発展していく。
しかし、同月のメキシコ政府の独自調査結果でも野生種へのGM遺伝子のジーンフローは再確認されており、その後もジーンフローを裏付ける調査結果が散発的に公表されて来た。この問題に決着をつけるものと期待されたのは、米国・カナダ・メキシコ3カ国が形成する北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)の環境保護委員会(CEC:the Commission for Environmental Cooperation)が、ことの重要性に鑑み本件を調査すると02年6月20日に発表したことであった。
その後、今年3月11日CECがオアハカで開催したシンポジウムにおいて、3カ国15名の科学者で構成する諮問委員会から、米国からメキシコへのGMトウモロコシ輸出をより厳しくコントロールすべきであると勧告する報告書ドラフトが公表された。本報告書は6月に発表される筈だったが、米国・メキシコ両政府の圧力により遅れているというのが、10月19日のGreenpeaceなどによる告発である。
参照記事2
TITLE: Biotech crops get a rave review
SOURCE: St.Louis Post, by Rachel Melcer
DATE: Oct. 20, 2004
2003年、米国ではダイズ、トウモロコシ、ワタ、ナタネ 、スカッシュおよびパパイヤの6種類のGM作物が栽培された。この結果、42州の農家には収益や反収増、農薬使用量の減少、環境に優しいとされる不耕起栽培面積の拡大と言う恩恵がもたらされたと食糧と農業政策センター(NCFAP:the National Center for Food and Agricultural Policy)が発表した。
6作物の栽培面積合計は対01年比較で33%増(1億600万エーカー)、反収は41%増、生産コストが25%減じた結果農家収益は27%増、農薬使用量は2%減と推計されている。作物毎のメリットも詳細に述べられているが、紙幅の関係からここでは触れない。
この種の論文の場合、数値のソースやスポンサーは気になるところだ。データソースはUSDA(米国農務省)、結論は多くの農業、学研、政府専門機関のレビューを経ているという。NCFAP は、Monsanto社などバイオ開発企業から一部資金提供を受けていることを否定しない。しかし、それらは一般的なオペレーションに充てられ、この研究に対しては使われていないという。NCFAP自体は、ワシントンD.C.ベースの非営利調査機関で、W.K. Kellogg基金からの助成金により1984年創設された。
さて、GM論争を巡る論題の1つに「リスク&ベネフィット」がある。しかし、今までは一般論・原則論としての範疇を出ず、あまり実のある議論にはならなかった。なぜならリスクにもベネフィットにも、GM作物・食品についての具体的なデータが揃わなかったからである。しかし、信頼性の高いデータが続々出てくれば、当然論議の深まりも期待できよう。
正当な科学的データに対する政治的介入や推進派による金にあかせた強引なキャンペーンは批判されるべきだし、同時に無責任に妄想を垂れ流すだけの職業的反対派にもいい加減退場願いたい。キチンとしたデータに基づくリスクとベネフィット双方を尊重したクリーンファイトに今後期待したい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)