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GMOワールド

南米の遺伝子組み換えダイズ事情〜知財と需給の問題から

宗谷 敏

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 ダイズの播種シーズンを迎えたブラジルでは、GMダイズの作付けを巡って昨年と変わらぬ混乱が続いていた。GMダイズに関する規約も盛り込まれたバイオ・セキュリティ法案が、2004年10月6日ようやく上院を通過したものの、すんなり通るとは考えにくい下院の審議がまだ行われず、播種のタイミングに間に合わないことが確実となってきたからである。

 ついにルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領は、10月15日に至り昨年同様、GMダイズの作付けを時限で許す政令に署名した。この結果、12月31日まで、GMダイズの国内作付けが認められ、06年1月31日まで(60日間の延長措置もありうる)収穫されたGMダイズの販売が許されることになる。しかし、議会での決着に期待していた大統領としては、環境保護団体などからの批判の矢面に自ら立つことになるため、切りたくはなかったカードだろう。
参照記事1
TITLE: Order Allows Planting of Modified Soy
SOURCE: AP
DATE: Oct. 15, 2004
 ブラジルの政策の変化をもっとも熱心に見守っているステークホルダーはMonsanto社である。GMダイズ種子の南米ブラックマーケットによって、知的財産権を90年代からないがしろにされ続けてきた同社にとって、昨年の時限政令は技術料徴収のための第1歩であった。決定的解決には至らないものの、これで昨年以前の暗黒状態への舞い戻りは避けられた訳だ。
 ブラジルのGMダイズ種子ブラックマーケットは、主に南部へのアルゼンチンからの違法GMダイズ種子流入によりもたらされた。違法行為を元から絶つべく、GMダイズ作付け農家の40%しか技術料を支払っていないと言われるアルゼンチンにおいてもMonsantoは活動している。国立種子研究所が全ての種子はソースを明示した袋に入れて販売しなければならないという解決案を提示し、アルゼンチンでもMonsantoに光明が射した。まだ時間はかかりそうだが、Monsantoも検討に参画しての立法化に向けた動きもあるという(04.10.12.Soyatech)。
参照記事2
TITLE: Monsanto seeks to revive biotech presence in Argentina
SOURCE: Financial Times
DATE: Oct. 04, 2004
 既に生産量の60%がGMダイズであると言われるパラグアイにおいても、Monsantoとの技術料支払いに関する合意が間近いと伝えられる。ダイズ生産農家、種子生産者、大豆ディーラーおよび輸出業者によって署名されバイオ技術を合法化するための協定が、認可を得るために農業省へ提出される見込みだというのだ。
参照記事3
TITLE: Paraguay Soy Producers Close To Monsanto Royalties Deal
SOURCE: Dow Jones
DATE: Oct.13, 2004
 筆者は2つの側面から、南米におけるGMダイズを巡る動きに注目している。1つは、上にも言及してきた知的財産権に関わる動向である。現在は国と企業レベルの扱いに終始しているが、小は農家の自家採種権から大は南への技術移転まで、国際的なフレームワークが早晩必要となるだろう。その場合、このように各国ベースで処理された知財に対する議論がどのように係わっていくのかは非常に興味深い。
 2つ目は、ダイズという国際貿易商品に関する問題である。03-04年のダイズの国別生産量は、米国6500万トン、ブラジル5200万トン、アルゼンチン3240万トン、中国1620万トン、パラグアイ380万トンとなっている(Oil World Annual 2004)。長期のトレンドを予測すれば畜産飼料原料としてのダイズ粕の国際需要は伸び続ける。ダイズ油の需要も減退する要素はない。そして、これらの需要増を賄っていくのは、環境保護とのバッティングは1つのマイナス要因ではあるが、安価な土地や労働力、豊富な水資源に恵まれたブラジルを中心とする南米諸国であることも間違いない。
 このような背景から、米国やアルゼンチンでは既にほぼ90%、ブラジルも25〜30%、パラグアイ60%を占めるに至ったGMダイズおよびその製品というファクターは、国際市場にどのような影響を与えるのか? 輸入国側では、GM規制強化を打ち出したEUや何でもディスカウントの道具に利用する中国はどう動くのか?南米全体も米国並みにGMダイズの比率が上がった場合、Non-GMダイズの価格は高騰するだろうが、マーケットは果たして存続するのか?これらの興味もまた尽きない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)