食の安全・考
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
プエラリア・ミリフィカは、タイで栽培されるマメ科のクズ(葛)の一種です。女性ホルモン作用をもつ植物性エストロゲンを多く含むとして、これを原料とするサプリメントが豊胸やスタイルアップ等の健康食品として各種販売されています。ヨーロッパや韓国では販売が禁止されていますが、日本では禁止されていません。
このサプリ、数年前から全国の消費生活センターなどに健康被害の報告が急増し、2017年7月13日、国民生活センターが商品テスト結果を公表して消費者に注意喚起を行いました。厚労省や消費者庁も注意喚起を行った、要注意の健康食品です。厚労省ではQ&Aも公表しています。
●きっかけは全国の消費生活センターに寄せられた相談から
これらの製品の中には、1回お試しをするとその後も送りつけられるなどの経済被害もあり、全国の消費生活センター等に相談が多く寄せられていました。そこで「生理が止まるので続けたくない」という健康被害も多くあったということです。これを集計するPIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)には、この5年間あまりで健康危害情報が209件寄せられていたことがわかりました。
この情報をもとに国民生活センターでは、消費者が目にする機会の多い12商品についてテストを行い、7月13日にその結果を公表しました。商品テストで、植物エストロゲンとしてイソフラボン類よりも約1,000~10,000倍の強い活性があるといわれる「デオキシミロエストロール」「ミロエストロール」の量を測定したところ、製品によってバラバラであることがわかりました。身体へ作用を及ぼす可能性があると考えられる量を含んでいるものもあれば、全く入っていないものもありました。
●厚労省の調査でも1割が「体調不良」を訴える
厚労省もプエラリア・ミリフィカについて、2016年度にインターネット調査を行い結果をまとめています。調査会社の登録モニターの中から750人の利用者を抽出したものですが、ここでは使用者の11%が「体調不良あり」と答えていました。
このデータを見て驚きました。使用者の性別は女性ばかりかと思いきや、男性が29%もいます。強いエストロゲン活性から育毛効果をうたったような通販サイトもあり、口コミで広がっていたのだそうです。
●なぜ、食品としての販売を禁止できないのか
厚労省は2017年7月13日に注意喚起を行った際、全国の自治体に依頼してどの程度の被害があるのか調査を行ったところ、これまでに健康被害事例が233件あったことがわかりました。主な症状の内容は生理不順(67)、アレルギー(66)、不正出血(42)、体調不良(19)などです。
こうした結果を重くみて厚労省は8月24日と9月4日、専門家による新開発食品評価調査会を開いて対応策を話し合いました。そして、食品事業者に対して適正製造規範(GMP)と原材料の安全管理を徹底させること、事業者から消費者に注意事項をきちんと伝えること、行政も消費者に情報提供を行うこと等の策をまとめました。
今後は事業者に指導を徹底させるということで、販売はかなり制限されることになります。しかし、禁止されたわけではありません。
9月4日に開催された新開発食品評価調査会でも、さらに厳しい規制をしたほうがいいのではないかと、一部では次のような意見が聞かれました。
・プエラリア・ミリフィカは、女性ホルモン様作用としてα活性が大変強い。これはイソフラボン等のB活性とは異なり、単純に数千倍などと比較することができないものであり、食品として使うこと自体に問題があるのではないか。
・厚労省が平成17年に定めた「錠剤、カプセル等食品の原材料の安全性に関する自主点検フローチャート」に沿っても、「人の健康を害する恐れがあると認められた場合」に該当するのではないか。
・現在は症状がなくても、女性ホルモン様物質の長期摂取による子宮体がんリスクの懸念がある。医薬品では通常量のエストロゲンを単独で3年間使用した場合に子宮体がんリスクが約8倍になることが示唆されている。
・死亡事例も報告されている。56歳男性で、基礎疾患として糖尿病とC型慢性肝炎がある患者がガウクルア(プエラリア・ミリフィカの別名)を摂取後、急速に肝硬変として進行した事例がある。
・2003年に起きたアマメシバを含む健康食品では、台湾で閉塞性気管支炎が報告され日本でも重篤な事例が発生し厚労省は食品安全委員会にリスク評価を依頼して、販売を禁止した。今回も食品安全委員会で評価をするべきではないか。
こうした意見に対して、他の委員や事務局からは次のような回答がありました。
・食品か医薬品の区分については、いわゆる46通知(昭和46年厚生省薬務局長通知の「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」)がある。この場合、専ら医薬品としては使われておらず、医薬品的な効能効果を暗示していないので、食品として捉える
・重篤な危害が報告されているわけではなく、商品全てを禁止するほどの根拠はない。食品として、「人の健康を害するおそれがあると認められた場合」に該当するとまでは言える状況にない。
・現段階では、平成17年の通知「錠剤カプセル状食品の適正な製造にかかる基本的な考え方について」に基づいて、適正製造規範(GMP)に基づく製造工程管理や原料の品質管理の指導を徹底する。
・事業者から消費者への情報提供として、注意事項に「不正出血、生理不順等の健康被害の発生が知られていること」等を示すこととする。行政からも情報提供を行う。そのうえで、消費者が利用するのは止められない。
・食品安全委員会のリスク評価については、今後の論点に対するご意見として頂いた。評価のためには多くのエビデンスがないと難しく、今後のテーマである。
調査会を傍聴して、健康被害がこれだけ報告されており、長期の健康被害が懸念されているにもかかわらず、なぜ販売禁止にできないのかと思わずため息がでてしまいました。
調査会で出た「可逆的」ということばも気になりました。プエラリア・ミリフィカは、摂取を止めれば生理はもとに戻ります。アマメシバの時のように「不可逆的」で重篤な事例とは異なるということでした。しかし、参考人として呼ばれた婦人科の医師は、長期摂取による子宮体がんのリスクをとても心配していました。
プエラリア・ミリフィカを長期摂取することで何が起こるのかはわかりません。利用者が自ら体を張って人体実験をしているようなものだと思います。何かあっても、体は元には戻らない。そのことをもっと広く知ってもらいたいと思います。
●健康食品の経済被害や健康被害は、「188(いやや)」に電話を
消費者庁は7月21日、都道府県・政令指定都市の消費者行政担当課長宛てに「プエラリア・ミリフィカを含む健康食品に関する情報提供について」とする通知を出しています。ここで、消費者から相談が寄せられた際は、管轄保健所に情報提供するようになっています。
最寄りの消費者相談窓口には、電話番号「188(いやや)」ですぐにつながります。プエラリア・ミリフィカに限らず、健康食品で利用者が経済被害や健康危害を被った時は、まずは相談窓口に伝えましょう。健康被害は医師や保健所に相談した方がいいのですが、若い女性が豊胸の目的で使っていたとなると相談しにくいかもしれませんね。そんな時はまずは「188」へ。1人の通報がデータベースに蓄積され、世の中の危害拡大防止の第一歩へとつながります(森田満樹)。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
食品の安全は消費者の身近な関心事。その情報がきちんと伝わるよう、海外動向、行政動向も含めてわかりやすく解説します。