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執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。

特集

消費者庁『新食品表示法(仮称)に関する消費者団体とのワークショップ』から11月22日『意見交換会』開催へ 

森田 満樹

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 消費者庁の『新食品表示法(仮称)に関する消費者団体とのワークショップ』が10月24日開催され、消費者団体15団体が参加しました。この席上で、消費者庁阿南 久長官は「今後はご要望があったように、公開の場でディスカッションの場を持ちたい」と発言されていますが、これが現実のものとなり、11月22日に「新食品表示制度についての意見交換会」が開催されることになりました。消費者庁は昨日1日より、意見発言者と会議傍聴者の募集を開始しています。

 10月24日に開催されたワークショップでは、日程が急きょ決まったことから一般の傍聴は許されず、意見陳述を行った消費者団体も限定されました。しかし、ほとんどの消費者団体が「公開のうえで意見を広く求めるべき」と延べ、その点では意見が一致しました。それを受けて、消費者庁は意見交換会を開催するとともに、11月1日~11月30日までパブリックコメントも募集しています。これで誰もが新食品表示制度について、意見を述べることができます。

 意見を述べる際には、1)食品表示一元化検討会報告書、2)意見募集要領、3)新食品表示制度のポイントのイメージの3点セットに目を通すことが求められます。特に、2)と3)の内容は、これまで説明されてこなかった新しい内容となっています。

 実は先のワークショップで、この新しい内容について消費者庁事務局が説明しましたが、その内容には驚かされました。新法は報告書を踏まえたものになるはずですが、新法の目的は、報告書が拡大解釈されて原料原産地表示拡大につながる内容になっていましたし、新法の執行体制は国の権限強化につながる内容になっていたからです。

 FOOCOMでは当日の概要について既に速報でお伝えしますが、ここでは当日のワークショップの消費者庁事務局の説明を中心に、新法の概要と課題について紹介します。また、「食品表示・考」ではおなじみの小比良和威さんがワークショップの感想について寄せてくれましたので、こちらもぜひ、お読みください。

食品表示・考 10月24日ワークショップリポート 消費者団体とは多様であることを認めては(小比良和威さん)
消費者庁『新食品表示法(仮称)に関する消費者団体とのワークショップ』を速報します←10月25日
消費者庁『新食品品表示法(仮称)に関する消費者団体とのワークショップ』資料公開(10月24日)

●新法の目的が報告書の中身と違う?

 24日のワークショップは新法の概要について、まずは目的から説明が行われました。その説明資料(新食品表示制度のポイント)をみると「消費者の適切な商品選択の機会の確保に資する表示に拡大」と一文だけ、書いてあります。
 これは、一元化検討会の報告書の内容と異なります。報告書の目的は「食品の安全性確保に係る情報が消費者に確実に提供されることを最優先とし、これと併せて、消費者の商品選択上の判断に影響を及ぼす重要な情報が提供されることと位置づけることが適当と考えられる」となっています。
 新法では、細かい記述がばっさりと端折られて、さらに報告書には無い「拡大」ということばが足されているのです。この「拡大」ということばがポイントで、当日の事務局の説明によると、今後の拡大解釈につながるようなのです。
 その説明部分を紹介します。
「現行からの改正点をいえば、現行JAS法にある『品質に関する適正な表示』について基準を設けることができるということだが、新制度では『消費者の適切な商品選択の機会の確保に資する表示に拡大する』となった。これは、報告書のことばでいえば、『消費者の商品選択上の判断に影響を及ぼすような情報』であれば基準の対象になる、ということであり、それを書きたいと思っている」
「このように言葉だけを並べても、イメージがわかないと思うのだが、検討会でも、原料原産地表示の議論の時に『品質の差異』があるか無いかが論点になった。このように『品質の差異があるかどうか』という議論は、実は『現行のJAS法が品質に関する表示をさせるものであるから品質の差異が無いものに表示義務を負わせるのはJAS法の範囲を超えるのではないか』ということで、昔からその議論が続いていた。そういった意味で『品質に関する表示』ということが、表示できる事項の限界をつくっていたわけだ。そういったものについても『消費者の商品選択の機会』として表示基準を作ることができるとすれば、少なくとも制度的には、義務が課せられる範囲を広げていけるようにでき、そうしたらどうかということである」

 以上抜粋です。つまり、新法の目的を「商品選択の機会の確保に資する表示に拡大」とすることで、加工食品の原料原産地の拡大のネックだった品質の差異が取っ払われて、原料原産地表示が拡大できる、という説明なのです。
 日本農業新聞は翌25日、この説明を受けて「焦点の加工食品の原料原産地表示は、現行のJAS法では品質に違いがなければ表示の義務付けはできないが、法案が成立すれば法的には拡大に向けた環境が整うことになる」と早速トップ記事で伝えています
 一元化検討会の議論では、加工食品の原料原産地表示の結論はまとまらなかったはずでした。一方で新法の目的については、検討会で長い時間をかけて議論してきましたが、加工食品の原料原産地表示とリンクして検討した経緯はありません。なぜ、このような表現になってしまったのでしょうか。
 24日の意見交換において、私はその点について指摘し、報告書の主旨を踏まえた立法作業を進めてもらうよう求めました。しかし、11月1日に公表された「新食品表示制度のポイント」では、「拡大」の文字は残ったままですし、実際にどんな条文になるのかわかりません。


●新法の目的、安全性確保はちゃんと盛り込まれたか?

 新法の目的には、もう一点不透明な点がありました。安全性にかんする記述です。24日の説明資料においては「消費者の適切な商品選択の機会の確保に資する表示に拡大」の一文しかなく、報告書の主旨である「食品の安全性確保に係る情報が消費者に確実に提供されることを最優先とし(以下略)」が抜けています。安全性確保は、どこにいってしまったのでしょうか。24日の意見交換の場で、日本生活協同組合連合会の山内明子さんとともに、私もその点を指摘しました。

 当日の事務局説明は「ここでは改正点を書いているが、報告書のとおり、食品安全確保の情報は引き続き盛り込む」ということでした。そして、1日に発表したリリースには「食品の安全性確保及び消費者の適切な商品選択の機会の確保に資する表示に拡大」という表現が変わっており、安全性確保の文字がきちんと盛り込まれていました。これでひとまず安心ですが、最優先という部分は抜け落ちたままであり、報告書の主旨がどこまで取り込まれるのかは不明です。

●是正措置や執行体制が強化

 他にも気になる点があります。検討会では何度も問題提起されながら、検討の範囲外だからと議論が封じられてきた監視・執行体制に関わる部分です。報告書では、この点について触れられていませんが、今回明らかになった新法のイメージには、是正措置、執行体制、申し出制度など取り締まりに関わる部分がしっかりと盛り込まれています。

 1点目は是正措置の拡充について。現行JAS法と健康増進法では不適切な表示があった場合、指示、勧告となり、それに従わなければ命令となります。食品衛生法ではそのような是正措置がなく、罰則のほか、営業停止命令等を発出できるとされています(実際には表示違反でそこまでいくケースはほとんどなく指導が中心となります)。これをJAS法にそろえて、全ての不適正表示に是正措置がとれるよう「行政措置の対象範囲を拡充」して、新法の法案化を進めるということです。これによって、食品添加物の表示違反なども、JAS法違反のように勧告や指導が行われるようになるのでしょうか。

 2点目は調査権限規定の整備について。現行の食品衛生法では、立入検査の際に帳簿書類などの提出を求めたり、臨検検査や製品を収去したりできる強い権限があります。しかし、現行JAS法ではそこまでの権限はありません。そこで新法では、JAS法でも帳簿書類の提出命令等の調査権限が使えるよう、拡充されるようです。私見ですが、食品の産地偽装などの違反を摘発してきた全国の食品Gメンの権限が強化されるのでは、と思われます。

 3点目は申出制度の拡大について。この制度は、JAS法のみで定められているもので、一般消費者の利益が害される場合、内閣総理大臣等に対して適切な措置を取るべきことを求めることができるというものです。JAS法では、かつて産地偽装の問題で適用されたことはあるものの、ほとんど知られていない制度です。一元化にあたってこの制度を表示全体に拡げていくことになります。


●新法について、もっと説明を!

 以上3点ともに共通しているのは、現行法を一番厳しい法令にあわせて執行体制を統一することでしょう。今後の取り締まりや是正措置が厳しくなるかどうかは運用次第ですが、十分な周知を行わなければ、監視・執行の現場が混乱するのは必至です。
 また、消費者側、事業者側の影響も大きいかもしれません。取り締まりが強化され、軽微な違反が増加し公表されていくことで、無用な自主回収が増えたり、逆に重要な回収情報が埋もれてしまったりして、消費者の不信感が高まることも予想されます。
 新法は早ければ来年6月に公布され、1~2年後には施行となります。先日、ある県の消費生活センターで食品表示の話をしましたが、「そんな大事なことが再来年にも施行されるなんて、県の農政事務所や保健福祉課、保健所の連携が取れていない中で、準備が間に合いませんよ」と、悲鳴のような声が聞かれました。消費者庁は新法について、監視・執行を担う行政担当者、消費者、事業者などに広く情報公開を行ってほしいと思います。
 そう思っていた矢先に、今回のパブリックコメントの募集と意見交換会の開催の案内です。たくさんの関係者を巻き込みながら周知が進み、新法がソフトランディングされることを願っています。(森田満樹)

執筆者

森田 満樹

九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。