九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
● 農作物、水産物などについて農学者が解説
6月1日、東京大学弥生講堂一条ホールにて開催された。当日の参加者は定員300名を超え、別室でモニター画面による中継が行われたほどの人気だった。
プログラムは、(1)農地、農作物の放射線汚染をどうみるか(元・農業環境技術研究所 放射性同位元素研究長 結田康一氏) (2)水産物の放射能汚染をどうみるか(元・中央水産研究所 海洋放射能研究室長 吉田勝彦氏)(3)水と土と緑をどう甦らせるか(東京大学農学生命科学研究科教授 宮崎 毅氏)(4)メディアはどう報道しているか(信濃毎日新聞社 代表取締役副社長 猪股征一氏)。
当日の講演に使われたスライドは、農学会のウェブサイトで公開されている。また、講演の模様は、Ustreamで視聴できる。
●新聞社副社長が報道の課題を講演
(1)結田氏は、農環研の環境放射能モニタリング研究の長年の成果の中から、土壌および農作物の放射能汚染を中心に説明を行った。研究の一つとして、ヨウ素工場の排気筒から大気中に放出されるヨウ素(放射性ヨウ素ではない)をトレーサとして用いた長期間追跡を紹介し、ヨウ素が土表面にどの状態で落下し、土質によって吸着率がどう異なるか、水稲を育てた場合に茎葉、玄米、白米のヨウ素濃度はどうなるか等のデータを紹介した。
(2)吉田氏は、水産物の放射能汚染について、魚の放射性物質濃度は海水中濃度に依存することから、海水のモニタリングの広域化が今後、重要になり、海水の汚染を把握することで海洋生物がどのくらい汚染されているか調べねばならないと言及した。
また、食物連鎖を通じて放射性物質は蓄積していくのではないか、という点について消費者の心配は集中しているが、放射性物質は、水銀や有機塩素系化合物と異なり、食物連鎖を通して、魚体内で蓄積を続けるわけではないと述べた。さらに放射性物質が海底に蓄積して悪影響を及ぼすのではないか、という消費者の不安について、放射性セシウムは海底土に強く吸着しており、魚に対して大きな影響を与えないとする研究を紹介した。
(3)宮崎氏は、被災地における水、土、緑の現状が抱える問題点を整理したうえで、降雨量の多い日本では自然の浄化作用が期待できること、放射性セシウムは土で吸着されることから地下水の汚染は深刻にならないことなどに触れ、俯瞰的に捉えることの重要性を説いた。
(4)猪股氏は、今回の大震災について、取材対象が多いのにもかかわらず、記者が現場に行けないという困難にぶつかったことを説明し震災報道が適正に行われたか、今後の検証が必要だとの認識を示した。また、メルトダウンや海水注入など、後から事実がわかるような問題が相次ぎ、記者に専門知識が不足していたことを省みた。(文責 森田満樹)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。