九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
2009年9月から、消費者委員会の委員としてご活躍された日和佐信子さんに、消費者委員会のこと、最近の食をめぐる問題などについて、FOOCOM・森田満樹がお聞きしました。
〇消費者委員会の最後の半年は、国民生活センターの問題で大もめに
森田)消費者庁・消費者委員会が、国民主体の安全・安心社会の実現に向けて発足してから、2年がたちました。これまでを振り返って、いかがでしたでしょうか。
日和佐)消費者委員会はこの2年間、建議、提言・意見の表明を行い、そのフォローアップもきめ細かに行ってきました。完全とはいえないまでも、今日的な消費者問題は全て取り上げてきたと思います。また、部会や調査会を設置して、審議を重ねるといった審議会の機能も果たしてきました。少ない人員の事務局体制の中で、大きな調査も行いました。
その一方で、消費者委員会の役割については、大きな矛盾と疑問を感じています。監視機能と審議会機能を両方持っていることによる矛盾、さらには「政治主導」に疑問を感じながら、悩まされることになりました。特に、消費者委員会の役割の一つである審議会機能については、実質的な事務局を消費者庁が担うことが多かったこともあって、消費者庁と消費者委員会の位置づけがだんだんおかしくなってきました。
どうも消費者庁は「消費者庁の消費者委員会」とみているのではないか、そういった感が強まったように思います。この2年を振り返って、それなりにやれたという充足感がないわけでもないのですが、むしろなんともやりきれない、道理が通らないときに感じる徒労感の方が大きく残っています。
森田)消費者委員会は発足当初から、その権限を確保するために、わざわざ消費者庁とは独立させて内閣府の外に出したのではなかったのですか。
日和佐)しかし現実は違っていました。そのことが明らかになったのは、国民生活センターの在り方をめぐる議論の時でした。任期の最後の半年あまりは、この問題に振り回されました。あそこであんなにもめなかったら、もう少し落ち着いた議論ができたのではないか。委員長も仰っていましたけど、この問題で無駄な労力を使わざるを得なかったのです。
森田)国民生活センターを消費者庁に統合するという一元化の問題が、昨年から今年にかけて大きな議論となりました。一般の消費者にとっては、この問題はわかりにくかったように思います。国民生活センターは40年以上前から商品テストで様々な危害から消費者を守り、全国から集まる消費者被害の相談、情報の分析とともに「こんな手口の悪質事業者がいるので注意するように」という広報事業も行ってきました。震災後の悪質商法も早い時期から注意喚起を行っています。重要な役割を果たしてきたと思いますが、その一方で行政機関のスリム化も求められており、独立行政法人の見直しの対象にもなってしまいました。それで事業が見直しをされるのかと思ったら、今度は消費者庁に統合されるという話がでてきました。消費者団体はこぞって反対し、消費者委員会も待ったをかけました。そもそもどういう経緯だったのか、教えてください。
日和佐)国民生活センターをめぐっては、消費者庁が昨年末にいきなり「国民生活センターの在り方の見直しに係るタスクフォース」を消費者庁と国民生活センターの当事者間で立ち上げました。これに消費者委員会も参加したいと要望したのですが叶わず、傍聴が認められただけでした。
消費者委員会は一元化に批判的でしたから、私たちに対する消費者庁の圧力は、日増しに強くなっていきました。タスクフォースの中間報告の時点では、消費者委員会事務局長が、消費者庁長官宛てに「消費者委員会に確認します」という文書を作成させられる、ということも起こりました。この一文の持つ意味は、消費者委員会事務局が消費者委員会をちゃんと説得して「消費者庁がまとめた意見のとおりでよろしい」とします、ということです。後から内情がわかりましたが、こういう進め方そのものに問題があります。
また、消費者委員会事務局の担当者が、消費者担当大臣から関連会議への足止めを食らうという事態も起きました。国民生活センターの議論の時は出て行ってはいけないと言われた、というのです。そんな話は無いでしょうと。消費者委員会はこのことを正式な委員会で取り上げ、「事務局が足止めというのはどういうことだ」と一人の委員が皆の意見を代弁しました。このようなことが、この世の中で行われている、そのことの異常さを感じないではいられませんでした。
結局、消費者委員会の意見は、タスクフォースではほとんど無視されました。しかし8月末に「一元化をすべし」という取りまとめが行われた後、政務三役によってこの取りまとめは結局棚上げになりました。最後に正常な判断がなされたことは救いでした。
〇一元化されると国民生活センターのこれまでの役割は果たせなくなる
森田)そこまでして、国民生活センターと消費者庁を一元化したかったのはなぜでしょうか。一元化によって、国民生活センターの実績が消費者庁に移り、消費者行政の効率化が進むようにも思います。
日和佐)この問題は、2010年4月の民主党の事業仕分けで「国民生活センターの事業を見直すべき」とされたところから始まりました。国民生活センターの事業領域の中で、いくつかの領域は民間にまかせよう、という話になったのです。そこでタスクフォースが立ち上がりました。そのタスクフォースで、国民生活センターの理事長の主張は、様々な事業が連携しながら今の国民生活センターの形が成り立っており、不必要な領域だからといって、民間へと分解してしまうと今後の事業を継続していくことは難しい、というものでした。
タスクフォースで話し合いがされる中でどんどんかわっていって、いつの間にか国民生活センターの事業や機能を全部、消費者庁に持って来よう、という話になったのです。これはおかしい。国民生活センターのこれまでの役割を果たせなくなります。
消費者庁は「一元化になっても国民生活センターの独立性は担保できるように、消費者被害については早く情報発信できるようにします」と説明しています。しかし、その担保はない。行政機関(法執行機関)と独立行政法人という、全然異なる組織が行政機関に一元化された場合に、国民生活センターが法律を無視してバンバン情報を出すわけにはいきません。現実的にやっていけるのか。やるのなら、消費者庁の設置法の中身を変えなければいけない。法的な担保がなければできない、と私たちは主張したのです。しかし、その法的な担保について、まともな議論が行われることはありませんでした。
森田)消費者委員会の中でも、議論が行われていましたよね。タスクフォースが2011年5月にとりまとめた「中間整理」を受けて、6月には消費者委員会としての意見をまとめておられます。
日和佐)消費者保護を担ってきた国民生活センターが行政機関に取り込まれると、消費者被害の解決が柔軟にできなくなるのではないかという問題が出てきます。消費者委員会の議論の中で、私は「行政処分権限を持つ消費者庁と、行政サービスを担う独立行政法人の組織は根本的に違う」と述べました。いくら国民生活センターが情報発信のノウハウを積んでいるからといっても、消費者庁に持ってきたら基盤が違うので、同じ能力を発揮できるかどうかは全く疑問だと思います。
これまで国民生活センターは個別の被害から消費者を救済するために、法律を広く解釈して、事業者との交渉のアドバイスをしてきました。しかし行政機関ともなれば、厳格な法解釈と慎重な対応が求められます。判断が遅れて素早い注意喚起ができなくなるのではないかという懸念もあります。統合することによって様々な問題がでてくるので、十分な議論が必要だと思いました。ただ反対しているのではなく、やるのであれば法的な担保がなければできない、十分な検討が行われるようにと、私たちは中間整理について意見をまとめたのです。
森田)結局、タスクフォースの最終とりまとめでは一元化される方向でまとまりましたが、さらなる議論が必要として「国民生活センターの在り方の見直しに関する検証会議」が現在行われています。何ともややこしい事態になっています。なぜでしょうか。
日和佐)そこには政治主導の問題があると思います。国民生活センターについては蓮舫さんがこれまでは仕分けで「いらない」と仰っていたわけですから、消費者担当大臣になってそれを貫くということもあった。そこで、消費者庁の政策にバックアップしてくれるのが消費者委員会、という認識だったのに、消費者委員が反対したので、これは許しておけないということになったのでしょう。タスクフォースの最終とりまとめに消費者委員会の意見は反映されませんでした。その後すぐに大臣の交代があって、結果としては「消費者委員会も含めて消費者庁、国民生活センター3者の在り方を検討するべき」とした消費者委員会の意見が取り入れられて現在「検証会議」が行われていることにつながるのです。(続く)
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。