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多幸之介が斬る食の問題

消費期限、賞味期限問題に対する一つの提言

長村 洋一

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 私はあるスパーマーケットの食肉売り場でアルバイトをしていました。私の仕事は朝早く行って前の日の売れ残りのパック包装を解く仕事でした。パックの包装が解かれると、今度はその売り場担当の責任者がその肉の匂いを嗅いで仕分けをしました。そして、分けられたパックにはレベルに応じて新たな消費期限が打たれて販売されていました……。

 これは、ある学生のレポートに記載されていたことで、実際のレポートにはその店の名前とともに、何時それが行われたかが具体的に記載されている。私は前任の大学も含めて1975年から食品衛生学の講義を現在まで担当している。その間、毎年学生に「私の考える食品衛生学的問題」というテーマで飲食店や食品売り場、食品工場などのアルバイトの経験に基づいた食品衛生上の問題を論じなさいというレポートの提出をさせた。約30年間にわたって教えた3500人あまりのアルバイト学生が見ていた食に関する問題提起は、現在の食品問題を十分に予測させてくれるものである。

 学生に課したレポートは、彼らの作文による空想を避けるため「何時、何処の店で、何を、誰が、どのように」ということを具体的に書いてないものは採点の対象外とする旨宣告していた。そして、その課題は4月最初の講義の時に課して、レポートを集めたのは講義が終了し、定期試験の採点が終了する9月下旬であった。従って、彼らは私の講義を聞いて食品衛生上の問題意識をかなりしっかり有して書いている。多くのレポートは店の名前と期日を明記した上でかなり詳細に問題点が記載されている。中には、同じ店について複数の、しかも学年が異なる学生から出されている同じような内容の問題がいくつかあり、そうした報告はかなり信憑性が高いと感じている。

 幸か不幸かレポートを書いた学生に赤福や吉兆でアルバイトをやった学生はいなかったが、スーパーの惣菜売り場、ホテルや飲食店の舞台裏、食品メーカーの舞台裏など学生の出身地にあるスーパーから彼らの地元の小さな食料品店、飲食店、食品工場まで実に多くの食品業界で行われている多彩な問題点がかなり明確に浮き彫りになっている。その数多いレポートからは消費期限、賞味期限の改ざんはかなり日常的にあちらこちらで行われている(た?)ことが伺える。そしてそこに共通しているのは「いづれも食中毒事件に直結したものはなかった」という事実である。

 ところで、今一連の食品に関するスキャンダルの問題で、多くの識者が戸惑いを感じているのは法令を遵守せず「嘘をついていた」という事実を許せないとする一方で、それにもかかわらず「食中毒が発生しなかった」という事実をどう受け止めるかという点である。学生のレポートの消費期限、賞味期限改ざん問題に関する結論はやがて食中毒が発生するから、直ちにこんなことはやめるべきだと結ばれているものが多いが、中には賞味期限のあり方に関することを論じているものもある。

 最近発覚している消費期限、賞味期限切れの問題で考慮しなければならない大きな問題は、これをきっちり守ろうとするときに生じてくるのはどうしても“まだ食べられる物”を捨てなければいけないという点である。学生のレポートを読みながらこの問題を考えている時、良く思い出したのはドイツの食品のいくつかに記載されている賞味期限の表示であった。

 私は約30年前に3年余りドイツに留学をしていた。その頃ドイツの食品は既に製造年月日ではなく、賞味期限表示が行われていた。しかし、多くの食品に共通して表示されているのは“Mindestens Haltbar bis 年月日”という文字であった。すなわち、Haltbarは賞味期限で、Mindestensとは時間に関しては最低何時まで持ちますよという言い方であった。

 これを思い出して、早速今のドイツがどうなっているかを調べてみた。たまたま、今年の夏ドイツに滞在したときDuesseldorfの友人からもらったチョコレートで美しい彫刻のような素晴らしいお土産なので、食べるのがもったいなくて冷蔵庫に保管してあったのを調べた。その彫刻のチョコレートには “Mindestens Haltbar bis 11 01 07”と記載されていた。すなわちこのチョコレートの賞味期限は最低限2007年10月11日までであった。私はこの賞味期限をとっくに過ぎてはいても冷蔵庫に保管していて何ら変化の認められないチョコレートの隅を削って少しだけかじってみた。味にも香りにも全く問題がなかった。

 このようにして味見したチョコレートであるが、ここに1つの大きな精神的な問題が内在している。それは、記載されているのが単に賞味期限2007年10月11日ではなく、“最低限10月11日まで保証します”という表示である。この記載には保管責任者である私が冷蔵庫に置いてあったから少しぐらい期限を越えていても大丈夫だろうという考えを容易に支持してくれる要素がある。そして、事実この記載には「あなたの保管方法によってはもっと持ちますよ」という製造業者の言外の意味が込められている。

 そこで私はとりあえず日本の食品の期限もこのような書き方をいくつかの食品に行ってみたらどうであろうかと提言したい。消費期限、賞味期限の切れた食品の取り扱いに関する現代の保管技術にあった法律的な整備はじっくりと考えて行う必要性があることは多くの識者の考えるところである。

 しかし、その法的整備が整えられる間にも多くの食品が単に期限が過ぎてしまったということのみで消費者によって確かめられずに廃棄されてしまう。しかし、「最低限何時まで大丈夫です」という言い方によって捨てられなくなる食品は増加するのではないかとささやかな自分の体験から提言する次第である。(千葉科学大学危機管理学部教授 長村洋一)