科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

多幸之介が斬る食の問題

自給率40%の国の許される行為か

長村 洋一

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 前回書いた記事「ゼロリスクを求めて失うもの」に対して、調理師専門学校で教育に携わっている先生から次のようなコメントをいただいた。生徒の中に全国チェーンの大手コンビニエンスストアでアルバイトをしている者が、月を重ねるごとに、ぷくぷくと太ってきたので話を聞いたところ、そのコンビニでは総菜や弁当の廃棄が多く、本当は食べてはいけないが、学生だというのともったいないとの理由から、店長が目をつむってくれる。そこで、それらをつまみ食い的に沢山食べている結果、このように太ってしまったとのことであった。

 このコンビにでは、最近無添加に力を入れ、消費者ウケを狙っているので、賞味期限の時間が短く、売れないときはものすごい量の廃棄物がでるとのことであった。

 こうしたコンビニの総菜や弁当は、独自のアルファベットと数字を混ぜたある記号が付けてある。シールに記載されている賞味期限の時間と、この暗号の数字は異なっており、優先されるのはその暗号の数字である。その数字は表記されている消費期限の約2時間前になっているようであるが、その数字が示す時間を過ぎると、総菜や弁当は、売れ残りと判断され、廃棄される。こうしたコンビニでは、現在この廃棄のロスをどのように減らすかが大きな課題となっているようでもある。

 私は今年3月まで、数年間にわたり名古屋市の「ごみ非常事態宣言」を受けて組織された生ごみ資源化検討委員として、ごみ処理問題について種々の観点から生ゴミの問題に取り組んだ。この委員会では資源化が大きなテーマではあったが、生ゴミ減量のためにはその出発点に位置する発生源の抑制も、いつも検討課題として上がっていた。発生源抑制をどのようにしたら良いかという問題のときに、まだ食べられるものが相当廃棄されている現状が良く議論された。

 まだ食べられる食品の廃棄の原因は、1つは贅沢による食べ残し問題であったが、同時に必ず取り上げられたのが消費期限、賞味期限の問題であった。1996年以前は、食品には製造年月日のみが記載されていた。そのため可食か否かは、販売者や消費者自身が判断をしていたが、この法律の施行後は表記されている数字が絶対的な意味を有するようになってきた。

 現在、食品に由来する廃棄物は年間約2000万トンであり、そのうちの半分が製造流通段階で、残りの半分、すなわち約1000万トンが家庭から出ている。この2000万トンうち、流通過程での売れ残りや、家庭での調理くず、食べ残しなどとして処理される、いわゆる一般廃棄物となる食品が1600万トンである。この過程における廃棄期限の延長ができれば、ゴミとして処理される食品の量を大きく減少させることは極めて明白である。

 現在の世界の食糧事情をみると、まず、毎日3万人前後の人が飢えて死んでおり、世界人口の3分の1の人は飢餓に苦しみ、3分の1の人がやっと食事にありつけ、残りの3分の1の人が食べても太らないことを考えているのが現状である。もちろん、日本は最後の3分の1に属している。

 一方において、60年には約90%近くあった日本の食糧自給率は、近年40%にまで落ちてきている。しかも、40%というのはカロリーベースであって、穀物自給率に至っては30%を切っている。こうした現状の中で、お金があるからといって、食品のこんな消費の仕方が人間として許されないというのが私の基本的な考えである。

 少なくとも無害な方法で消費期限や賞味期限を伸ばすのには、食品製造工程そのものの工夫もさることながら、食品添加物に関する一般市民の正しい理解が必要である。そして、量さえ正しく使用されれば、多くの食品添加物は限りないゼロリスクの中で絶大な威力を発揮する。

 しかし、量を含めての安全性に関する認識は、化学的要素を強く含んだ科学的思考力がどうしても要求される。私は今、そうした素養を持って安全な食品添加物の使用ができる専門家と、量を無視してやたらと危険性を煽る扇動家の言葉に踊らない賢い消費者を作ることに、少しでも寄与できればと考え実行している。(千葉科学大学危機管理学部教授 長村洋一)