科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

多幸之介が斬る食の問題

今度こそ改革なるか、健康食品に関する新しい動き

長村 洋一

キーワード:

 昨年7月4日付けで厚生労働省から「“健康食品”の安全性確保に関する検討会報告書」が出された。その報告を受けた形で、昨年秋から急速に健康食品の分野にいろいろな動きが発生し始めてきている。

 この報告書は (1)製造段階における安全性の確保、(2)健康被害情報の収集および処理体制の強化、(3)消費者に対する普及啓発 の大きく3つの部分からなっている。

 まず、(1)製造段階における安全性の確保の具体的方策として(a)原材料の安全性の確保(文献検索を実施、食経験が不十分なときは毒性試験を実施)、(b)製造工程管理(GMP)による安全性の確保(全工程における製造管理・品質管理)、(c)上記の実効性の確保(第三者認証制度の導入)、によって行うことを提案している。

 次に(2)健康被害情報の収集および処理体制の強化は、因果関係が明確でない場合なども含め、より積極的に情報を収集し、医師などを対象に「健康食品」の現状や過去の健康被害事例などについて情報提供するシステム構築をさせることとした。さらに(3)消費者に対する普及啓発は、(a)製造事業者による適切な摂取目安量や注意喚起表示、(b)アドバイザリースタッフの養成課程や活動のあり方について一定の水準を確保するという具体的提案が行われている。

 さて、健康食品の問題を論ずるとき、いつも問題になるのは“健康食品”とは何かという定義の問題である。この報告書では新たな定義としては述べていないが、“健康食品”の法律上の定義はなく、広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を指していると考えられる、と定義の形を取っている。ところで、肉、魚、野菜、コメといった一般的な食品は、ある意味で健康食品よりももっと本質的な部分で、広く健康の保持増進に資するから、この健康食品の定義は食品そのものを定義しているのと変わらない。

 実は、ここに健康食品が食品の中でどう扱われるか、というときに大きな問題点となる部分が横たわっている。すなわち、古くから「医食同源」と言った言葉にあるように食品と医薬品には本質的に線が引けない部分がある。しかし、そこに線を引いてしまったのが、この問題を論ずる時に絶えず出てくる1967年に出された「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(昭和46年6月1日薬発第476号 厚生省薬務局長通知) と言ういわゆる46通知なる法的拘束である。この通知はよくく天下の悪法のように攻撃されているが、この通知が、消費者を奇妙な健康食品から守ろうとしているのは明確である。すなわち、その通知の中では健康食品の大きな問題点を次のように書いている。

 健康食品は「食品」の名目で製造販売されているため、
1.万病に、あるいは、特定疾病に効果があるかのごとく表示広告されることにより、これを信じて服用する一般消費者に、正しい医療を受ける機会を失わせ、疾病を悪化させるなど、保健衛生上の危害を生じさせる。
2.不良品および偽薬品が製造販売される。
3.一般人の間に存在する医薬品および食品に対する概念を崩壊させ、医薬品の正しい使用が損われ、ひいては、医薬品に対する不信感を生じさせる。
4.高貴な成分を配合しているかのごとく、あるいは特殊な方法により製造したかのごとく表示広告して、高価な価格を設定し、一般消費者に不当な経済的負担を負わせる、
などの弊害をもたらす恐れのある事例がみられている。

 これらは現在でも健康食品で発生し続けている大きな問題で、消費者はとんでもない商品を健康に有効であると信じて、あるいは騙されて購入し、甚大な健康被害や経済的被害に遭っているケースが少なからずある。ではなぜこの法律が問題となるかと言えば、実は先に述べたように食品と医薬品には明確な線引きができない部分がある点にある。薬事法では医薬品の定義の中に「人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物」と言う一項があるが、食品の中には明らかに疾病の治療や予防に有用な物が非常にたくさんある。そこで、46通知では医薬品として扱った方が良いものに関しては食薬区分の別表の形で分類をしている。

 食薬区分において医薬品に分類されたものはそれなりに扱われるので問題がないが、医薬品として分類されない食品あるいはその成分の中に、摂取の方法により疾病に対する予防効果、時には治療効果の期待できるようなものが数多く存在する。そして、それら医薬品に分類されない食品で摂取により何らかの健康に対する寄与が予測されるものが、いわゆる健康食品として実際に市販されている。しかし、これが玉石混交であり、46通知で問題とされているような問題食品から医療関係者のしっかりした論文があり安全性試験もそれなりに行われている食品もある。

 有効性、安全性が確かめられた食品については特定保健用食品(トクホ)としての許可の申請が可能である。トクホとして認可されている食品は、今月の22日に発表されたものまで含めて829品目が世の中に出ている。最近はメタボ対策に有効なことを期待させるものなど、多くのトクホ製品がメディアなどで宣伝され、いわゆる健康食品の売り上げが落ちている中で特定保健用食品のみは販売実績も実際伸びている。したがって、有効性や安全性が確認されたものについてはすべて特定保健用食品として扱えば良いという考え方があるが、ここにも非常に多くの問題が内在してる。トクホとしての認可を取るのは大変であり、採算が取れそうもないとうことがある一方、それなりに古くから安全性と有効性が経験的に語られている食品が存在し、実際に市販もされている。

 昨年の報告書に基づいて起こり始めた今回の健康食品に関する新しい動きは、こうしたトクホにはならない、またはそこまでしなくてもよい健康食品を、薬事法や46通知を踏まえた上でどのようにして安全に消費者に提供するかを考えている。そして、先述の報告書に挙げられた大きな3つの提言の具体的な実行を図ることで問題解決へ向けた対策が講じられようとしている。

 日本健康・栄養食品協会は、3つの問題の中で第1番目に拳がっている項目、製造段階における安全性の確保を実行すべく、今年4月から第三者認証機関を立ち上げるため具体的に準備を着々と進めており、厚生労働省もこの動きをかなり積極的に支援している。したがって、何らかの形で今年の4月から第三者認証機関がスタートすることが予測される。そして、この認証機関によって認証されたマークを付けたいわゆる健康食品が近いうちに出てくることになる。これは、1つの新しい動きではあるが、日本健康・栄養食品協会は今までにも独自のJHFAマークを出しており、これの単なる焼き直しではないかとの批判の声も既に上がっている。

 いずれにしても昨年の報告書に書かれた3つの提言のうちの1つは具体的に実行に移され始めている。残りの2つの事項は私が主催している健康食品管理士認定協会と極めて密接な関係の問題であり、我々もこの提言を受けた形での活動を開始している。これらを含めて健康食品の新しい動きの問題を機会を見て、論じさせていただく予定である。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)