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多幸之介が斬る食の問題

いわゆる健康食品の安全性認証は本当に可能か

長村 洋一

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 昨年7月4日付けで、厚生労働省から「健康食品」の安全性確保に関する検討会報告書についてが出された。このことに関しては、本年早々のこの欄にも書かせていただいた。その記事を書かせて頂いた頃には、本年の4月過ぎには安全性認証に関する第3者認証機関が発足すると予測される話が聞こえていた。しかし、そのスタートは大幅に遅れており、最近では来春2月頃には発足するという話が流れている。

 この安全性に関する第三者認証機関とは、製造段階における安全性の確保の具体的方策として(a)原材料の安全性の確保(文献検索を実施、食経験が不十分なときは毒性試験を実施)、(b)製造工程管理(GMP)による安全性の確保(全工程における製造管理・品質管理)の2項目の実効性の確保ができているか否かを認証する機関である。そして、この機関によって実効性が認証された健康食品にその認証マークを付与し消費者に安全性が認証されたことを知らせるというものである。

 現在のところ、日本健康・栄養食品協会のみが具体的な認証作業を始めようとして種々作業を行っているが、その会議が紆余曲折し現在に至っている。その大きな原因は安全性の認証の困難さにある。このように戸惑っている間に消費者庁が発足し、特定保健用食品(トクホ)の関係はすべて消費者庁に移管した。そして、消費者庁が発足間もなくしてエコナの問題が発生し、その対応をしている途中で花王がトクホを取り下げてしまうことでこの問題は決着をみた。

 トクホは医薬品とは比較にならないが、それでも健康食品としては、一応安全性に関する臨床試験を終了していたものであった。さらに、エコナで発生した問題は、実験過程の捏造といった人為的な問題ではなく、考察を十分に行えば認可申請の頃において気付くことができたかもしれない問題であった。このことは同じような案件が持ち上がらないようにするのには許認可の審査において従来以上の注意が必要であることを改めて認識させられる問題であった。エコナに関するFoodScienceの記事としては、国立医薬品食品衛生研究所主任研究官の畝山智香子氏による「うねやま研究室」で、「エコナには効果も毒性もないというのが妥当な結論であろうと思います」という一つの結論が与えられた。

 ところで、今回第三者機関によって認証しようとしている健康食品は、トクホを除いたいわゆる健康食品といわれているものである。このいわゆる健康食品の中にはCoQ10やαリポ酸のようにかつて医薬品であったもの、にんにくやアロエと言った昔からの伝統的健康食品といわれているもの、そして近年その機能から健康食品の仲間入りをしてきたクロレラ、キトサンのようなもの、さらには化学合成品である有機ゲルマニウムのようなものなど、実に多種多様な健康食品が存在する。そして、文献検索を行ってみると、その効果については体験談レベルしかないもの、動物実験データが主であるもの、ある程度の臨床試験が行われたもの、などこれも種々雑多であり、はっきりしているのはほとんどのものについて明確な臨床的データはほとんどないことである。

 トクホも含めた健康食品市場において、トクホはその制度がスタートしてから今までに大きな健康被害はまだ一件も発生させていない。その一方で、いわゆる健康食品市場では数多くの健康被害が発生している。とくに2005年前後に中国から輸入されたダイエット茶によって死者まで発生した事件は記憶に新しい問題である。このダイエット茶の問題は、その中に未承認の医薬品が混入させられていた、ということであるので健康食品そのものによる被害と言うよりむしろ犯罪である。しかし、バイアグラを混入させたり、食欲抑制剤を加えたり、ステロイドを添加したりする同じような手口の違法健康食品も後を絶たない。

 ところが、こうした医薬品等を添加したケースではなく、純粋な健康食品そのものの摂取によって発生した健康障害も数多く報告されている。例えば、90年前後に米国でトリプトファンを睡眠導入のための健康食品として摂取した人達に好酸球増加筋痛症候群(EMS)という疾患が発生した。EMSは約6000人以上の人達に発症し、少なくとも38人の死者が出たと報告されている。この原因は発生してから間もなく含まれていた不純物である可能性が指摘され解決したかに見えたが、最近になり不純物ではなく多量のトリプトファンを摂取したことに起因することが明らかになってきた。

 こうした死者を出しているような健康食品の事例はウコン、アガリクス、有機ゲルマニウムと言ったような比較的日常的に広告を良く見かける健康食品でも発生報告がある。しかし、単発的に発生したこのような事例はメディアに取り上げられる機会が少ないために、一般市民にはこうした情報はほとんど伝わっていない。そして一般市民は、健康食品は食品だから安全だと勝手に解釈しているケースが多い。実際にある健康食品のCMにはそんな感情を裏付けるように「○○○は薬効のある食品であり、医薬品ではありませんから、医薬品と併用してもしなくても、○○○には副作用や習慣性はありません」と言ったことが書いてある。

 このように健康食品の被害事例は調べ始めるとそれなりに出てくる。そして、その健康被害が発生するまでの過程は多くの場合過剰摂取であったり、健康食品の品質の問題であったり、健康障害発生の初期状態に気付かなかったりしたことが事件を大きくしている。逆に言えば、健康食品を一般市民が安心して使用するのに必要なのは、健康食品の品質がしっかり確保されていることと、健康食品摂取に関する適切なアドバイスをする人がいることである。このアドバイスをするためのスタッフとしては、そのレベルに大きな差はあるものの、既に一万人を超える人々が民間で認定されて一部の方はそれなりに活躍している。

 ここで、話を原点に戻って安全性認証について考えてみる。原材料の安全性は、先述の報告書によればまず食経験の有無を調べ、それがなければ毒性試験を実施となっている。既に健康食品によって発生し報告されている健康被害が、前述のようにその摂取方法や、品質の問題であるときに、食経験のあるものがそれだけで安全性が保証されるのは極めて大きな危険性をはらんでいる。例えば国民生活センターのホームページにはいくつか食経験のある健康食品についての問題が提起されている。その問題点を調べると、量が著しく不足していたり、摂取しても消化管の中で崩壊し吸収される可能性がなかったりなど、品質の問題が大きく取り上げられている。

 以上のような状況から考えて、ある健康食品に今回提案されている基準に基づいて安全性の認証マークが例え出されたとしても、トクホレベルの臨床試験も安全性の試験も行われていないものに本当にどれだけ意味があるのだろうか。健康食品素材となっている多くの物質は、もともとそんなに強い毒性を有するものはほとんどない。そんな食品素材を摂取する上で、まず注意しなければならないのはまずその品質の問題ではなかろうか。例えば、ある健康食品に食経験が十分あってかなり安全と保証されても、その健康食品に含まれている素材の量に問題があったのでは、結局安全性の保証の意義がなくなってしまう。逆に言えば安全性の保証をするための最低限の保証として、まず品質保証が必要ではないかと考えている。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)