多幸之介が斬る食の問題
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
先日、伊藤ハムの水におけるシアンの問題に関してその中間報告がなされた。この報告があった直後、小生が主催している健康食品管理士認定協会の事務所の職員が「先生、北里大学の伊与先生が報告されたのですね」と言うので、なぜ彼女が伊与先生を知っているかと尋ねたところ、「伊与先生は健康食品管理士の試験を通信教育で受験されたのですが、とっても熱心だったので強く印象に残っているのです」と回答してくれた。この事務職員の言葉に小生のやっている仕事に心強さが与えられ、ひそかな嬉しさを感じていた矢先に、このFood Scienceの記事を本年9月まで松永和紀のアグリ話を連載しておられた松永和紀氏から小生にとって感激的なメールが送られてきた。
松永和紀氏の許可を得てその一部を紹介させていただく。
長村先生、加藤先生 伊藤ハムのシアン問題が発生して、いろいろと取材して女子栄養大学 出版部の月刊誌「栄養と料理」に書いたりブログに書いたりしています。
5日に調査対策委員会の中間報告の記者会見があり、私も取材に行きました。北里大の伊与先生が委員で、実に丁寧に分かりやすく説明されました。なかなか難しい内容だったと思うのですが、資料がよく考えられて作られており、先生は再現実験などを基に科学的に言えることと推論、科学的にはなんとも言えないこと、また今となっては追求のしようがない点などをきちんと分けて、ごまかすことなく説明されて、それは それは見事な会見でした。おそらく、資料、内容共に先生がお考えになったのでしょう。
後でご挨拶させていただいたところ、「うちの大学は健康食品管理士認定協会の認定校申請を検討中で、私も会員なんですよ」と言われびっくり。でも、 なるほど、とも思いました。長村先生、加藤先生がいつも仰っておられる真摯な科学者の情報発信、「リスクコミュニケーター」の確かな姿が、そこにはあったと思います。もちろん、伊与先生のお考えと独自の努力も大きいと思いますが、会の活動がこういうところできちんと実を結ぶのだなあ、と改めて気付かされました。私も会報に寄稿させていただいていますので、なんだかとても、嬉しくなりました。(引用終わり)
以上が松永和紀氏からのメールの一部であるが、彼女のような鋭く問題点を指摘される方からこのようなお褒めの言葉を賜ったということが、小生にとっては極めて感激する出来事である。ここで、小生と並列で名前が記載されている加藤先生とは小生の協会の副理事長で教育委員長をしておられる加藤亮二・香川県立保健医療大学教授のことである。
小生は伊与先生とは直接面識はなかったが、嬉しさに伊与先生にこのメールの件をお伝えしたところ、伊与先生から健康食品管理士の受験に際して、何回も通信教育の資料のDVDをご覧になり勉強されたこと、そしてその勉強が「私が今回NHKの取材を受けるときに最も役立った題材でありました。科学者・研究者、そして人間としての良心をどのようなことがあっても守るべきとの実例を勉強させていただきました。伊藤ハムさんの地下水問題では、縁がありまして、調査検討委員を務めさせていただいておりますが、健康食品管理士をいただく際の受験勉強や会報での情報、私にとりまして有益な情報として活用させていただいております」(メールからの引用)とのお返事をいただき、「科学的考察力のあるリスクコミュニケーター」の存在の重要性を改めて認識させられた。
ところで、松永和紀氏は彼女のブログ松永和紀氏は彼女のブログに最近相次いで、伊藤ハム問題について言及しておられるが、12月13日の項に引用しておきたい次の一文がある。
調査対策委員会の出している文書は、科学的に明確なことと、証拠を積み重ねて行う推論がきちんと区別して読めるように、非常に慎重な書きぶりだ。シアン基準超過の原因は科学的に断定されたことではなく、あくまでも推論であり、それに基づいて対策が講じられている。それ自体は妥当なことだ。
ところが、CMになると「委員会により水の安全性が確認されました」になってしまう。企業としてはインパクトのある“安全宣言”をしたいのだろうが、これは科学的に誠実か? 企業として誠実な態度か?
私は引っかかる。そんな単純な問題だったのか。もともと、製品からはシアンは検出されていないのだから、製品の安全性に問題はなかった。情報公開しながら淡々とテスト生産に進んでほしかった。
この手の安全宣言は、よくある。企業の儀式のように見えて、消費者をなめているように思えて、いつもがっかりする。伊藤ハムも、そんな企業だったのか?(引用終わり)
松永和紀氏は科学ジャーナリストとして、先般の事故米をはじめ、メディアによって騒がれた食品が相次いで自主回収、廃棄され、その一連の行動すべてがただ消費者の安全のためと言った一言に尽きて、まさに儀式のように行われ、それで解決したかのように流れていることが、本当に日本の食の安全を護る姿であるかという疑問を強く投げかけておられる。ここには科学的な安全性と法令順守という問題がしばしば引き起こす大きな矛盾、そしてメディアが行うただ基準値の何倍というデジタル的表現、そして企業トップの記者会見におけるリスクコミュニケーションの稚拙さなどが、消費者に対して漠然とした「不安感、不信感」を招くという大きな問題が根源に横たわっている。
今回の伊藤ハムの問題も、まさにこうした安全性と法令順守、そして企業の情報公開のあり方が絡み合った今日的問題であった。この観点から自主回収のあるべき姿を第三者として「これで良いのか?」と松永和紀氏は問題提起されようとした。しかし、「しかし」と松永和紀氏は躊躇せざるを得ない状況に直面された。それは、問題をおこした企業が、企業として言ってはならないことを、CMとして立派な中間報告を受けて行っている点である。
調査対策委員会は現在、さらに詳しく問題点を検討し対策をまとめた「最終報告書」を公表するべく、準備しているそうだ。伊藤ハムの問題は、科学的にしっかりした「調査報告書」の存在とその報告書を読み解いて正確な「安全情報」を伝えることのできる企業外の第三者リスクコミュニケーターの存在によって本当の解決ができる可能性を強く感じるとともに、そのリスクコミュニケーターとしての健康食品管理士が果たしえる食情報の管理者としての重要性を考えている。(鈴鹿医療科学大学保健衛生学部医療栄養学科教授 長村洋一)