目指せ!リスコミ道
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
「赤福」「御福」と、次々に明らかになる偽装表示問題。食品企業の不祥事にはすっかり慣れっこになったとはいえ、今回はその悪質さにおいて際立った事件のように思う。FoodScienceとは一見、関係なさそうな話だが、赤福は販路を拡大する過程で、冷凍技術や糖類加工品の利用など時代に応じた加工技術を導入している。問題は、せっかくの技術をネガティブに捉えて隠すことだ。辞任した会長は記者会見で「鮮度商品を広い範囲に拡大したことが誤り」と発言しているが、技術の進歩で広域流通できるようになった製品について説明もせず、あたかも鮮度商品のように騙して販売したことこそ誤りではないのか。
今年に入って食品企業の不祥事が相次いでいるが、その実態はどんどん悪質になり、消費者が求める食品メーカーの責務とはかけ離れていくように感じている。その一方でメディア報道量は、問題の深刻度とは必ずしも比例しないようで、あまり騒がれなくなってきた。これだけ続くとニュース性がないのか、それとも不二家問題の反省もあるのか、いずれにしても落ち着いた報道になっている。
それにしても赤福問題は、従来の違反事例でも類を見ないほどの悪質である。単なる製造年月日、消費期限の違反にとどまらず、原材料欄の順序もごまかし、使っている糖類加工品も表示していない。あれだけシンプルな表示欄でよくもそんなにたくさん嘘がつけますね、というくらいの偽装のオンパレードだ。
偽装の手口も巧妙で、売れ残りの商品を冷凍してその後「まき直し」と称して再包装した日を製造年月日として再出荷していたという。また、売れ残りの製品を冷凍せず、そのまま「まき直し」したケースもあるという。そこまで期限を延長させても食中毒患者は出ていないようだから、赤福はそもそも鮮度商品ではなく、日持ちする商品だったのだ。わざわざ目立つところに表示してある製造年月日を信じていたのに、あれは返品されたリパックされた商品の再包装年月日だったのだ。
もう十数年前の話であるが、かつて義務付けられていた製造年月日表示から期限表示へ移行する際、製造年月日とは何ぞやという議論になった。製造年月日は何を指すのかあいまいで、惣菜や和菓子などの一部の食品の製造年月日において、解凍年月日や包装年月日を製造年月日と表示する事例が報告され、あいまいな製造年月日よりもエンドポイントがはっきりとしている消費期限、賞味期限のほうが消費者にとって正確な情報を伝えられるだろうということになったのである。
また製造年月日の数字にこだわる消費者が、少しでも新しいものを買い求めるため、過度の鮮度志向を助長するという問題も指摘された。当時、製造年月日を採用しているのは日本と台湾だけで、国際的なハーモナイゼーションを重視する動きも手伝って、製造年月日は速やかに期限表示に移行した。新制度になって、しばらくは牛乳などに製造年月日表示が残っていたが、現在、一部の生協や商品などを除いて製造年月日表示はあまり見かけなくなった。
だからこそ、わざわざ任意表示である製造年月日表示をしているメーカーは、余程のコダワリと裏付けがあって、責任を持って表示をしているのだろうと信じていた。赤福のウリは、「製造したその日限りでの販売としています」とする鮮度感であり、新幹線のホームで夕方になると売り切れてしまうという希少価値感覚である。まさか、返品リパック商品にわざわざ任意表示である製造年月日を付け替えていたとは、誰も想像だにしないだろう。
返品リパックは許せない行為だが、科学的根拠を持たせた賞味期限表示にせめて統一して安全性だけは担保しておけば、少しは同情の余地があったかもしれない。今回の事例があまりにも悪質であったことから、JAS法違反だけでなく、食品衛生法違反で無期限の営業禁止になったのだ。
同社では「三つ売るより一つ残すな」という方針を社員に徹底していたという。あれだけ製品を絞り込んで少品種大量にもかかわらず、低い返品率はを誇っていたのは、さすがブランド力として業界では神話となっていた。そのからくりはが今回明らかになったわけだが、それを可能にしたのが、零下40度に急速冷凍、その後80度のスチームが出る解凍ラインである。
さらにトレハロースを含む糖類加工品の使用である。鮮度商品を広域流通させるためには、時代に応じて様々な日持ち延長技術を組み合わせるのは当然だ。ハイテクではないが、食品の安全を担保するために行われている様々な技術をポジティブに捉えて、期限表示を担保する科学的根拠を明確にして、堂々と販売すればよかったのではないか。
それにしても今回の問題は内部告発がきっかけというから、消費者はまき直しの製品の見かけや味の差異について、何も気付かなかったということか。言われてみれば、時々あんこが離水しかかっているような時があったわねと思い出すが、それは問題が起こってからそういえば、という類の話だ。それほどに鮮度が味に影響しないのだから、今後は鮮度食品としての販売戦略を見直したらどうだろうか。刺身ではないのだから、何も鮮度で勝負することもあるまい。
冷凍保存技術や食品添加物を用いて(因みに御福はソルビン酸カリウム使ってちゃんと表示している)シェルフライフを延長させて、賞味期限が保証されていれば海外にも安心して持っていける。成田のお土産ナンバーワンになるかもしれない。バンコクの伊勢丹で年に数回行われる全国銘菓フェアでお目にかかることができるかもしれないし……。
ところが、赤福の記者会見では「売り切れがしょっちゅう出るような、小さな赤福として再出発する」方針らしい。まだ営業禁止処分の最中なのに、再生の方向性をしっかり示唆している。嘘をついたのは許せないが、今後、販路を限定して希少価値をさらに高めようという考えは、赤福ファンとしてはもっと許せない。販売量を減らすことが信頼回復の最善の途だろうか。
二度と偽装ができないような仕組みづくりと記録を公開して、保存技術や消費期限、賞味期限の科学的根拠を明らかにして、堂々と流通させることも、1つの途ではないだろうか。赤福を求める消費者に確実に届けることこそ、食品企業の大切な責務だと思うのだが……。それとも食品企業以前の問題で、特産品企業の責務というものがあるのだろうか。地方銘菓のブランド企業として誰もが知っている食品企業だからこそ、情報公開を進めるなどの道筋を立てて、再開してほしいと願っている。(消費生活コンサルタント 森田満樹)