斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
12月13付けで内閣府が発表した消費者行政に関する世論調査の結果が新聞報道された。記事によれば消費者問題の関心分野(複数回答)として、「食中毒事故や食品添加物など食品の安全性」を挙げた人が88.8%と最も多く、次は「擬装表示など事業者による商品やサービスに関する偽りの情報」の70.9%だったという。食中毒事故や擬装表示などはしばしばというか、嫌になるほど報道されているから当然かなとも思う。しかし、何でまた「食品添加物」が挙がってきたのか—-。
調査は2008年10月に実施された「消費者行政の推進に関する世論調査」(内閣府大臣官房政府広報室)である。「消費者行政の推進に関する国民の意識を調査し,今後の施策の参考とする」目的で、全国の20歳以上の3000人を対象に、調査員による個別面聴取法で行われた。有効回答は1853人(61.8%)。回収率は、年齢別では男性は40代以上、女性は30代以上が、男女間では女性のほうがやや高いという結果である。
調査の質問は、消費者問題に対する現状認識を尋ねるもので、消費者問題に関心があると答えた人に、具体的に次のどの分野の消費者問題に関心があるかを聞いている。「その他」を入れて6つの質問項目がある。その最初の質問が(ア)食中毒事故や食品添加物の問題などの食品の安全性について(イ)製品の欠陥による事故(ウ)施設の瑕疵(かし)による事故(エ)偽装表示など商品やサービスに関する偽り情報(オ)強引な勧誘や悪質商法など——。そして(ア)には88.8%、(エ)には70.9%が関心があると答えた。
この結果が、冒頭の「『食中毒事故や食品添加物など食品の安全性』を挙げた人が88.8%と最も多く」という報道になったのだと理解できた。回答は選択肢から選ぶことになっているので、食中毒事故に不安を覚える人(最近はこれは多いだろう)は(ア)を選ぶだろう。結果として、付属的に食品添加物の食品の安全性について関心があるという表現となったのではないだろうか。新聞の文面では「ギョーザ事件など一連の食の安全問題や食品偽装問題への懸念の広がりをうかがわせる結果となった」と説明している。
もともと悪いイメージが先行しがちな食品添加物が食中毒事故と一緒に並べられると、「やっぱりね」という印象を強くされる人もいるだろう。何気ない質問であるが、意外な結果が出てくることを、私たちも気をつけねばと思わせてくれた記事であった。
もう1つ、11月4日の毎日新聞地方版で「禁止保存料使用:県、M製菓に回収命令—ようかん胡麻大納言」という食品添加物についての報道があった。保存料として一般的なソルビン酸を、あん類には一般的に使用できるが、ようかんには使用できないことを知らないで製造し、以前に販売した物も含め9500箱を自主回収するとのこと。正直なところ私も知らなかった。
ようかんとは、アズキを主体としたあんを寒天で固めた和菓子で、古来から広く食べられている。地方のお土産などにも多く、それらをインターネットの通信販売サイトで見ていると、「南蛮ようかん」という商品は保存料としてソルビン酸カリウムを使用しているとあった。ようかんにソルビン酸は使っていいのかと思って原材料を見ると、かんきつ類の果汁を使っている。ソルビン酸の使用基準を見ると対象食品として菓子の製造に用いる果実ペーストおよび果汁(濃縮果汁含む)は1.0g/kg以下となっている。だから「南蛮ようかん」には入っていても良いのか。やっと納得した。
食品というものの区別の難しさを知らされる事例だった。いずれにしてもおそらく一番使用されている保存料ソルビン酸の使用違反を、「禁止保存料使用・回収」と報道されると、一瞬ビビッてしまう。禁止という言葉は、世界各国どこでも有害性が証明されていて使用してはいけない添加物くらいにしておいてほしい。今回の場合、記事の内容を読んでみると、「なあんだソルビン酸か」という話になるのだが。
これも前の世論調査と同じであるが、禁止保存料という何気ない表現で、物質そのものがやっぱりいけないものなんだという先入観を植え付けてしまう事例だろうなと思った記事であった。自分も反省しなくては。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)