斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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10月23日神奈川県藤沢市は、20日市内の女性がカップヌードルを食べたところ、薬品臭がして嘔吐・舌の痺れを呈したという苦情が保健所に入り、検査したところ23日に防虫剤の主成分のパラジクロロベンゼンが検出されたと発表した。女性は9月中旬頃防虫剤を使って衣替えをしたが、当日は触っていないとのこと。日清食品は、工場でのパラジクロロベンゼンの混入は考えられないが、消費者の不安拡大防止のため、関東工場、同一賞味期限の製品50万個について自主回収すると発表した。また誰かのいたずらか、いやな世の中だなあと思っていたら、翌日24日に日清食品が会見し、「防虫剤と一緒に保管するとカップめんにパラジクロロベンゼンが移る」と発表し、今年4月以降の苦情の中で21件からパラジクロロベンゼンが検出されていたことを明らかにした。えー!そんなデータ持っているなら昨日発表してよという感じである。
23日の藤沢市の発表では、容器の外観の目視検査では穴などの異常は認められていない。症状は食べて5分後に嘔吐、さらに20分後に舌の発赤および痺れを呈した。医療機関は未受診で、現在は回復。当所職員4人で官能検査をしたところ、薬品臭が認められ、検査の結果パラジクロロベンゼンが検出。販売店に対して同一製造所、同一製造日の製品について販売自粛を指導したという。
この事件発表を受けて他でも調査をした結果、9月に横須賀市で即席カップめんで薬品臭の申し出があり、検査の結果パラジクロロベンゼンとナフタレンが検出された事例があった。日清食品の原因調査では、ロットも生産工場もまちまちで、苦情品のうち濃度が高いものは、18〜92ppmのパラジクロロベンゼンの混入が見られた。4月以降の苦情の増加の原因として、4月に従来の発泡スチロールの容器(以前環境ホルモンとしてスチレンモノマー、ダイマー、トリマーが問題になったことがあった)から紙とポリエチレンの3層構造のエコカップに変えてから増えており、容器の改良を進めるとのこと。日清食品では、パラジクロロベンゼンの臭気移行テストを行い、未開封の即席めんを防虫剤のそばに置くと、3時間でカップや袋を通過して臭い成分が移ることを確かめている。
1日目の報道で、スワ事件かと思ったが、2日目には防虫剤が容器を通過して中に移った可能性が高いとの報道。前から調査しているのだから、1日目の発表の段階で本来はその調査事実を公表するべきであっただろう。藤沢市の記者発表の内容を見ても、移り香の可能性のことは触れていない。藤沢警察に情報提供しており、この時点では明らかに情報としては伝えていないのではないか。
種々の苦情品を検査してパラジクロロベンゼンの濃度を測定し、臭気移行実験でも側に防虫剤を置いてあると明らかに移行することも情報として持っており、その原因として容器の材質変更が苦情増加の原因であるとの認識を持っている。ここまで分かっているのなら「購入後移り香」の強い商品と一緒に置かないでくださいといった注意喚起は事前にあってもいいことだろう。その後にこういった事件が起きていたら、もっと冷静にこの事件を誤解しないで聞くことが出来ただろう。
この後は私見になるが、パラジクロロベンゼンなどの防虫剤と食品のカップヌードルを通常一緒には保管しないだろう。それでもこういった事例が発生するのはなぜだろうか? それぞれの事例の家屋のレイアウトが分からないので断定は出来ないが、防虫剤を入れるタンスなどは前面側面はしっかりしているが裏面はかなり通気性は良い。食材を保管してある場所も構造的に前面や側面はしっかりしているが裏面はそうではない。たんすの裏側は当然濃度がかなり高くなる。それが壁沿いに移行して食材置き場まで達すれば、少しずつコップを通過して麺などに吸着するのではないだろうか。そのルートは床下を伝ってくるルートかもしれないが、そういった使用状況をシュミレーションしながら事実に迫る努力をしてほしい。こういった調査こそ結構面白いテーマの研究ではないだろうか。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)