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斎藤くんの残留農薬分析

ギョーザ事件報道でどれほど、場の雰囲気を伝えられるか

斎藤 勲

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 昨日(8月6日)の報道(FNN)で、「今年6月中国国内で回収されたギョーザを食べた中国人が中毒症状を起こし、体内からメタミドホスが検出されていたことが分かった。中国側も、この事実を7月の洞爺湖サミットでの日中首脳会談前に、日本側に伝えてきたという。中国国内での毒物混入がほぼ確定的となったことを受け、中国警察当局は、再捜査を本格化するとみられている」とのニュースが飛び込んできた。原因不明のこの事件の解決につながるような調査を期待したい。

 最近、情報過多というか不安を駆り立てるものが多い中、どのような方法で日常的に私たちの置かれている状況を適切に伝え、理解してもらい、共通の問題をどう解決していくべきなのか悩むことが多い。情報の1つとして、産経新聞中国総局記者福島香織さんの北京趣聞博客 (ぺきんこねたぶろぐ)という有名なブログがある。書かれた内容は「危ない中国点撃!」(産経新聞出版、2007・10)として出版もされている。女性記者らしい強い感性で中国の実情、背景が良く捉えられていて参考になる。最近は、チベット問題、四川大地震など現実的な部分が多いが、2月、3月はいわゆる冷凍ギョーザ事件の記事を改めてまとめて読んでみると、中国側の対応や共同会見での彼女の一味違う質問など参考になることが多い。

 彼女は中国駐在記者であり、中国語を喋りながら中国での生活に入り込んで暮らしている現場感覚が、生来の性格に加味して彼女らしい雰囲気をかもし出しているのだろう。新聞に採用される公式な記事内容と日常的にブログに書かれている雰囲気のギャップ(?)が、読む者を惹きつける。

 2007年パナマで風邪薬に偽グリセリン(ジエチレングリコール:日本ではワインスキャンダル事件で有名)が使われて、少なくとも100人余の方が亡くなった事件があった。その原因物質が、中国で製造され、スペインへTDグリセリンとして販売され、それがパナマに売られるときにはグリセリンになっていた。TDは代替品という意味だとは知っていたが、何の略名か分からなかったが、このブログで替代(ティダイ)=TDの意味だと知った。利口になった。こういったことがきちんと書いてあるのがあまりないので役に立つ。

 このブログで一番興味深いのは、向こうで行われている共同会見の描写である。各新聞社、TV局の記者たちが質問し、それに中国対応者や日本人調査班が応えている場面である。通常、TVや新聞報道では自局、自社の考え方を入れながら記者会見の要約は報道されるが、誰がどんな質問をしてどう答えたかは私たちは伺い知れないことが多い。それをこのブログは再現してくれているのである。(本当はこういった各社の質問内容が、「共同新聞」のようなものがあって、新聞紙面でも見れるといいのだが)

 それぞれの記者の質問には当然ながら記者の感性が現れている。通り一遍の質問しかしない記者もいれば、福島さんのように「工場の中で昼ご飯を食べるときはどうするか」「国慶節などの休みのときの給料はどうなっているのか」「トイレのときもそういう手順を踏むんですよね」「ゴム手袋で30秒消毒液に手をつけるそうですけど、少し前にCO・OPが提供した写真を見ると、ギョーザをつくっているときは手袋をしてなかったみたいなんですけど」など少し違う視点というか、実態に少しでも踏み込もうとする質問も多く、その結果会見記事から読み取れることも立体的になる。

 報道は紙面や時間の都合上簡潔にまとめられるのは仕方がないとは思うが、本当はギョーザ事件のような今でも原因が分からない事件は、出来るだけ現場現場での生の雰囲気を読み手が分かるような部分は再現してもらいたいし、相手の微妙な態度や誠意など通常の記事では表せない部分も読者は感じることが出来る。

 ギョーザ事件が報道されてからはや6カ月がたった。最近では食品の偽装が多く、「え!あの会社も」という事件もあるが、ミートホープ事件など製造者が意図的に行っていることは、内部告発でもないとなかなか分からないのが実情だろう。ただし、偽装された食品には安全衛生上は問題がないものが多い。だから偽装が発覚した場合、食べても安全ならば、回収するのではなく、買ってしまった人にはそのまま飲んだり食べてもらえば良い。

 後から商品に付いているラベルなどを郵送すると返金してもらえるような仕組みができたらいいと思う。原料表記の順番の誤りなどは、店頭で「表示に誤りがありましたが、商品の品質上食べても大丈夫ですので、もし良かったら無料でお持ち帰りください」といったアナウンスをするなど、食べ物を捨てるという無駄をなくす仕組みを考えてほしい。

 ギョーザ事件の核心は、基本的には何も解明されていない。調査中とか、公安当局に没収されているとかいう報道で終わっているものが多い。これだけ時間がたっているのだから、最初の場面で何が起こったのか、あの天洋の工場で何が行われていたか、どんな人たちが従事していたのか、工場には監視カメラが設置されていたと言うが、そこに写っていたのは何か、10月1日、10月20日という国慶節や休みの日の作業でも同じような人が本当に作業していたのかなど、分かっていることは教えてほしい。分からなかったなら分からなかったでそう伝えてほしい。中国警察当局も動く中、現地駐在の方々も国外退去にならない範囲で、地道な調査で内部告発などを含め探し出して少しでも事実の核心に迫ってほしい。

 そうでないと、中国で商品を作る関係者がいくら衛生管理のレベルアップをしても、「でも原因は分からないんでしょ」と中国製造品が軽くいなされてしまう状況は変わらないのである。5000人以上の方が「もしや」と思って申し出をされ、実際は3家族10名(+中国に被害者?)の方が被害に遭われた事件ではあるが、こういうキーポイントが分かっていかないと、この事件を教訓にしたリスクコミュニケーションも進まないのである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)