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斎藤くんの残留農薬分析

市場流通品の農薬の残留実態を理解しておこう

斎藤 勲

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 先週、函館で第95回日本食品衛生学会学術講演会が開催され、初日に飛行機で行こうと思っていた私などは、台風の直撃で1日がかりで函館にたどり着く旅になった。それでも、学術講演会には600名以上の参加者があり、私も多くの発表や議論を交わし、楽しい食事を満喫することができた。そこで私も久しぶりに試験法の開発に関する発表を行ったが、その際、私たちの検査方法で検出した場合、残留濃度の割合がほとんど基準値の10分の1以下で、基準の半分や3分の2といった残留のものがほとんどないのはなぜかという質問があった。それに対し、私は「それなりに意識の高い生産者が適切に農薬使用管理をしていただいている結果ではないか」と答えたが、最近の市販品の実態はどうなっているのかと思い、調べてみた。

 実態を調べるとなると、地方自治体から発表されている残留農薬検査の結果が一番信頼できるもので、東京都のデータなどはよく引用されている。最近は公表に積極的な都道府県も増えてきたが、まだまだ年間検査結果の報告で「違反はありませんでした」といった調子の報告をしている県もある。後から利用できるデータを出してほしいものだ。

 東京都は年度のまとめで報告しており、よく検査結果を利用される代表的な自治体だが、群馬県をはじめ4半期ごとなど細かく報告されている都府県も増えている。今回は大阪府のデータを借りて実態を調べてみよう。大阪府は、残留農薬の検査については主に大阪府公衆衛生研究所が担当している。全国の衛生研究所(略して衛研)の中でも、PCBの毒性や分析研究を始め、伝統と信頼のあるトップクラスの研究所である。また、関西地区はそれぞれの衛研が有機的なつながりを持っているため、結果としてレベルも高くなる。関西の人らしいヒューマンリレーションといえるだろう。

 食品中残留実態は大阪府のホームページでチェックできる。大阪府では年に4回、国産の野菜果実の残留農薬検査し、その結果を毎回40件程度報告している。だが、この検査で対象としている132農薬に、私たちの検査で検出頻度の高い農薬が入ってないことも多いのが残念だ。実際には、大阪公衛研ははるかに多くの農薬を分析できる技術も技量も持っているのだから、他機関での検出状況を参考に、農薬の対象範囲を拡大されることを願う。
 食品からの農薬検出率は、2008年5月から09年7月までの6回の発表で平均約27%となっている。この検出率は、食品としてコメなどが増えれば低下するし、リンゴなどの果物が増えれば増加するので、この結果だけから一概に検出率が低いとは言えない。とはいえ、対象農薬を効果的に拡大することにより、すぐ10%、15%ぐらいは増加するだろう。

 市場流通品から検出された92件の農薬の残留濃度を見てみると、0.01〜0.1ppmの範囲で検出されたものが4分の3、0.1ppm以上検出されたものが4分の1という割合であった。最も大きい値でニラからクレソキシムメチルが0.86ppm検出されているが、それでも基準値は30ppmなので、基準値の30分の1以下の残留だ。残留濃度が基準値の10分の1より大きいものは約10%であり、90%は残留基準の10分の1以下という検査結果であった。私たちだけの結果ではなく大阪府の結果も見てみると、日常的に食べている食品を検査した結果から、基準値の半分や半分以上といった野菜や果物は少なく、以前よりは残留濃度が低いものが多い。適切に農薬が使用されているということだろう。

 そのほかにも大阪府では、輸入農産物も毎回30件くらい検査を行って結果を公表している。08年6月から09年8月まで、7回の検査結果の集計では残留農薬の平均検出率は25%と国内農産物よりもやや低い。内容的にはかんきつ類の防かび剤が高い検出率であり、それを除くともっと低い検出率となる。悪名高き中国産野菜等のデータを取り出してみると、総数100件の検査で農薬検出は14件、すなわち14%の検出率で、検出濃度も基準値の10分の1以下と優秀なものである。先述した全体の検出率の半分くらいであり、残留していても妥当な残留量だ。通常検査では中国から輸入される野菜類は十分管理されていることが分かる検査データである。

 こうした農薬残留のデータを日常的にきちんと理解していれば、主に中国の情報を世界11カ国の支社から発信しているメディア「大紀元時報」の日本版サイトにある、 4月29日付けの報道への理解も進むことだろう。その報道の内容は、国際環境保護団体の「グリーンピース」が中国の北京、上海、広州のスーパーマーケットなどで45サンプルの商品を購入し、山東省青島の国家認証の第3者機関で分析したところ、40サンプルから50種類の農薬が検出され、25の野菜果実から5種類の農薬、スーパーマーケットで購入した5つの野菜果実からは10種以上の農薬残留が分かったという。そうした状況を同記事では、「農薬カクテル」という言葉で表現している。この結果を受け、ウォルマートなどのスーパーでは問題の商品を棚から下ろし、基準値を超えた商品は追跡調査するという。

 4月9日の「グリーンピース中国」のホームページで記事を読んだが、そこにも残留農薬の濃度などは書かれていない。数字がなく、出たことだけを強調する旧来の良くない報道パターンが残っているようだ。こうした記事を読んだ人は「やっぱり中国の商品は不安だ」という意を強くするに違いない。しかし、中国に限らず、日本に輸入されている商品の残留程度を承知しておけば、少しはバランスよくこの報道も読めるのではないだろうか。

 まだまだ中国国内での流通品については、残留農薬など疑いのある商品が結構出回っているのも事実だろう。だが、これから紆余曲折を経て、着実に品質が良くなっていく方向に向かうことは確かである。そういう面からも、日本で多くの経費をかけて検査を行っている国や地方の残留農薬の検査結果をますます有効活用してもらいたい。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)