斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
先週のこのコラムで、広島県の男性が中国製の肉まん食べて体調不良を起こしたところ、製品から殺虫剤のメタミドホスが0.55ppm検出されたというNHKニュースの報道について書いた。「また中国製食品からメタミドホスで健康被害か」との印象を持たれた視聴者も多かったと懸念される。ところが翌日の2月22日、男性が住む広島県の食品衛生室から、男性は食べる前から体調が悪く、メタミドホスによる中毒ではないという「訂正」が発表された。風評が拡大するのを少しでも食い止めたい。ということで、次回の出番を待たずに、この件について続報します。
訂正発表の内容によれば、年配男性が冷凍肉まんを食べたを再確認したところ、男性の思い違いであることが分かたっというもの。男性は肉まんを食べた2月19日の前日からふらつきなどがあったため、急患として医療機関を受診。21日にもふらつきがあったので再受診した際、血中コリンエステラーゼ活性の検査も行った。そこで総合的に判断して、典型的な有機リン中毒とはいえないと判断したのだ。男性の家族や、同一製品を購入した人とその家族も健康被害はなかったのが5人と発表したが、それは7人だった。
NHKニュースで報じた「厚生労働省は残留農薬の可能性もあるとしている」とのコメントのほうが正しい結果だったわけだ。しかし大半の消費者にとっては、最初に健康被害を起こしたギョーザから検出されたメタミドホスが、また別の食品会社の中国製肉まんから出て、健康被害が出たらしい、「クワバラ、クワバラ」といった感じである。今回の肉まんは既に、“有罪判決”を受けてしまったようなものだ。
この事例は、基準値を超えたメタミドホスが検出されたという違反事例のため回収されたが、これを食べたことによる健康影響は見られないというのが結論だ。
この肉まんを製造した会社は日系企業として、中国で冷凍食品を製造している。19日に、同社の肉まんからのメタミドホス検出に続き、翌日の20日には横浜で冷凍カツから有機リン系殺虫剤ホレートが1.2ppm検出され、急遽販売停止、回収となった(昨日の松永和紀さんの「横浜市や厚労省のホレート広報には、大きな問題がある」を参照)。横浜市の発表では、「この濃度のカツを体重50kgの人が5個(125g)食べると嘔吐、めまいなど健康に悪影響を及ぼす可能性があり、食べないでください」と説明している。また、この会社のある大阪市の発表では、「決して食べないでください」と赤字で説明されている。怖い!
こんなものを消費者に食べさせたのか!と怒りが先に来る人は多いだろう。健康被害にかかわる(可能性のある:この部分は消えてしまう)事件を、2つも発生させた会社は原材料管理がぜんぜんなっていないズサンな会社であり、駄目!という評価で、奈落の底に沈んでいく。もし、最初の事例が単なる食品衛生法の基準違反としての報道だったら、だいぶ結果は変わったのではないか。
カツのホレート検出の事例も、「5個食べても健康影響は先ず出ませんが、リスク管理上回収します」という、もう少し丁寧な報道をしていれば、受け取り方はぜんぜん違っただろう。食品業界には報道の仕方次第で、立ち直れないようなダメージを簡単に与えることができるのだ。これが食品業界のもろさであり、安全管理担当者や品質管理担当者は心して対処しなければならない。
この2件については、中国の検査検疫総局も冷たい。日系企業のこの会社では、日本人が品質管理の指導をしているため、原料仕入の品質管理の問題はすべて日本側の責任、とバサッと切り捨てられた。まずは責任の所在を明確にしてから事件に関与する—-。さすが外国人という感じである。
今回の一連の事件や違反事例を受けて、中国から日本へ輸出する製品、特に日系企業には逆風が一段と強くなっている。日系企業では、中国国内で中国の労働者の人たちが一生懸命作ったくれているのだが—-。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)