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斎藤くんの残留農薬分析

「検査体制、自治体任せ」と言われるが…

斎藤 勲

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 これは、3月18日私の地元の中日新聞(関東地区では東京新聞)に掲載された栃木県産イチゴの残留農薬騒動の記事のタイトルである。内容は、検出されたのはポジティブリスト制度の効果だが、それとともに検査項目、検査頻度など各自治体の検査体制の不備など問題点が浮かび上がったというもの。記事の中には、「偶然」「手遅れ」という見出しで内容がまとめてある。「偶然」とは、イチゴを179人の生産者が作っていて、そのうち38人がホスチアゼートを使っており、その中の4人が作ったイチゴが基準を超えていた。それをたまたま新潟市の職員が収去した。「手遅れ」とは、検査結果が遅く食品衛生法違反にもかかわらず回収が出来なかったことだ。

 新潟市の残留農薬検査は、毎月1回5種類(年間だと60検体)の食品について66種類の農薬を調べているという。今回のポジティブリスト制度で約600の農薬にいろいろな基準が設定された。基準のある600に対してたった66種類!ときつく叱らないでいただきたい。何故なら、実際に国内で使って良い農薬はその半分強であり、なおかつ使われる農薬、いわゆる売れ筋は決まってくる。ということは検出される農薬は偏ってくるし、実際に散布された農薬はすべてが残留するわけではなく収穫前2、3カ月以内に散布されたものが検出されることが多い。

 ちなみに、2001年度、02年度の5衛生研究所の検査データを中心にまとめた結果では115農薬が検出されており、約2000サンプルを検査した中で、10回以上検出された農薬は35種類、今回問題となったホスチアゼートは3回の検出であった。

 対象農薬66種類ということは分析機器としてはガスクロマトグラフ・質量分析器GC/MSという機器を用いて検査しているのだろう。機器の入り口の部分が240度位に加熱されており、その温度で気化する農薬が分析対象となる。そこで壊れたり、気化しない農薬は測定できないことになる。

 GCでは農薬の項目としては多分300種類を超える農薬が分析可能であろうが、近年良く使用されるネオニコチノイド系殺虫剤はGCが苦手である。ほかにも、困った話だが公園などの毒餌で新聞記事となるメソミル(商品名ランネート)、家庭でもよく使われる殺菌剤のチオファネートメチル(商品名トップジンM)、ジチオカーバメート系殺菌剤(マンネブ、ダイセンなど)なども、誘導体化などしなければ、液体クロマトグラフLCでの検査となる。ここ2、3年急激にLCの検出器に質量分析器をつけたLC/MS、LC/MS/MSが普及し日常業務での検査項目の拡大が進んでいる。しかし、まだまだ高価である。

 残留分析は、GCの発達とともに、有機塩素系農薬、有機リン系農薬、ピレスロイド系農薬など殺虫剤分析を中心に進んできた。それは、残留性、中毒毒性などリスクのある農薬をモニタリングする上では妥当な選択であった。また、97年に局長通知で「残留農薬迅速分析法の利用について」(H9.4.8付衛化第43号)が出され、この方法を用いて多成分を一括して迅速に分析してもよいことになった。

 それまでは農薬は個別試験法が法律文に決められており、正式にはその方法で検査結果を出さないと駄目であった。法律である以上変えることはなかなか難しい。66種類の農薬の検査をやろうとすると、40回くらい検査(一部グループでの検査がある)をしない正式な検査結果が出ないということである。正直なところ業務は回らない。何をやるかというと自分たちで一斉分析法を考案し、精度管理しながら残留農薬モニタリングを行うのである。

 基準超過となる事例(92年までは26農薬にしか残留基準がなく、また基準が設定されている食品数が少なかった。当然基準がなければ違反はない)が発生した場合は、告示分析法で再検査を行い検査結果を出すというやり方であった。コンプライアンス上は?だが、実態はそうであった。

 それが、99年の課長通知(H11.10.1付衛食第131号)で大きく変わった。当時91((3)から(93))の告示試験法が食品衛生法に記載されていた。それに、(94)試験法として「それぞれの農薬の成分である物質に対応する試験法と同等以上の性能を有すると認められる試験法」で検査をしてもよいということを追加したのだ。これによって、それぞれの検査機関が創意工夫して改良している適切な試験法で検査結果を出すことがはれて認められたのである。

 そういった紆余曲折を経て、不検出基準の項目以外は告示分析法から外れて、通知分析法へと移行し、LC/MSを用いた一斉分析法までもが記載され、個別分析法もどんどん追加されている。昨年5月のポジティブリスト施行に伴い、こういった法整備、検査法の整備も進み、それを現実にどう運用していくかである。

 地方自治体の衛生研究所、衛生試験所がその担い手である。消費者からの期待は大きいが、現実は担当者が実質1人で予算も人員も削減されているところが多いのが実情である。異動で新しい担当が来たらお手上げである。日常検査をきちんとするためには、定期的な精度管理による検査法の適正を絶えずチェックしている必要がある。

 それは検査件数には表れない。分析機器は結構故障するものであり、特に担当が変わったり、検査方法を変えたりしたときのトラブルが多い。その間は仕事が出来ない。それを繰り返し悩みながら少しずつ慣れて成長していくのである(慣れた頃また転勤してしまうのが惜しいが)。

 検査機器、人員、予算、検査環境に恵まれない中、外部の情報(残留農薬の検出頻度、農薬使用状況など)を積極的に収集し、その中で自らの能力でどのあたりまで検査可能か落ち着いて進めていってほしい。ただ、検査項目は使用頻度、検出頻度の高い農薬を中心に100項目は今の時代ならやってほしい。

 日本国内の残留農薬の現状では、危険なものがあると想定して排除するモニタリングではなく、適正な農薬使用がなされていることを検証するモニタリングでも残留農薬検査は十分有効である。要は今回の栃木のイチゴのように、ホスチアゼートの不適切な使用方法が存在したことをみんなが情報として共有化し、今後の改善に活かすことである。そのための検査なら継続的な検査として意味がある。

 違反を探すだけならコストパフォーマンスが悪すぎる。その目的なら、検査は確かにけん制効果はあるが、止めても食品衛生上のリスクはそれほど変わらないだろう。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)