斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
以前テレビで、温州ミカンが米国では、オレンジなど違い手で皮をむいて食べられる柑橘類として、「TVオレンジ」の名前で人気があると伝えていた。ミカンは最近の若い人たちにはあまり人気がないが、柑橘類の中では簡単に皮が剥けておいしい食べ物である。そのせいか、みかんは農薬検査のときも皮をむいて中身を検査する。だったら、バナナの検査もお猿さんも食べない皮はむいて検査すればいいのではと思ってしまう。
私たちが日常的に農薬検査を行う場合、食品として流通している形で検査をするのが基本である。法律では、あまり食べることを意識して検査の分析部位を決めていはいない。みんなが適当な方法で分析部位を取ったら検査結果はバラバラで判断できない。そのため、それぞれの食品で分析する部位をきちんと決めている。
コメ、コムギの場合は玄米、玄麦で、葉菜類は痛んだ葉を取ったもの、ダイコン、ニンジンは泥を水で軽く洗い落としたもの、リンゴ、ナシは芯および枝がついた基部の部分をとったもの、柑橘類はミカン以外は全体を、トロピカルなものはへたや種子、つけ根の部分を除いたものなどが基本である。
しかし、先ほどのミカンやモモ、ビワ、キウイ、スイカ、メロンなどは皮をむいて検査する。スイカ、メロンはまあ納得できるが、ほかのものは「ん?」という感じだ。それならバナナの皮をむかないで検査をするというのは、もっと「ん??」だ。
輸入バナナが最初に日本に着いたときは、表面は青く、硬い。これでは熟したバナナのように、簡単に皮がむけるようなものではない。皮になる部分と果肉がはっきり分かれていないので、どこまで包丁で取ればいいのかも分かりにくい。青いバナナは全体が分析部位というのはまだ納得がいく。浸透性殺菌剤が残留している熟したバナナの皮と実に分けて検査してみると、果肉(実)には約1割くらいが残留しているかなという感じである。バナナの検査で若干の基準超過があれば回収廃棄されるが、実際に食べる部分の健康リスクはそれほど問題ではないことが理解できる。
皮(大部分の農薬がこの部分に残留)をむいて検査するミカンと全体を検査するオレンジで基準値を比較してみると、従来からの残留基準では、ミカンの基準がアセタミプリド、カルバリル、フェニトロチオン、フェンバレレートなどでは5分の1から10分の1と小さいものも多くあるが、アセフェート、イプロジオン、クロルピリホスなどはほぼ同じ数値となっている。今回暫定基準で設定された農薬は、ほぼ同じ基準のものが多い。逆にプロシミドンなどはみかんのほうが高い基準値になっている。
歴史的に見てこういった分析部位となってきたのにはそれなりの理由があるとは思われるが、残留基準値が分析部位の違い、加工ファクターを考慮したものとなっているとは必ずしも思われず、そういった矛盾を抱えて今の残留基準の数値が設定されているのだということを、みんなが共通認識として持つ必要がある。当然、有利な食品、不利な食品が存在しているのが現状である。
個人的には、食品衛生法での残留農薬検査の分析部位は、「そのほかの野菜」や「そのほかの果実」の分析部位となっている「可食部」という言葉が好きである。みかんは当然皮をむいて食べるので今のままでよい。オレンジ、グレープフルーツもマーマレードを作る以外は通常皮を使わないのでむいた状態での検査でも良い。レモンはスライスして使うこともあるのでそのままで検査。バナナは皮をむいて、パイナップルもメロンのように食べる部分だけ(今はつけ根以外は全体)など、普通の可食部を想定した検査結果で評価するほうが理にかなっているし、消費者にも分かりやすい。
ナシでも通常は皮をむいて食べるが、全体で検査をした場合は皮の部分に大部分が残留していることは情報として知らせておくなど、もっと消費者の感覚に近いところでの検査データを集積して情報提供すべきではないだろうか。どんなものに気をつけたらよいか消費者自身が自覚できるようになるだろう。適切な検査情報とは検査したものの安全を伝えることではなく、自分で選択できる判断できる情報を伝えることである。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)