斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
当然いつかは出るポジティブリスト施行後の一律基準違反第1号は、神戸の輸入業者が5月15日に輸入した中国産スナップエンドウに決まった。検出された農薬は殺菌剤のフルシラゾールが0.06ppm。国内登録はないが食品衛生法に穀類や果物などで残留基準が設定されている。当然、豆類、葉菜類では基準がなく、一律基準0.01ppm適用となり、違反である。
6月6日付輸入食品安全対策室事務連絡で中国産未成熟エンドウのモニタリング検査の強化(50%の検査頻度)が述べられている。6月9日付け農業新聞によれば、14800ケースが輸入され、3300ケースが販売され後は倉庫に保管中とか。神戸市は同社に回収命令を出すとともに販売先のある自治体に回収の協力要請をしたとのこと。
いつかは来ることであり大変なことだとは思う。しかし、申し訳ないがあまり同情は出来ないのである。何故か?
「食品衛生研究」3月号の厚労省監視安全課宇野真麻さんの2005年度前半の輸入時検査における農薬検出状況の報告があり、皆さんが良く引用されている(学会誌ならインパクトファクターが高い?)。基準超過の農薬検出があった輸出国、食品、その農薬名が表になっており、概要説明、考察が加えられている。特にこの報告で注目されたのはポジティブリスト制度施行により、新たな基準を適用した場合の基準超過が述べられていることである。
国別で見ると、輸入量が多い中国、台湾、タイが別格で多く、単純に従来の基準での違反と新たな基準での違反を比較すると、中国は6.7倍、台湾21倍、タイ6.3倍と増加する。食品ではマンゴー、スナップエンドウ・未成熟サヤエンドウ、セルリアック、ネギ、枝豆、コーヒー豆と続いており、台湾産マンゴーはシペルメトリン13件、フルシトリネート7件の暫定基準違反が多い。
次に、今回問題となったスナップエンドウは2番目に位置している。新たな基準違反項目は基準のないジフェノコナゾール2件、フルシラゾール2件、暫定基準のメタミドホス1件となっている。このようにとても親切に輸入時検査での違反の可能性のある農薬の現状を説明しているのである。
この報告の中でも、厚生労働省の基本的考えであろうが「食品への農薬の残留は基本的に生産段階における農薬の適正使用が重要であり、輸入業者等においては、輸出国の生産者と広く情報交換を行い、生産現場での農薬の使用状況などを把握することが重要である。生産地が海外である輸入食品は、栽培時の使用農薬や使用方法がわが国と異なり、容易に実行することが難しいと思われるが、今般の制度改正を機に、これまで以上に生産現場と連携をとることが重要であると考える。」と述べている。
これほどまでに、細かいデータを示して、輸入業者の留意点を説明し、厚生労働省(検疫所)が何をどうやろうとしているのか。それに対して輸入業者の皆さん、よろしくお願いしますよと頼んでいるのである。つまり、「中国産のスナップエンドウのフルシラゾールは危ないですよ。重点的に検査をしますよ」と伝えているのである。
この「食品衛生研究」の情報は、当然輸入業者の方たちには伝わっているはずである。こういった情報を知らないで、今回のポジティブリスト制度施行の中で中国、東南アジアから野菜果物を輸入するのは、「いくら何でも何でも」である。自分の身は自分で護る。そのために出来ることは最大限の情報収集と解析である。それがなければ、「食品衛生研究」で宇野さんが述べた基準超過違反予測の中国6.7倍、台湾21倍などが現実のものとなってしまう。それを誰も望んではいない。
このように口をすっぱくして「やりますよ。やりますよ」といっているところにノコノコと出て行くのはいかがなものかと思うが。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)