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株価戻しているMonsanto社〜ナタネで握手、コムギに回帰、トウモロコシの攻勢

宗谷 敏

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 2009年6月25日、中国産ジェネリック製品に押された除草剤Roundupの販売不振(種子部門は依然好調)による第三四半期の業績悪化から、米Monsanto社は株価を下げた。ところが、このところMonsanto社の株価がじりじり戻してきている。投機筋やメディアが注目した最近の同社プレス・リリース3本を、今回は取り上げる。

<ナタネで握手編>

 09年6月29日、Monsanto社と独Bayer CropScience社は、除草剤耐性GMカノーラ(ナタネ)におけるクロスライセンスに調印した。08年のカナダにおけるカノーラの作付け比率は、Monsanto社のRoundup Ready 45%、Bayer社のLibertyLink 41%でGM小計86%、独BASF社の突然変異技法によるClearfield 13%を加えた除草剤耐性種中計99%だから、在来種はわずか1%に過ぎない(カナダナタネ業界調べ)。

 この合意により、Monsanto社とBayer社は、お互いの耐性を有する農薬グリホサートとグルホシネートに耐性を有する種子の開発が相互に可能となる。2つの除草剤に耐性を併せ持つスタック(掛け合わせ)品種が登場すれば、生産現場に影を落としつつあった耐性雑草の発生問題をかなり先送りすることができるから、相互の製品のライフスパンを伸ばせるだろう。

 GM品種の複雑な規制を免除されているClearfieldも一定のシェアは残るだろうが、カナダカノーラの場合もう除草剤耐性は当たり前のスペックとなり、反収を上げるハイブリッド種の開発に勝負が移ったと考えて良い。これを見て、GMカノーラ商業栽培元年のオーストラリア各州が、どう動くかは今後興味深い。

 ところで、カナダのナタネ業界は、7月15日にもう1つの嬉しいニュースに接する。03年以来6年に及んだGMO承認の遅れを巡るEUとのWTO紛争が終結(米国とアルゼンチンは継続中)したのだ。カナダがWTO提訴を取り下げる代わりに、EUは「市場アクセスを改善し、不要な貿易障害を避けるために」バイオテクノロジーに関する2国間定期協議の年2回開催を確約したと伝えられる。

<コムギに回帰編>

 04年5月10日、Monsanto社は97年以来開発中だった除草剤GMコムギの計画を中止すると発表した。北米産コムギ輸出先のEUや日本からの逆風の嵐に屈した格好であった。以後のGMコムギを巡る情勢は、 スイスSyngenta社 やBASF社 などの動きも絡めて度々本稿でも取り上げてきた が、Monsanto社の姿勢は一貫して慎重そのもの であった。

09年7月14日、そのMonsanto社が、コムギ遺伝資源を専門に扱う米WestBred社の買収を突如発表する。4500万ドルの買収劇の意味するものは、Monsanto社が自社のトレイトを載せるプラットフォームを獲得したということだろう。最近、持続可能性を標榜する同社の狙いは、反収向上と干ばつなどの環境ストレス耐性に重点を置き、開発技術もGMに限定されたものではない。

 風向きの変化を察知し、ビジネスチャンスをとらえるのは企業のイロハだが、やはり09年5月14日の主要輸出3国共同声明 のインパクトは大きかったのだろう。もちろんあちこちから反発は出ているものの、5〜6年前のヒステリックな狂乱振りに比べたらかわいいものだ。

 見逃されがちだが、Bayer CropScience社も素早く動いた。09年7月21日付報道 によれば、コムギ新品種開発の世界的リーダーであるオーストラリアのCSIRO:Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisationとの長期的提携を公表している。

 干ばつに喘ぐオーストラリアでは、干ばつ耐性(GM)コムギ開発は焦眉の急だし、大義名分は充分だろう。もし、いち早く商業化に踏み切れば、Monsanto社などにとっては格好の露払いとなる。また、カナダ、米国と共に3国共同声明を同時商業化にまで拡大し、毛利元就3本の矢の教えを実践するなら、反対派にとっては同時多発テロの悪夢となる。

 いずれにしろ、これらのシナリオはまだ先の話だ。これに比べれば、次のスーパーGMトウモロコシ商業化は早くも来年起きることになっている。

<トウモロコシの攻勢編>

 09年7月20日、Monsanto社と米Dow AgroSciences社は、GM掛け合わせトウモロコシSmartStaxが米国環境保護庁(EPA)とカナダ食品検査庁(CFIA)の規制をクリアし、2010年からの両国における種子販売と商業生産が可能になったと発表した。

 SmartStaxは、07年9月14日の両社技術提携による賜物で、掛け合わせの結果8つもの形質を併せ持ち、現時点では最も完成度が高いと見なされている。両社から投入された技術は、除草剤耐性としてMonの(1)「Roundup Ready」、Dowの(2)「LibertyLink」(独Bayer社からライセンス)、害虫抵抗性としてMonの「YieldGard VT Rootworm/RR2」((3)コウチュウ目抵抗性)および「YieldGard VT PRO」((4),(5)チョウ目抵抗性x2)、Dowの「Herculex 1」((6)チョウ目抵抗性)および「Herculex RW」((7),(8)コウチュウ目抵抗性x2)である。

 米国における09年のトウモロコシ栽培面積は8700万エーカーだが、初年度の2010年には、300万〜400万エーカーのSmartStax委託販売を見込み、今後5〜6年で5000万〜6500万エーカーに、とMonsanto社の鼻息は荒い。

 害虫抵抗性GMトウモロコシを栽培する場合には、耐性害虫発生抑止のために非GM作物を20%作付けしなければならない。しかし、米・カ両国の規制当局が、SmartStaxに対しては、refuge を5%で良いと同意したことは注目される。この結果、5〜10%の反収増加が見込まれるのも強気の理由だ。

 ただし、同じ反収増加を売り物にしたGMダイズRoundup Ready 2 Yieldの場合は、種子価格が在来種の3.5倍、従来のRoundup Readyダイズの1.75倍とかなり高価なために採用に踏み切れない農家もあるようだ。トウモロコシとは一概に比較できないが、スタック8倍、価格は4倍くらいで売るのだろうか。

 また、Monsanto社がSmartStaxの展開を急ぐのには、(GM)トウモロコシ種子販売における米DuPont社と米Pioneer Hi-Bred社連合の牙城を崩すという重要な狙いもある。Dupont連合のSmartStax と同様refuge削減、反収向上をコンセプトとするAcreMaxやSyngenta社も開発中の新製品が販売される前に先手必勝と行きたいのだ。

 ともかく最近のGM種子開発は、各社の技術協力と訴訟敵対が複雑に絡み合って、昨日の敵は今日の友、右手で握手しながら左手は拳という、なんとも余人には分かりにくい構図を描き出している。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)