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GMOワールド

ゲームで勝てないならルールを変えろ!〜混迷続くEU

宗谷 敏

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 2009年6月25日、ルクセンブルグにおいて開催された欧州環境閣僚理事会で、オーストリアはGMOの栽培(禁止)や規制に加盟国の自治権を認める要求 を提出した。一方、EFSA(欧州食品安全機関)GMOパネルは、10年の域内栽培承認期間が切れたMON810系統に対し、安全性を再評価した結果、再承認(欧州委員会の専権)に問題はないとの意見 を09年6月30日に公表した。

http://www.gmo-compass.org/eng/news/453.docu.html
TITLE: EU countries should be able to ban genetically modified plants
SOURCE: GMO Compass
DATE: Jun. 25, 2009

 欧州環境閣僚理事会にオーストリア代表団から提出された意見を支持しているのは、ブルガリア、アイルランド、ギリシャ、キプロス、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、マルタ、ポーランドおよびスロベニアの諸国であり、さらにルクセンブルグとオランダもこれに与する。

 その主張は、「適切な社会経済学の見地から、個々の加盟国の領土全体または特定地域に、個々の加盟国がGMOの栽培を禁止するかまたは独自に規制する根拠を形成できる」というもので、これに沿ったEU法の改正を要求している。

 この場合、従来のEUにおけるGMO安全性承認の基準である科学的評価とは別の側面を持つ「社会経済学の見地」というところがミソだ。この考え方は、昨07年10月から議論が始まり12月からGMO栽培禁止に踏み切ったフランスが捻り出した理屈 である。

 現在のEU規則では、加盟国がGMO(具体的にはMON810)を栽培禁止にするためには、その安全性に対する疑いを支持する合理的な科学的調査結果を示した場合のみに限定される。この正面突破に挑んだ加盟国のことごとくは、提出した証拠の科学的正当性をEFSAによって論破・否定されてきた。

 上記フランスの記事に見られるように、反対勢力は、EFSAの牙城を崩すために様々な揺さぶりをかけてきたが、効を奏してはいない。科学の土俵ではどうあがいても勝ち目がないのなら、社会経済学という場外乱闘に持ち込んで大枠のサウンドサイエンスに風穴を明けてしまえ、ゲームで勝てないならルールを変えちゃえ、というのがオーストリアグループの試みなのだろう。

 仮にオーストリアの要求が通っても、複雑なEU法体系の一部をいじるのは大変なことだ。さらに、SPSやWTOを持ち出すまでもなく、欧州委員会を立てて最近大人しく寛容に徹している米国陣営も黙っていないだろう。なお、欧州環境閣僚理事会では、オーストリアからの要求が提出されたのみで、本件に対しなんらの結論にも至っていない。

 さて、その目の仇にされているEFSAはというと、
http://news.yahoo.com/s/afp/20090630/hl_afp/eufarmenvironmentbiotechgmo
TITLE: GMO maize strain safe: EU food agency
SOURCE: AFP
DATE: Jun. 30, 2009

 米国Monsanto社の害虫抵抗性GMトウモロコシMON810系統は、域内全体で商業栽培が承認されている唯一の品種だ。しかし、ドイツ、フランス、ギリシャ、ハンガリー、オーストリアおよびルクセンブルグは、環境影響面でのセーフガード条項(緊急輸入制限条項)などを楯に抵抗し国内栽培を実質禁止している。WTO裁定履行に必死の欧州委員会による解除要請も環境閣僚理事会のブロックに遭い、これらの国々には馬耳東風である。

 MON810系統の域内栽培承認は98年に遡り10年間の時限措置であるため、この10年に得られた新たな科学的知見に基づく更新が必要とされていた。種々の科学的データをレビューすることによって、MON810系統は食料と飼料のために従来のトウモロコシと同じく安全であると、EFSAは結論した。

 同時に、環境面なかんずくBt タンパク質の非標的昆虫への影響に関してもレビューした結果、こちらも安全であると評価した。EFSAが評価した内容には、その都度反対派が大騒ぎした水棲昆虫トビケラ、ミツバチ、ミミズなどへの悪影響の指摘も含まれている。オオカバマダラチョウやガなど鱗翅目に対する影響は当然認められるが、フィールドでの可能性は確率的に意味をなすものではないというのが最終結論である。

 リアクションは様々だが、EFSAによるこの再評価の重要性は、単にMON8101つだけの問題ではない。なぜならEU抵抗勢力の一部は、GM技術の全面禁止を明らかに視野に入れているからだ。「EU農民のためのエキサイティングなマイルストーン」とMonsanto社が喜べば、Friends of the Earth Europeは「EFSA の科学者を解雇しGMO パネルは解散させ、GMO のリスク評価を真に独立した有効な組織に移すべきだ」と激怒する。

 また、このMOM810再評価結果を暫定禁止措置延長の1つの条件にしていたフランスは引っ込みがつかず、EFSA報告を拒絶するという声明を09年7月4日(AFP)に出した。EFSAによる査定方法をレビューすることを求めた08年12月4日の環境閣僚理事会議決が全く満たされていないというのが、その理由だ。

 欧州委員会は、MON810系統の今後10年にわたる栽培再承認作業にかかるだろう。いつもの現行制度内デフォルト承認に頼るとしても、既存の承認制度そのものの改革を求める諸国や環境閣僚理事会の反発は激化しており、今までにも増して難航が予想される。

 しかし、長い夏休みに入り、それが明ければ現欧州委員会の任期切れ(09年10月31日)までは間近だ。EUではGMO論争の時間がゆっくり流れる。科学は尊重されず政治的駆け引きに明け暮れるものの、緊急性は全くないのだ。GMO のリスクなど所詮はその程度のものだ、と考えたら不謹慎だろうか。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)